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オーパスワンを開けてそれぞれの感想を言い合う六人。六本木銀座や海外ではなく京都大阪に面白いことがあることに気づけたことに感謝する東京イキリ社長

オーパスワンを開ける、という流れになった瞬間、さすがに女性陣も男性陣も、

ちょっとだけ空気が変わった。さっきまで日本酒でわいわいやって、サンダーバードでも笑って、

店に戻ってからも軽口を叩いていたのに、ボトルが運ばれてきた途端、なんとなく背筋が伸びる。

社長たち三人も、それを自分で感じたのか、ちょっと照れ隠しみたいに笑いながら言った。

「なんで俺らが緊張せなあかんねん。」

「自分で入れて自分で緊張してるやんけ。」

「知らんがな。」

そんなふうに自分で突っ込んで、自分で笑ってるくせに、やっぱり目はボトルの方に行っている。

ボーイが丁寧に開けて、グラスが並べられ、トプトプとワインが注がれていく。

その音だけで、卓の空気がちょっと静かになる。

シャンパンみたいな派手な「わあっ」という感じではない。

でも、確実に場の温度が変わる。

女の子たちも、さっきまでの驚きが、今度はちゃんとした緊張に変わっていた。

博子もグラスを持ちながら、少しだけ香りを嗅ぐ。

で、そこでまずわかる。

普段の酒とは違う、ということだけは、もう明らかやった。

強いとか弱いとか、甘いとか渋いとか、その前に、香りの厚みが違う。

ただのぶどうの酒、みたいな感じじゃない。

何層もあるというか、ちょっとくんくんするだけで、まだ奥に何かおるなという感じがする。

「……なんか、違いますね。」

アルカちゃんが、素直にそう言う。

さきちゃんも、小さく頷く。

「うん。これは、わかる。」

社長たちも、それぞれグラスを持ちながら、少し真面目な顔になる。

一口、口をつける。

で、そのあと、みんなちょっとずつ言葉を探すみたいな間ができる。

日本酒の時みたいに、うまい、すごい、すいすい行く、みたいな勢いとはまた違う。

ちゃんと味わってから、喋りたい感じになる。

「……まるいですね。」

最初にそう言ったのは博子やった。自分でも、ぴったりの言葉ではないかもしれんと思いながら、

でも今出てくるのはそれやった。

「深みもあるけど、とにかくまるい。」

「うん。」

「角がない。」

その言葉に、イキリ社長がすぐ反応する。

「ああ、それや。」

「深みもあるけど、角がない。」

「確かに。」

別の社長も、グラスを見ながら頷く。

「今日の日本酒もそうでしたけど、トゲがないな。」

「トゲ。」

「角、トゲ、その辺がないような感じがするわ。」

博子も、それを聞いてまた少し飲む。

確かにそうや。重みはある。

でも引っかからへん。

渋いとか濃いとか、そういう単語の前に、まず“丸い”が来る。

飲んだあとに口の中に残るのに、嫌な残り方をしない。

そこが、やっぱり高い酒ってこういうことなんかな、という感じがした。

「いや、もったいない。」

さきちゃんが、ちょっと真剣な顔で言う。

「これはもったいないから、もうちょっと匂いをくんくん嗅ぎながらこう……。」

「舌でね、ゆっくり味わいながらじゃないとダメですね。」

アルカちゃんも続ける。

社長たちがその反応を見て、また少し嬉しそうに笑う。

「ええやん。」

「そうやって飲んでくれたら、開けた甲斐あるわ。」

その流れのまま、イキリ社長がぽつりと言う。

「東京の銀座や六本木で、なんかそんなん開けましょうって言うてくる子、おらんかったしな。」

「そうやな。」

「とりあえずシャンパン、バンバンバンやけども。」

そこで、もう一人の社長が、博子の方を見ながら言う。

「今日のご飯の同伴の店の行き方とか、動線とかさ。洗練されてたやん。」

博子は、すぐに首を振る。

「私、全然洗練されてないですけども。あれですよ、綺麗に誘導するためにやってるだけですけど。」

するとイキリ社長が、そこでちょっと強めに返す。

「いや、それが洗練されてるって言うねん。」

「え。」

「なんかその、嫌味がなくて、無駄がない感じ。そういうの見てると、

こういう酒を飲んだ方がええなっていう気分にさせてくれたんやと。」

「……」

「それに感謝やと。」

博子は、その言い方にちょっと照れくさくなる。

でも、酒の場で、しかもオーパスワン飲みながら言われると、なんか変に響く。

軽口だけでは流せへん感じがある。

「だから、遊び方が一段ちょっと深なったな、みたいなところもあんねん。」

イキリ社長が、そのまま続ける。

「明日のな。あの第一ビルから第四ビルの安いところ、突っ込んでくれてるけども。

それも多分、博子ちゃんなりの考えがあってやし。」

「あります。」

博子は、そこで素直に認める。

「やっぱり。」

「多分、おじさん三人でそういうところでちょっと遊んだらいいやん、っていうの、

絶対あるやろうと。」

「正直に言うてみて、あります。」

博子がそう言うと、みんな笑う。

でも、その笑いの後で、博子はちゃんと続ける。

「ジグソーパズルはね、全部自分で組み立てたらダメなんですよ。」

「出た。」

「だから、そうやって“やってもらう”っていう感じが、より旅に深みを持たせるというか。」

「うん。」

「そんな気がしてたので、そうさせてもらいました。」

イキリ社長が、そこでグラスを持ったまま笑う。

「でもこのワイン飲みながら聞くには、めちゃめちゃいいセリフやで。」

「ほんまですか。」

「うん。得力ある。」

そこからまた、少し空気がやわらかくなる。

オーパスワンの重さが、変に場を潰さず、むしろ会話に深みを足してくれてる感じがあった。

「なんか。」

別の社長が、グラスを眺めながら言う。

「そういう海外旅行にボーンみたいな感じで行くよりも、京都大阪まだまだ深掘りしたら楽しめるな、

みたいなの、めっちゃ感じる。」

「うん。」

「街を、というよりも、人って感じかな。」

その言葉に、ヒロコは少し目を細める。

社長は、そのまま続けた。

「おもろい奴はいるな、という感じはする。」

「……」

「全然東京の方でロジカルでやってるのと違う深みを持ってる子が、こうやっていたことに感謝やわ。」

その言い方は、ちょっと大げさやけど、でも本音やった。

博子も、それがわかる。

だから、変に茶化しすぎず、でも重たく受け止めすぎず、少しだけ笑ってグラスを持ち直す。

「まあ、まだまだありますよ。」

「それは怖いな。」

「また沼に落とす気か。」

「落とす気はないです。」

「いや、もう落ちてるわ。」

また笑いが起こる。

でも、その笑いの下に、確かな満足感がある。

オーパスワンを飲みながら、京都と大阪と、遊び方と、人との距離感の話をする。

そんな一セット半ぐらいが、ゆっくり続いていく。

酒はうまい。会話も深い。

しかも、派手に騒ぐんやなくて、ちゃんと味わいながら進む。

それが、この夜の締めとして、かなりきれいやった。

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