金曜日。会計士先生をお見送りしフリー卓で女子トークをしてから税理士先生のもとに向かう。金曜日の座組の話
博子が税理士先生の元に行くと、税理士先生はもうこっちに気づいて、ひらひらと手を振っていた。
その顔つきが、いつもよりちょっと柔らかい。博子は席に寄りながら、すぐに笑って言う。
「おお、ご機嫌さんですね。」
税理士先生も、少し得意げに笑う。
「まあまあ、機嫌ええで。」
「何かありました?」
先生は、少しグラスを回しながら言う。
「生活が順調やわ。仕事もぼちぼち回ってるし。言うて、決算前以外はだいたいまあ、
陽気にやっとるよ。」
博子は、その言い方にくすっと笑う。税理士先生らしいと言えばらしい。
忙しい時期は忙しい。でも、そうじゃない時はちゃんと楽しむ。
その切り替えがうまい人やなと思う。
「でな。」
税理士先生は、そこで少し前のめりになる。
「この前も結局、弁護士先生とも仲良くできて。で、保険会社のやつとも仲良くできたからさ。」
「はいはい。」
「仕事の回りがめっちゃええねん。」
「それはええことですわ。」
先生は、大きく頷く。
「ほんまに。ちょっとしたことでも、ネガティブ情報でも何でもかんでも後出しで出されると、
めっちゃ困んねんけどさ。やっぱこの前の一件で、定期的に喋るようになったんや。」
博子は、その話をちゃんと聞きながら相槌を打つ。
「はい。」
「あん時楽しかったっすね、また行きましょう、みたいな話になるからさ。」
「それは大きいですね。」
「そうやろ。」
先生は、そこで少し笑う。
「というところで、今回はまだ座組組むために来たんやっていう話や。」
博子は、すぐにやわらかく返す。
「いやいや、いいんです。どういう理由来てもらっても私は嬉しいですよ。」
その言い方に、税理士先生は少しだけ満足そうな顔になる。
博子は、こういうところがうまい。
“仕事のために来た”と言われても、変に拗ねもせず、でも軽く流しもせず、
ちょうどいい温度で受ける。先生もその感じが好きやった。
「でもやっぱりな。」
税理士先生が、少ししみじみと言う。
「博子ちゃんの回しがやっぱえぐいわ。」
「またそんなこと言う。」
「いや、ほんまやって。」
先生は、そこで指を折るみたいに整理し始める。
「酒蔵、行ったやん。」
「行きましたね。」
「で、次はじゃあどっか行こうかなっていうのを考えとってさ。」
「うん。」
「俺も考えてはいるんやで。だけど、博子ちゃんに任せた方がええな思って。」
博子は、そこで少し笑いながら首を振る。
「そんな丸投げしないでくださいよ。」
「いや、でも、こっちで変に考えるより、博子ちゃんの手札の方が多いやろ。」
「まあ、それはあるかもしれませんけど。」
そこで博子が、一つ案を出す。
「山崎のウイスキー工場がやっぱ鉄板ちゃいます?」
税理士先生の顔が少し明るくなる。
「ああ、そうやな。」
「なんかそういうウイスキー工場行って。」
「うん。」
「夕方に動いて。で、同伴でそれぞれ今度は散って。最後店の中で反省会みたいなんすんのは、
ええかもなって思って。」
先生は、その絵を頭の中で組み立ててるみたいに、少し天井の方を見る。
「なるほどな。」
「ただ、その辺のところは女の子たちにも負担かかるから。」
博子は、そこはちゃんと現実的に言う。
「その辺のお手当は、ちょっと考えてもらったらええんですけども。」
税理士先生は、そこも素直に頷く。
「そらそうや。」
「みんなで一気に回すとなると、どうしてもそれなりのカロリーかかるんで。」
「うん。」
「でも、うまくいって、いよいよ仲良くなれればいいですね。」
先生は、その言い方に少し笑う。
「メンツを増やそうと考えててな。」
「え。」「いや、取りあえず一回、別々で三人で行ってから、もう一回考えた方がいいですよ。」
博子は、そこはきっぱり言う。
いきなり人数を増やすと、空気の管理が難しくなる。
前にうまくいったからといって、毎回同じように広げていいわけではない。
そこを博子は感覚でわかっていた。
「やっぱそうか。」
「そうです。一回別々でやって、それぞれの温度見てからの方が絶対いいです。」
「なるほどなあ。」
「そこ急ぐと、逆に座組崩れるんで。」
博子先生は、そこでしみじみ笑った。
「ほんま、どこまで俯瞰して見とんねん。」
「そこ見とかんと、後でしんどいの私ですから。」
「それはそうや。」
二人で笑う。
その笑いの中に、仕事の話と、遊びの話と、人間関係の話が全部混ざっていた。
博子としては、こういう時間がありがたい。
東京の社長たちみたいに派手な案件ではないけれど、地元のメンツで、少しずつ関係を整えていく。
その積み上げもまた、自分の足場になる。
「でもな。」
税理士先生が、最後に少しやわらかい声で言う。
「こうやって、また次どこ行こうかなって考えられるんがええわ。」
博子は、少しだけ笑って返す。
「それが一番ですよ。」
「うん。」
「またうまいこと回しましょう。」
そんなことを言いながら、一時間ほどがあっという間に過ぎていく。
大きな事件があるわけやない。
でも、次の座組の種が一個落ちて、先生の機嫌もよくて、博子の方も
“地元の流れもちゃんと回ってるな”と感じられる。そういう金曜の一時間やった。




