清水五条で日本酒が進みいい感じの時にご飯勢が登場。酒の邪魔をしない美味しいご飯に舌鼓。この店外国人の評価が高いらしい。からの京都の町の市場動向について語る博子
日本酒三種飲み比べセットで、もう十分すぎるぐらい空気が良くなっている中で、
今度はご飯勢がだんだんとダン、ダンと来る。しかもそれがまた、酒の邪魔をせえへん。
むしろ、酒で立った機嫌をそのまま丁寧に受け止めるような当て方をしてくる。
それを見たイキり社長が、改めてメニュー表を見直して、しみじみ言う。
「いやいやいやいや。」
「どうしました。」
「もう酒で機嫌があるのに、さらにその酒を邪魔しない、この美味い飯。」
「ありがとうございます。」
「改めて見ても、そんなめちゃくちゃ高いわけじゃないよな。」
「そうですね。」
「やのに、ちょっと気持ち量も多めにしてくれてるし。ありがたいわ。」
横の社長が笑う。
「おもてなし価格かいな。」
博子がすぐに首を振る。
「いやいや、普通にいつもやってくださりますから。」
「ほんまかいな。」
「ほんまですよ。」
でも、そう言いながら博子の中では、こういう店が人気になりすぎても困るな、
という気持ちもちゃんとある。だから半分本音、半分冗談みたいな感じで言う。
「でもここ、なんか人気になりすぎてもめっちゃ困るからっていう話は、
ちょこちょこ私の中で思ってるんですけども。」
イキリ社長が、そこで「ああ、あれな」と思い出したような顔をする。
「食べログの点数はそこまで高くないにしても、Googleの評価がウルトラ高いって
話したじゃないですか。」
「そうそう、それ。」
「イングリッシュで書いてあるしな。」
その一言に、他の社長たちも食いつく。
「え、そうなん?」
「だから今、ああいうサイトとかもあれですよ。」
博子が、ここぞとばかりに少し解説モードに入る。
「日本語で書いてあるだけじゃなくて、もう京都、結構外人多いから。
イングリッシュで書いてあったりとか、中国語で書いてあったりとか、結構あるんですよ。」
「へえ。」
「で、雑誌の店よりも、外国語で書いてあるやつに結構来る人もいるから、その辺がなかな
か面白いでっていう。」
社長たちは、ご飯をつまみながら「なるほどな」と頷く。
鶏の唐揚げ、だし巻き、茄子の煮びたし。どれもちゃんとおいしい。
酒を殺さへんし、でも地味すぎへん。
その中で話題がまた京都という街の方へ広がっていく。
「だから。」
博子が続ける。
「なんでこの店にこんな人がいるんやろ、みたいなのは、京都ちょこちょこあるみたいですよ。」
「なんかそれはそれで面白いな。」
「そうなんですよ。」
イキリ社長が、グラスを置きながら言う。
「俺らが“ここ名店や”って思うのって、雑誌とか、そういうツールでの見方やけど。
外国人の刺さるものはまた違うんや、って気づくのが、京都結構面白いな。」
博子は、その言葉に少し嬉しそうに笑う。
こういう“気づきの横滑り”が起きると、やっぱりこの人たちは楽しいなと思う。
「あと、あれですよ。」
「何。」
「キリンビールがスプリングバレーっていう店、今、旗艦店みたいな形でやってるんですよ。
新しい業態。」
「ほう。」
「業態のご飯屋さんみたいになってるんですけど、それね、確か京都にしかなかったんですよね。
大阪じゃなくて。」
「なんでまた京都なん。」
博子は、少し得意げに言う。
「なんか京都って、絶妙にいろんな人たちがミックスされてる関係で、ちょうどいい
市場調査になるらしいんですよ。」
「へえ。」
「だから、こうお試しで出すっていうのは結構多くて。意外と流行に近いところには
いるみたいですよ。」
その話を聞いて、社長たちはまた面白そうに顔を見合わせる。
「あー、なるほどな。」
「そういう見方もあるのか。」
「博子ちゃん、やっぱりいろいろ見てんな。」
博子は少し笑う。
「まあ、なんかその辺は歩いてたらちょこちょこ見えるんですよ。」
「へえ。」
「河原町通りとか、結構生チョコの店とかあったり。無駄にね、おしゃれなものが
置いてる筋があったりとか。」
「うん。」
「なんかいろいろ、その流れと関係なく、統計的なデータも取ってちょっと
やってるみたいなところも見えたりして。古いもんと新しいもんが、ええ感じに混ざってて、
そんなんが面白いんですよ。」
「京都、もうちょっと深掘りせなな。」
「そうでしょう。」
博子は、そこで少し視線をずらしながら言う。
「私はどちらかというと、アフターとかで使うところは京都で組み立てるようにしてますね。」
「大阪やなくて?」
「大阪は、そんなに種類が多くないというか。深みが出せないというか。そういう“気づき”
みたいなんで、横っ面でパーンとはたく、みたいなんが、なかなかできなくて。」
そこで、すぐに社長たちからつっこみが入る。
「横っ面ではたくって何やねん。」
博子が吹き出す。
「いや、比喩ですよ。」
「物騒やな。」
「でも、なんかわかるでしょ?」
「まあ、わかるけどな。」
そうやって、六人でご飯を楽しくいただく。
酒もうまい。ご飯もうまい。会話も流れる。
東京の社長三人にとっては、単に“いい店に連れてきてもらった”だけやなくて、
“知らん京都の見方”をまた一個もらった感じになっている。
さきちゃんとアルカちゃんも、横でそれを聞きながら、ヒロコの引き出しの使い方を
またひとつ見ている。この感じやな、と博子は思う。
酒と飯だけじゃなく、その土地の解像度まで少し上げる。
それが、この座組の強みの一つやった。
そうこうしてるうちに、店舗前同伴の時間に近づいてくる。
時計をちらっと見て、博子が流れを切り替える。
「じゃあ、とりあえずタクシー呼んで。」
「うん。」
「京都駅出て、サンダーバードで大阪帰りますか。」
社長たちも、そこはもう慣れた感じで頷く。
「了解。」
「ここからの動線も込みやもんな。」
「そうそう。」
「サンダーバードの中でまた喋れるしな。」
博子は、それを聞いて少しだけ笑う。
そう。店で終わりじゃない。
京都駅までのタクシー。サンダーバードの移動。
大阪に戻って店に入るまで。そこまで全部が、今日の一部やった。
会計を軽く整えて、店を出る。
夏の夕方は、もう夜の入口みたいな温度になっている。
冷酒とご飯でちょうどよくなった身体に、その外気がまた心地いい。
タクシーが来て、六人がまた流れるように乗り込む。
清水五条から京都駅へ。そこからまた大阪へ。
土曜日の座組は、まだまだこれから後半戦に入っていく。




