夢ゴリラでおすすめの穴子の一本天ぷらとハマチのカマ焼きを頼みながら周囲の様子をうかがう。結局めちゃくちゃ美味いんか―い(笑)
夢ゴリラで瓶ビールを飲んでひと息ついていると、壁に貼ってある短冊のおすすめが目に入る。
穴子の一本天ぷら八百八十円。ハマチのかま焼き六百八十円。
その文字を見た瞬間、三人とも顔を見合わせた。
「これ、いっといた方がええんちゃうか。」
「いっとかなあかんな。」
「かま焼きは時間かかるやろうけど、逆にそれがええわ。」
そう言って店員さんを呼ぶと、ぶっきらぼうな調子で
「かま焼きは十五分ぐらいかかりますけど」と返ってくる。
でも、その感じすらこの店ではなんとなく味に見える。
「あ、ええでええで。」
「全然待つ待つ。」
そんなふうに軽く返して注文すると、じゃあその間どうするかという話になる。
「だし巻きでも食いながら待つか。」
それが正解やった。店員さんは三オペで、めちゃくちゃ回している。
カウンターの中を行ったり来たりして、焼いて、注いで、下げて、注文聞いて、また戻って。
それを見ていると、ちょっと心がきゅっとなる。
この最低人数のオペレーションで回しまくってんのに、ちゃんと笑顔もある。
ガンガンやってんの偉いなと、三人ともどこかで思っていた。
しかも不思議なことに、店の中の客も全然荒れていない。
あっちゃこっちゃでガチャガチャ喋ってるし、酒も入ってるし、
賑やかは賑やかやねんけど、誰も「まだ来えへんのか」と不機嫌にはなってへん。
食べ物を急かすでもなく、店員に圧をかけるでもなく、みんなそれぞれ勝手に飲んで、
喋って、待っている。
「なんか、ええな。」
イキリ社長が、瓶ビールを持ったまま言う。
「こうへんからって不機嫌になる人、おらんやん。」
「安いからみんなわかってるんちゃう。」
「それもあるやろうな。」
「ま、焦るんやったら、そもそもこういう店来ぃひんしな。」
そんなことを言いながら、向かい側の店を見たら、そっちは結構ガラガラやった。
こっちは並んでて、こっちは空いてる。
たったそれだけで、地元の人の評価がもうえぐいぐらい出てるんやなというのがわかる。
「この辺、ほんまに格差えぐいな。」
「地元の人、容赦ないんやろな。」
「わかりやすいわ。」
そんな話をしているうちに、だし巻きが来る。見た目からして、もうええ。
湯気がふわっと上がって、箸を入れたらちゃんと出汁がにじむ。
一口食って、三人ともほぼ同時に言う。
「いやいや、三百八十円かと。」
「三百八十円でこのうまさはえぐいな。」
「これは反則やわ。」
しかもその流れで、今度は穴子の一本天ぷらが出てくる。
皿を見た瞬間、また笑いが起きる。
「いやいやいや。」
「皿から溢れとるやないか。」
「これ一本か。」
名前の通り、ほんまに一本そのまま来る。
衣の立ち方も良くて、しかも食ったらまたうまい。
重たすぎず、でもちゃんと穴子の感じが残ってる。
「えぐいな。」
「とんでもない店選んできたな。」
「夢ゴリラ、名前だけかと思ったら全然ちゃうやん。」
食べログをちらっと見た社長が言う。
「三・五超えてるやん。」
「立ち飲み屋で三・五超えるか。」
「そら人気店やろな。」
後ろでもまだ人が並んでいる。
それを見て、三人とももう完全に納得している。
これはたまたまじゃない。ちゃんと選ばれてる店や。
博子が最後にここを挙げた意味も、だんだんわかってくる。
「いや、来て良かった。」
「最後ここで締めるの、正解やな。」
そんな話をしながら食っていると、十五分ぐらいして、
ハマチのかま焼きが出てくる。それを見た瞬間、また全員ちょっと黙る。
でかい。シンプルに、でかい。六百八十円という値段と、目の前のサイズ感が、
頭の中でうまく噛み合わへん。
「ハマチのかま焼き、めちゃくちゃでかいよ。」
「これ、六百円台やろ?」
「これだけで腹いっぱいになるやろ。」
箸を入れると、脂の乗った身がほろっと取れる。
しかも塩加減がまたええ塩梅やった。濃すぎへん。
でもちゃんと酒が欲しくなる。
ビールとも合うし、さっきまでのだし巻きや天ぷらとも喧嘩してへん。
「いやいやいや。」
「これ、もう帰りの新幹線で爆睡できるやろ。」
「腹いっぱい食ってるし、ビールも飲んでるしな。」
「まあ、帰りの新幹線、コーヒーでだらだら飲むのも悪くないな。」
そう言いながら、三人ともかなり満足した顔になっていた。
安い。うまい。雑多。でも、その雑多さの中にちゃんと芯がある。
昨日のヒロコの言うてた「完成品だけじゃなく、自分らでもピースを埋めろ」という意味が、
ようやく身体でわかった気がする。
で、会計して、夢ゴリラを後にする。
腹は十分。酒もほどよい。歩き出す足取りも少しゆるい。
梅田の地下のごちゃごちゃした感じすら、今はもうちょっと愛着を持って見えている。
昨日の京都も良かった。今日のこの地下迷宮も良かった。
大阪京都、まだまだ掘れるなと、三人ともなんとなく思いながら、次は新幹線のホームへ向かう。




