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八額一週目金曜日、会計士先生との同伴。大阪のお客さんを丁寧に扱おうと改めて思う博子

金曜日、会計士先生との同伴の日だ。

税理士先生とは、座組みの関係で、どこかでまた入るかもしれないけれども、

希望して同伴を言ってこない限りは、会計士先生に金曜日の同伴枠は明け渡そうかな

というのが今日の博子の今の考えであった。

博子的には、平日は弁護士先生、おじいちゃん、会計士先生、この三人でしっかり

回していこうかなという気持ちになっている。

東京の案件は東京の案件で大事だし、そこに面白さもある。だからといって目の前の大阪の

お客さんを雑にするのは絶対違う。

そこは最近、博子の中でかなり意識し直しているところでもあった。

そんなわけで、今日の同伴は、あえて基本に戻る。

茄子の煮びたし、里芋の煮っころがし、出汁巻き卵。

そういう、派手さはないけど、ちゃんと出汁が利いてて、しみじみとうまい店を選ぶ。

最近は東京の社長たち相手に、京都で日本酒だの、グラングリーンだの、いろいろ外で

動いていたけれども、会計士先生相手には、こういう“地に足のついた店”がしっくりくるやろうなと

思ったのだ。

店に入って腰を落ち着けると、会計士先生がメニューを見ながら、ほっとしたように言う。

「こういう安定的なところがいいですよね。」

博子は、その一言が素直に嬉しくて、にこっと笑う。

「ありがとうございます。先生、まだまだお若いのに、結構渋いですね。」

「いやいや、渋いというか、こういうの好きなんですよ。」

「嬉しいですわ。」

ほんまに、こうやって丁寧に会いに来てくれる先生はええな、と博子は思う。

東京の人たちはどうしてもイベント感がある。

来る時はドンと来るし、話も派手で、チームで受けることも多い。

それはそれで面白いけれど、やっぱり回す側としては熱量を持っていかれる。

今日は、その反動みたいなものも少しあって、落ち着いてゆっくり喋りたいなという気持ちが強かった。

「こうやって丁寧に会いに来てくれる先生は、やっぱいいですわ。」

博子がそう言うと、会計士先生が少し笑う。

「めっちゃ嬉しいこと言ってくれるじゃないですか。」

「いやいや、本音ですよ。」

「お世辞でも、そう言われると嬉しいです。」

博子は、お茶をひと口飲んでから、少しだけ本音を足す。

「東京の人たちはやっぱりイベント感があって来るから。

しかもチームで受けるでしょ。そしたら、いろいろ回しとか大変で、どうしても

熱量そっちに持ってかれてるな感を最近あるんです。」

会計士先生は、なるほどという顔で頷く。

「それはあるでしょうね。」

「明日も来られるんですけど。」

「もう来るんですか。」

「来るんです。でも、明日は土曜日来てもらって、日曜日は対応せずに。梅田の第一ビルから

第四ビルを、50代の社長さんたち三人で遊びに行ってくださいって、ちょっと

ほったらかしてるんです。」

そこまで言うと、会計士先生は思わず笑った。

「ついに社長達の遊び方、もう一段ギア上げてきましたね、博子さん。」

「そうなんです。」

「放し飼いできるようになったんですか。」

博子も吹き出す。

「そうなんです。放し飼いできるんです。」

「すごいなあ。」

そこで博子は、最近よく使う例えを出す。

「ジグソーパズルの例えを最近よくするんですけども。」

「はい。」

「私、完成品ばっかり渡してたんですよ。で、その完成品の出来が良かったから、

東京の人たちが喜んでくれてたんです。でも、遊びの幅をもう一段深くしようと思ったら、

半分ぐらい組んであげるけど、半分ぐらいは、はめていく作業を楽しいと思ってもらう方が、

よりいいかなと思って。」

会計士先生は、箸を止めて感心したように見る。

「なるほど。」

「しかも社長さんたち三人で来てるから。私としては、行き帰りの新幹線の中で“楽しかったな”

を提供するのまでが座組やと思ってるんです。だから、隙間を開けてあげて、そこを自分たちで主導的にやるっていうところで、遊びが一段上がると思ってるんです。」

「いやいや。」

会計士先生は、半ば呆れ、半ば感心しながら笑う。

「博子さん、末恐ろしすぎますよ。」

「そうですか?」

「だからそれを聞くがために、僕はここに遊びに来てるところもあるんですよ。」

「いやまあ、ありがたい話なんですけどもね。」

博子は、ちょっと困ったように笑う。

「それじゃ普段の先生の話も聞けなくなるじゃないですか。」

会計士先生は、そこで肩をすくめた。

「いやでもね。サラリーマンなんて本当にね、やってることなんて大して変わんないっすよ。」

「そんなことないでしょう。」

「いや、まあ、多少はありますけど。でも、博子さんみたいに毎週毎週、東京の社長が銀座で

へこんだとか、大阪で洗脳したとか、そういう話持ってきてくれる方がよっぽど刺激ありますよ。」

「洗脳はしてないです。」

「でも似たようなもんでしょう。」

二人で笑う。そうやって、茄子の煮びたしをつつき、里芋をほぐし、出汁巻きを分けながら、

味噌の香りのする店の中で、ぐだぐだと二時間ほど喋る。

東京の派手な話もある。大阪の地味な話もある。

でも、その全部を、会計士先生はちゃんと面白がって聞いてくれる。

博子にとっては、それがやっぱりありがたかった。

派手な案件に持っていかれすぎず、でもその話も材料にしながら、大阪のお客さんと丁寧に

ちゃんと向き合う。金曜日の同伴は、そういう意味でも、かなりいい感じに

回っていた。

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