新幹線の中で東京イキリ社長達が博子達のお手当の話し合いをする。博子からの返信メール。まだ球持っているみたいで笑う
帰りの新幹線で、ようやく少し落ち着いた空気になったところで、
三人は博子たちへのお手当ての話をし始める。
今日一日は、昨日みたいなアフターもなかったし、日曜日は完全に男三人で勝手に遊ばせてもらった。
そう考えると、昨日のオーパスワンも含めて、どういう形で返すのが一番きれいやろうな、
という話になる。
幹事社長が、スマホを見ながらぽつぽつ整理する。
「日曜日なかったしな。」
「そうやな。」
「でも、博子ちゃんには、この気づきで五万プラスかな。」
横の社長がすぐに頷く。
「うん、それはある。」
「で、あとは、いつも接待してくれて楽しかったのが十で。」
「自由度もあったしな。」
「で、早めに帰らせたのが五やから……。」
「ほうほう。」
「さきちゃん、アルカちゃんが十五。博子ちゃんが二十。っていうところで、
とりあえずメールするわ。」
その振り分けを聞いて、残りの二人も「ええんちゃう」と頷く。
派手すぎず、でも雑でもない。
日曜がなかったことも織り込みつつ、土曜の満足感はちゃんと反映している。
その感じがちょうどよかった。
で、イキリ社長はもうひとつ付け足す。
「で、俺の方は、奨学金肩代わりの件で。」
「ああ、そっちやな。」
「今週動いて、めっちゃ即断即決したことで、社員たちからめちゃ感謝されたし、
気分良かったから二十払っとく。」
その一言で、他の二人が「おお」と少し声を上げる。
ただの遊びの礼やなくて、ちゃんと“動いた案件”への返礼として、別で二十。
それは博子にとってかなり刺さるやろうな、と誰もが思う。
「多分、費用対効果で言ったらもっと払わなあかんねんけど。」
イキリ社長は、そこで少し苦笑いする。
「とりあえず今、話が動いた。で、実際の数字はちょっと追っかけながら見ながら、
その成果見ながら払うっていう形かな、って。」
「それでええやろ。」
「ちゃんと筋通ってるしな。」
「遊びの礼と、仕事の礼を分けるの、わかりやすいし。」
そう言ってまとまったので、イキリ社長は新幹線の中でそのまま博子宛にメールを打つ。
文面は、そんなに気取ってない。
でも、ちゃんと伝わるようにはしてある。
・土曜の流れが良かったこと。
・日曜は自分らで遊ばせてもらったこと。
・お手当ての配分。
・奨学金の肩代わりの件で、今週かなり気分よく動けたから別枠で二十置くこと。
・成果報酬については、また後日談見ながら、ということ。
その辺を、だらだらしすぎずにまとめて送る。
送ったあと、横の社長が少し笑う。
「お前、だいぶ色々やってもらってるやん。ずるいぞ。」
イキリ社長も笑う。
「お前もやってもらったらええやん。」
「その辺のコンサル、別で多分やってくれるで。」
「またちょっと考えて相談してみようかな。」
「やっぱ、きっかけなかったら難しいんよな会社内は。」
三人ともそこは少し真面目になる。
社内制度を動かすとか、福利厚生をいじるとか、そういう話は、普通は下から上がってきにくい。
下の者が上に提案するには、角が立つこともあるし、そもそもそこまで資料を作る余裕もない。
だから、ああいう変な球を、外からポンと投げてもらえるのは、確かに大きい。
「そういう話って、やっぱ下のもんが上に上げてくれるって、なかなかないしな。」
「せやねん。」
「だから、あの子の持ち込み方はやっぱおもろいわ。」
「おもろいし、腹立つぐらい刺さる。」
そんなことを言いながら、三人は缶コーヒーやらお茶やらを飲みながら、東京駅に近づいていく。
しばらくして、一時間ほど経った頃に博子から返信が来る。
幹事社長がそれを開くと、文面はやっぱり博子らしかった。
まず、お手当てありがとうございます。。それに関してはまたさきちゃん、アルカちゃんにも
言うときますし、昨日のオーパスワン、すごい感動しました。
私も感動したし、多分二人も感動してると思います。
また来られる時には、また丁寧にやらせてもらおうと思ってますのでよろしくお願いします。
そこまでは、まあ素直にありがたい返しやった。
けれども、そのあとにちゃんと“追伸”がついている。
奨学金の肩代わりの件に関してもありがとうございます。
実はまだ私、球何個か持ってるんで、もしご興味あれば披露する機会あれば、私も話出しますし、
詳細な資料作りに関しても言っていただいたら対応しますので、またよろしくお願いします――。
そこまで読んだところで、イキリ社長は思わず声を出して笑った。
「またあいつ球投げてきよったな。」
「何て?」
「全然終わらせる気ないやん。」
横の社長二人も、その文面を見せてもらって笑う。
「ほんまや。」
「すごいな。」
「礼を言って終わるんじゃなくて、次の球差し込んでくるの、あれやな。」
「営業力あるな。」
「営業というか、ほんまにああいうの好きなんやろな。」
イキリ社長は、その文面を見ながらしみじみ思う。
二週間連続で行ってる。
それでもまだ、なんか次がありそうな感じにさせてくる。
しかも、別に「また来てください」一本じゃない。
博多でもええ。北海道でもええ。関東近郊で軽く風呂でも入りに行くでもええ。
とにかく“次の遊び方”を、またこっちに考えさせる感じがある。
「わしなんか、二週間連続で行ってるからな。」
「そうやな。」
「ちょっと今度は、九州博多行くでもよし。関東近郊で軽く風呂でも入りに行くのもよし。
ちょっと考えようかな。」
「どんどん広がるな。」
「でも、その気になるんやろ。」
「なる。」
新幹線が東京駅に着き、三人はホームで降りる。
そこで自然と、じゃあまたな、という空気になる。
土曜の分のメールも送った。日曜の探検もやった。
次の種ももう蒔かれてる。だから、別れ方もどこか気持ちいい。
「ほな、また。」
「おう。」
「今度は何行くか、ちょっと考えとくわ。」
そんな話をしながら、東京駅で男三人、それぞれ別れていく。
でも、頭の中にはまだ大阪京都の余韻が残っていて、しかもその余韻の中に、
博子の“まだ球あります”という追伸が、妙に引っかかっていた。




