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金曜日の同伴。清掃会社の社長の気持ちが柔らかくなる。

同伴の店に入ると、外の喧騒がふっと切れた。

カウンター中心の小さな和食屋で、照明は明るすぎず暗すぎず、

板前さんの動きが自然に目に入る。派手さはない。でも、落ち着く。

「ええやろ、こういうとこ」社長が先にそう言った。

「家庭的やしな。日本酒もよう揃ってる。こういうのが一番ええねん」

そう言ってメニューを閉じる仕草が、もう“慣れてる人”のそれやった。

値段を見るでもなく、流れで頼む。小鉢、刺身、焼き魚。どれも主張しすぎない。

日本酒が出てきて、軽く乾杯する。「最近な」社長が、盃を置いてから言う。

「前ほどイライラせんようになったわ」ヒロコは一瞬、言葉を探す。

「仕事ですか?」「仕事もやけどな。なんて言うたらええんやろ……こう、

余裕ができたんかな」少し笑って、続ける。

「博子とこうやって飯食う時間ができたからかもしれへんな」

 その言い方は、重くない。でも、軽くもない。博子は、うなずきながら答える。

「それやったら嬉しいです。社長、いつも忙しそうですし」

「せやろ。ほんま、仕事って終わらんからな」一拍おいて、社長はふっと声を落とす。

「日曜の花見もな、めっちゃ楽しみにしてるねん」

 その言葉に、博子は少しだけ笑う。「お花見って、なんかいいですよね。

 仕事の話せんでもいい時間ですし」「そうそう。ああいう時間が、

 年取ると余計ありがたいわ」そこで、社長は冗談めかして言う。

「まあ、ガチ恋とかちゃうで?」博子も、すぐに返す。「わかってますよ」

 少し間を置いて、続ける。「でも、仕事で疲れてる社長の気持ちが、

 ちょっとでも楽になったら、それで十分です」言い切りすぎず、逃げ道も残す言い方。

 社長は、そのバランスが心地いいのか、静かにうなずく。「無理せんでええ関係が一番やな」

「はい。私もコツコツやっていきたいですし、無理なく続けられたら嬉しいです」

 その言葉に、社長は少し満足そうな顔をする。

「でもな」 と、箸を置きながら言う。

「あんまり人気になられたら、そのうち遊んでくれへんようになるんちゃうかって、

 そこが悩ましいわ」苦笑い混じりの本音。「せめぎ合いやな」

 ヒロコも、正直に返す。「同伴は、ありがたいことに少しずつ増えてますけど……」

 少し声を落とす。「正直、同伴の卓が終わった後、結構暇してる日も多いですよ」

 社長は意外そうに目を向ける。「そうなんか」

「はい。だから、まだ全然大丈夫です」その言葉で、社長の肩の力が抜けたのがわかった。

「それ聞いて安心したわ」料理も、日本酒も、ちょうどいいところで終わる。

 時計を見ると、店に向かうにはいい時間。「そろそろ行こか」

 社長が立ち上がる。会計は、言うまでもなく社長。博子は軽く頭を下げる。

 外に出ると、夜の新地の空気が戻ってくる。さっきまでの静けさが、少しだけ遠のく。

「今日も、ありがとうな」社長が言う。「こちらこそです。この後も、ゆっくりしましょ」

 そう言って並んで歩き出す。派手な夜じゃない。

 でも、確実に積み上がっていく時間。

 そんな感触を、博子は胸の奥で確かめながら、店へ向かった。

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