日曜日。東京イキリ社長。大阪梅田地下の第一ビルから第四ビルまでを探検しに行く。さしすからハイボール50円の店へ
日曜日。東京イキリ社長は、気持ちいい朝を迎えていた。
昨日の、京都の九百八十円日本酒飲み比べからの、サンダーバードからの、
店でオーパスワンを開けるっていうあの流れが、久しぶりに「今日はよう遊んだな」と
思える一日やった。
六本木や銀座では考えられへん、低価格でうまいものと、高価格の本物を、同時にきれいに味わった。
しかも余計な煽りもなく、変な気疲れもなく、気持ちよく金を使えた。それが何より良かった。
「なかなか満足感ある一日やったな。」
そう言いながら、ホテルで軽めの朝ごはんをつまむ。
今日は帰る日ではあるけれど、その前に昼過ぎぐらいまでは飲んでから帰ろうと思っている。
だから朝飯は少なめ。昨日あれだけ食って飲んでるし、それでちょうどええ。
他の社長二人も、だいたい同じようなテンションやった。
朝からがっつりではなく、でも完全に抜くわけでもなく、胃を整えるぐらいの感じで済ませて、
昼の探検に備える。
三人で梅田駅に降り立つ。
荷物をコインロッカーに預けて、第四ビルの方へ向かう。
そこに向かうだけでも、もうちょっとテンションが上がる。
「いやいや、ちょっとワクワクするよな。」
イキリ社長がそう言うと、他の二人も頷く。
「梅田の地下ってほんまに迷路みたいやな。」
「東京も大概やけどな。」
「でも、梅田は梅田が三つぐらいある感じするわ。」
「阪急阪神JRで、なんか駅めっちゃあるやん。」
「地下、ほんま迷路やしな。」
そんなことを言いながら、朝の十一時ぐらいに、第四ビル、第三ビルあたりへ入っていく。
まだ全体が全開ってわけではない。
ぼちぼち店を開けてたり、まだ準備中やったり、十二時からかなという感じのところもある。
でも、その中で、もうぼちぼち人が入ってるところが見かけられる。
その“まだ全開じゃないけど、動き始めてる”感じがまた面白い。
で、まずは博子に教えてもらったさしすの方へ向かう。
行列とまではいかないけど、もう少し並び始めてる。
さすがやな、と三人で感心しながら、その横を見たら、向かいにゲームセンターがあった。
「なんやこれ。」
「え、ちょっと入ってみる?」
入ってみたら、五十円でできる。しかも変に新しくない。
ちょっと懐かしい感じのゲームが並んでいる。
「お、ぷよぷよあるやん。」
「麻雀もあるで。」
「あれやな。ボタンが麻雀牌の置き方みたいに出るやつや。」
「レトロゲームっぽくておもろいな。」
そんなふうに、ちょこちょこ覗きながら、でもとりあえず一旦さしすに入る。
ここは博子が鉄板って言うてた店や。
まずはそれを押さえとくか、という感じやった。
軽く海鮮ものをちょこちょこと頼む。刺身をつまみ、ビールを飲む。
すると、やっぱりちゃんとうまい。しかも値段見ても、そんなに高くない。
「いやいやいやいや。」
「わけわからん迷路の中にあるのに、まあまあうまいな。」
「これは鉄板って言うだけあるわ。」
別の社長が、そこで何気なく言う。
「やっぱ博子ちゃんに選んでもらったのは鉄板やな。」
その言葉に、イキリ社長がちょっとだけ大きいクエスチョンを出す。
「……いや、ちょっとそれはあれかな。」
「何が?」
「なんかヒロコちゃんのに、全部乗りすぎんのもあれやし。」
「お。」
「ここは、二、三十分で出て、もうちょっと探検しようぜ。」
その一言で、他の二人も少し面白くなる。
「たしかに。」
「なんか、お膳立てされた感じがしてしゃくやしな。」
「やっぱそれやったら、あの五十円のハイボールとかもちょっと飲みたいやん。」
「そうそう。」
「昼過ぎ最後は夢ゴリラで締めるにしても、もうちょっと探検しようぜ。」
そういう方向に気が変わる。さしすは確かにうまい。
二品三品頼んで、満足感もある。
でも、今日は“正解”だけなぞって帰る日やない。
少しぐらい自分らで冒険してからじゃないと、帰られへんなという気持ちになる。
で、ぐるぐる回り始める。
人の流れ。狭い通路。安い立ち飲み。
変に混んでる店。全然人のいない店。
それを見てるだけでも、なんか面白い。
「お、あったあった。」
「ハイボール五十円。」
「生ビール百九十円か。」
確かに看板は強い。けれど、人はまだまばらや。
その二つ隣ぐらいを見ると、今度は別の店がめちゃめちゃ入っている。
「なんやあれ。」
「庶民、って書いてる店あるけど。」
「細っ。」
「一列でみんな並んでるし、斜めで並んでるやん。」
「ビール、別に百九十円とかではないけどな。」
「でも多分、飯もそんな高くないし、リーズナブルな千ベロの店なんやろうな。」
見た目だけでだいたい察しはつく。
ただ、そこはさすがに三人で入るには狭すぎる。
だから諦めるけれど、そうやってぐるぐる見て回るのがもう楽しい。
「なんか、こうやって回ってるだけでおもろいな。」
「わかる。」
「昨日博子ちゃんが言うてた意味、ちょっとわかるわ。」
そんなことを言いながら、結局ハイボール五十円、生ビール百九十円のところに入る。
ただ、そこで一応冷静な判断もする。
「生ビール、サーバーの清掃うまくいってへんかったら、ちょっと怖いよな。」
「わかる。」
「さすがにビールの味に不安あるから、ハイボールにしといたらまあ間違いないかな。」
「それいこ。」
三人ともハイボールを一杯ずつ頼む。
つまみも少し頼んで、座って待つ。店内は、まだ昼前らしい中途半端な空き具合で、
これから混むのか、このままなのか、まだよくわからん。
でも、その“当たりかハズレか、まだわからん感じ”が、今日はちょうどよかった。
「これやな。」
幹事社長が、椅子に深く座りながら言う。
「昨日までの“完成品”の遊びの後に、こうやって自分らでピース埋めていく感じ。」
「出たな。」
「でも、ほんまそんな感じや。」
「博子ちゃん、ここまで読んでたんかな。」
「半分ぐらいは読んでるやろ。」
「怖いわ。」
そんなことを言いながら、ハイボールを待つ三人は、昨日の“おもてなし”の余韻をまだ残したまま、
今日は今日でちゃんと自分たちの探検を始めていた。




