八月一週目土曜日。東京イキリ社長が三人で大阪にくる。社長陣はウッキウキ。女性陣はウコン片手にサンダーバードで一路京都へお出迎え
土曜日。朝から東京イキリ社長は、完全にウキウキだった。
なぜなら今日は土曜日。同伴で大阪に行く日だからだ。
もう六本木だ銀座にいるだけでは、遊んでられへん。
そんな空気で、同じ社長仲間の二人とも合流して、東京駅で落ち合うなり、
もう早速「景気づけや」とビールを開けて新幹線に乗り込む。
「まだちょっとビール早いかもしれんけどな。」
一人がそう言いながらも、プシュッと開ける手は止まらない。
別の社長も笑う。
「とりあえず飲みながら話ししようや。」
そんな感じで、新幹線の座席に落ち着いてすぐ、最近調子どうや、みたいな話から始まる。
仕事の話もある。人の話もある。でも、どこかみんな、今日の目的地のことを意識していて、
会話の温度が最初から少し浮いている。
「いやいや。」
イキリ社長が、ビールをひと口飲んでしみじみ言う。
「博子ちゃんとまた喋れるの、やっぱ嬉しいわ。」
「わかる。」
「ビジネスもそうやけど、やっぱあれよな。」
「何や。」
「俺らぐらいの歳でも、ワクワクするって、大事よね。」
それを聞いて、二人とも妙に納得してしまう。若い頃みたいなときめきとは違う。
でも、明確に“楽しみ”として胸の中にある。
しかも、それが女に惚れてるとか、恋してるとか、そういう類ではないというのがまた面白い。
「しかもさ。」
イキリ社長が少し笑いながら続ける。
「それが恋じゃないから。」
「お。」
「恋じゃなくて、そういう気づきをくれるから、俺、嫁さんに対してそんな後ろめたい
気持ちがないねん。」
「それ言っちゃう?」
「いやでもほんまやって。」
隣の社長が吹き出す。
「だいぶ失礼やけどな。」
「失礼は失礼やねんけど。」
イキリ社長も笑う。
「でも、あの子の頭の中は、やっぱ替えがたいで。」
その言い方に、他の二人も黙って頷く。
普通に遊ぶだけやったら、別に東京でもいくらでもある。
高円寺でも、中野でも、ちょっと端の方まで出て、ガチャガチャ飲むとか、そういうのもある。
でも、結局そこにいるのは、六本木や銀座でうまくいかんかった女の子の一軍落ちみたいな
メンツやったりして、どこまで行ってもヒエラルキーの中なんよな、という話になる。
「そうやねんな。」
一人が、缶を傾けながら言う。
「そこ行っても、結局札束とシャンパンのヒエラルキーの中でしかないんよ。」
「せやろ。」
「大阪は大阪で、エースグループとかあるけども、その辺で飲むのもな、
まだなんかちょっと面白みに欠けるし。」
「そうそう。」
「たまたま拾いもんやったけども、今こうやって大阪で楽しく呑める場所にあたったの、
運いいよな俺ら。」
「この楽しみがわかれへんのは、ちょっとな。」
「損してる感じするな。」
そんなことをダラダラ話しながら、新幹線は同伴の店のある京都に向かって進んでいく。
もう三人とも、ただの出張帰りみたいな顔ではない。
明らかに“遊びに行く男の顔”をしていた。
しかも、その遊びがただの酒や女やなく、なんかもう一段奥行きのあるものとして認識されている。
それが、この三人にとっては今かなり新鮮やった。
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一方その頃、博子の方は、朝から「今日はちょっと重たい日になるなあ」と
思いながら整えているところやった。
東京イキリ社長が三人組が来る。
しかも、ただの三人ではない。土曜に受けて、日曜は放流する。
その前提もある。
だからこそ、今日一日でちゃんと熱を作って、明日に繋がる余白まで置かなあかん。
そう考えると、やっぱりカロリーは高い。
それでも、博子はちゃんと切り替える。
朝からだらだらしすぎず、でも無駄に詰め込みすぎず。
身支度を整えながら、今日は酒も回るやろうし、場の熱量も高くなるやろうなと覚悟する。
夕方頃にはアルカちゃん、さきちゃんと待ち合わせて、三人で少し早めに合流する流れにしていた。
「今日はちょっと激しく飲むかもしれへんし、気ぃつけて来な。」
博子がそう言うと、アルカちゃんが笑う。
「わかってるわ。」
さきちゃんも頷く。
「今日はちょっと覚悟してる。」
で、三人そろって、駆けつけ一杯みたいなノリでウコンの粉を飲む。
これが妙にイベント前の儀式みたいになっていて、三人とも少しだけ笑ってしまう。
「なんか部活みたいやな。」
「ほんまや。」
「いや、でも大事やで。」
そんなことを言いながら、サンダーバードに乗り込んで、京都へ向かう。
車内では、やっぱり少しずつ気持ちが上がっていく。
今日来る社長達は、先週は単独だがその前もちゃんと動いてくれてる。
しかも卓を埋めてくれる。そこは、やっぱりありがたい。
「それでもやっぱ、こんだけ東京からこっちに頻繁に来てくれてさ。」
博子が、窓の外を見ながら言う。
「卓を埋めてくれるって、めっちゃありがたいよな。」
「それはほんまそう。」
アルカちゃんがすぐに返す。
「しんどいなって思う時もあるけど。」
さきちゃんも、少し笑いながら続ける。
「初心に戻るって大事よな。」
「そうやねん。」
博子も頷く。
「結局、来てくれて、楽しんでくれて、また来たいって思ってくれる。それが一番やから。」
サンダーバードの中で、三人はそんな話をしながら京都駅に向かう。
今日は重たい。
でも、その重さをちゃんと受けるだけの意味もある。
東京の三人は、新幹線の中でワクワクしながら大阪に向かっている。
博子たちは、サンダーバードの中で覚悟を整えながら京都へ向かっている。
その二つの流れが、あと少しで京都駅で重なる。
土曜日の本番は、もう始まりかけていた。




