店内で六人がそろって東京イキリ社長が開口一番にオーパスワンを開ける宣言。女性陣全員想定外であわてる。
店内で六人がそろってイキリ社長が一言
「まあ、とりあえず今日は楽しかったしさ。」
そう言って、イキリ社長がふっとグラスを置いた時、まだ場は日本酒の余韻の中にあった。
京都で九百八十円の飲み比べをやって、サンダーバードで帰ってきて、店の中でも
空気はそのままええ感じに回ってる。
だからこそ、次に何が来ても、普通はせいぜいワイン一本か、ちょっとええシャンパンか、
ぐらいやろうなと、女の子側はなんとなく思っていた。
けれども、その次に出てきた言葉は、完全に想定外やった。
「明日もさ、アフター行かへんくて。」
「はい。」
「お手当も今日はもう、日曜分は包めへんっていうことで。
博子が、ああ、その話かという顔で聞いていると、イキリ社長がさらっと続ける。
「まあ、そういうのもろもろ込み込みで、オーパスワン頼もうか。」
一瞬、空気が止まった。
「……は?」
最初に声になったのはアルカちゃんやった。
さきちゃんも、完全に目を丸くしている。
博子ですら、一拍遅れて「マジですか」と言っていた。
それぐらい、話の飛び方がえぐかった。
「しかもまだ話そんな盛り上がってないのに、オーパスワンとか。」
「どんだけ神なんですか。」
女の子三人が、ほぼ同時にどぎもを抜かれてるのがわかる。
その反応を見て、社長達三人はもう爆笑である。
「いやー。」
イキリ社長が、声を立てて笑いながら言う。
「博子ちゃんたちはね、こうやって驚かせることができただけで、おじさんたちはもう大満足よ。」
「いや、満足よ、じゃないですよ!」
「こっち心臓止まりそうなんですけど!」
そんなふうに言いながらも、さきちゃんはもう半分反射で動いていて、慌ててボーイを呼びに行く。
そのスピード感がまた可笑しい。
ボーイも「え、え、何事ですか」みたいな顔で飛んできて、席の空気を見てから、
少し身を乗り出して確認する。
「え、あの、本当に開けていただけるんですか?」
「ええで。」
「間違いないですか?」
「ええねん、ええねん。」
二回確認するあたりが、逆にリアルやった。
だって、さっきまで九百八十円の日本酒飲み比べでキャッキャ言うてた六人卓や。
そこから急にオーパスワン、となったら、そら店側も一回では信じられへん。
「なんか派手にシャンパン開けるよりもさ。」
イキリ社長が、そこで少しだけ声を落として言う。
「今日は本物の酒とか飲んだからさ。こっちでも本物が飲みたいなと思って。」
その言い方に、三人の女の子たちはまた少し黙る。
さっきまで冗談半分やと思ってた空気が、そこでちゃんと意味を持ち始めるからや。
「で、言うたら。」
社長は、博子たち三人を順番に見ながら続ける。
「女性陣にいっつも驚かされてばっかりやからさ。」
「……」
「ここらでちょっと一発かましたいなと思って。下ろすわ。」
その言い方は、単なる見栄でも、札束で殴る感じでもなかった。
ちゃんと今日一日の流れを受け取った上で、それを“返す”という意味で言うてるのが伝わる。
だからこそ、博子もアルカちゃんもさきちゃんも、いつもの「また金で解決ですか」みたいな
反応にはならなかった。
「で、まあ。」
別の社長が横から笑いながら足す。
「さすがに一本しか、おじさんたちも下ろせへんから。」
「いやいや十分ですよ!」
「バックは三人で分けな、って話や。」
さきちゃんが、もうほとんど半笑い半泣きみたいな顔になる。
「いや、もうそれは十分分けさせていただきますんで!」
アルカちゃんも、めちゃくちゃ動揺している。
「私らだって飲んだことないですよ!」
「こっちもそんな何回もないわ。」
社長たちがまた笑う。
でも、その笑いの中に、ちょっとした祝祭感みたいなものが出てきていた。
場が一段、上がったのだ。
博子は、その空気を見ながら、少しだけ我に返ったように言う。
「……いや、でも、さっきまで私ら、九百八十円の日本酒飲んでたじゃないですか。」
すると、イキリ社長がすぐに返す。
「あれはもともと九百八十円ちゃうねんって。」
「そうや。」
「プレ値ついてるし、あそこの店がクレイジーなだけで、めちゃめちゃ価値あんねんぞ。」
「そこなんよ。」
別の社長も、少し真面目な顔で頷く。
「だから、それをあんだけ安くやってくれたのと。店探してくれたのと。空気感が良かったのと。
サンダーバードと、もろもろ含めて、これで返すってことや。」
その一言で、場がすっと一本にまとまる。
単なる派手なボトルの話やなくて、今日一日の京都大阪の流れに対する“返礼”としてのオーパスワン。
そう位置づくと、確かに筋は通っている。
博子も、その筋の通し方がちょっとずるいなと思いながら、でもありがたいとも思う。
「……どこまで綺麗に返してくるんですか。」
博子が、少しだけあきれたように笑うと、幹事社長がにやっとする。
「お前らにやられてばっかりも癪やからな。」
「いや、癪って。」
「今日はこっちの番や。」
そうこうしているうちに、ボーイがオーパスワンを抱えて戻ってくる。
店の空気も、なんとなくその卓を意識し始めている。
北新地の夜の中で、こういう“儀式”の前の静けさは独特や。
女の子たち三人も、さっきまでの笑いが少し落ち着いて、逆に変な緊張が出てくる。
さきちゃんはまだ「ほんまにですか」と小声で言うてるし、アルカちゃんは「やばいやばい」と
笑いながらも姿勢を正している。
博子は、そこまで動揺を見せすぎんようにしてたけど、それでも胸の中はかなりざわついていた。
京都で冷酒。サンダーバードで移動。大阪でまた酒。
そこまででも十分今日という日は濃かった。なのに、最後にオーパスワンまで入る。
なんやこの一日、と思いながらも、こういう想定外があるから、この仕事は
まだおもろいんやろうなとも思う。
「ほな。」
幹事社長が、改めて席を見渡して言う。
「オーパスワン、開ける儀式に移りますか。」
その言い方で、またみんなが少し笑う。
でも、その笑いの奥には、確かな高揚感があった。
女の子たちは、驚かされたことそのものにもうかなりやられている。
社長たちは、その驚きの顔を見れた時点で半分目的達成している。
そして、その全部を見ている博子は、ああ、こういう返し方はやっぱり強いなと、
どこか冷静に思っていた。




