表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

624/758

木曜日の中之島。弁護士先生との中休みお茶時間で博子は悩みを吐く

弁護士先生は、ほんまにスーツ姿のまま、ちょこっと中之島に現れた。

博子はそれを見た瞬間、ちょっと笑ってしまう。

仕事の途中で、こうやってすぐ抜けてきてくれるあたりが、先生らしいといえば先生らしい。

「びっくりしました。」

博子がそう言うと、先生も少し笑う。

「いや、こっちもびっくりしてますよ。」

「何にですか。」

「博子さん、どうしたんですか?別に今日、何か約束してたわけでもないのに。」

二人でペットボトルのお茶とコーヒーを片手に、中之島公園のベンチのあたりへゆっくり歩く。

博子は、少しだけ視線を川の方に流しながら答えた。

「いや、煮詰まったから散歩してたんです。」

先生が、そこで少し目を丸くする。

「何に煮詰まるんですか。博子さん、絶好調じゃないですか。」

博子は、その言い方に苦笑いする。

「いやいや、違うんですよ。」

「うん。」

「最近、おじいちゃんと弁護士先生には、ま、会計士先生もそうですけども。

言うたら東京案件の、報告係みたいな形になってて。」

先生は、黙ってその先を待ってくれる。

博子は、その待ち方がありがたいなと思いながら続ける。

「木曜日、朝からお風呂とかにずーっと入ってて。いろいろ、やらなあかん種は仕込んで、

お風呂入ってたんですけど。」

「うん。」

「なんか、先生にもそうやし、おじいちゃんにもそうやし。その大阪のお客さんに対して、

結構こう……東京での座組の話を喋るだけになってないかなって。」

先生が、小さく頷く。

「なるほど。」

「自分の仕事を俯瞰で見た時に、ちょっと東京に寄っちゃってるなって思ってて。先生たちは、

それで一時の満足はあるかもしれへんけども、でも、全然お話聞けてなかったりとか。

あーなんか、私に何かできることないかな、とか思って。」

そこまで言って、博子は少し照れたように笑った。

「散歩してたら、中之島に着いたんで。ちょこっとメールしただけですよ。」

先生は、その返しを聞いて、やわらかく笑う。

「無理なら、今日は散歩して帰るし。行けるんやったら、お茶でも飲みませんか、

ぐらいの感じで来たんです、と。」

「でも。」

先生は、少しだけ嬉しそうな顔を隠さずに言った。

「そうやって真っ先に僕は思い浮かべてくれてたんでしょう?結構嬉しいですよ。」

博子は、そこでちょっとだけ視線を外す。

「そらあの、もう三択ですからと。」

先生が笑う。

「三択。」

「三択です。おじいちゃんと会計士先生と。負けがない三択だから、先生、

一番上に来てるだけですよ。」

そう言いながら、博子はちょっと照れている。

先生は、その照れ方ごと面白がるように見ている。

「でも、ゆうて一番だったんでしょ。」

「ま、ゆうて一番ですけども。」

「ほら。」

「いや、それをあんまり堂々と言うもんでもないから。」

博子がそう言うと、先生はかなり機嫌がよさそうに笑った。

その顔を見て、博子は、あ、呼んでよかったなと思う。

「どうなんですか、お仕事の方は。」

博子が話題を戻すと、先生は肩をすくめる。

「こんな時間に中休みして大丈夫ですか?って顔してますね。」

「してます。」

「いや、博子さんのためやったら、多少のところはね。どうせ夜遅いんで。」

博子は、その一言に苦笑いしつつも、すぐ釘を刺す。

「先に言うときますけども、今日はマジでお手当ていらないですからね。」

先生がちょっと意外そうな顔になる。

「え。」

「私が勝手に来て、勝手に呼んでるだけなんで。」

先生は、少し考えてから頷いた。

「じゃあ、わかりました。そこは甘えさせてもらいますけど。」

「はい。」

「なんかまた、できることあれば言ってくださいね。」

その言い方が、先生らしくて、博子は少しほっとする。

何かを返そうとする感じ。でも、押しつけがましくない感じ。

そこが、この人のちょうどいいところやった。

「そういう意味では。」

博子は、また少し真面目に話し始める。

「今は座組の他に、福利厚生関係のことも話をして。東京の方も回ってるけども。

それも、一過性というか、ネタ探しにも結構頭使って。

ご飯探しとかにも頭使ってたら、なんか足らんなあと思うところはあるんですよ。」

先生が、静かに聞いている。

「足らんって、まあ、常に足らないんですけどもね。百点なんてないんで。」

「うん。」

「なんか知的なところに行くとか。博物館に行くとか、美術館に行くとかも、あるんですけど。

それ、全然男性陣満足せえへんやんっていうところもあったりね。」

先生は、そこで少し笑う。

「たしかに。」

「私も、めちゃめちゃ趣味が合う人と行くならいいかもしれへんけど。私みたいに

“余白を探しに行くため”に行くだけやったら、何が余白になるか分かんないじゃないですか。」

先生が、そこでしみじみと頷いた。

「でも、わかりますよ。僕も結局、仕事漬けですからね。」

その言葉に、博子は少しだけやわらぐ。

「余白ね。」

先生がぽつりと言う。

「良かったらまた、余白一緒に作りに行きません?」

博子は、その言葉に少し目を細める。

「いいですね。」

「今度、別に有馬じゃなくても、ウイスキーじゃなくても。」

「でも、なんか博子さんの話聞いてたら、酒蔵は行きたいですけどね。」

博子は、その一言にちょっと笑う。

「酒蔵は全然、おいおい行きますと。弁護士先生なら。」

「お。」

「やけど最近、結構近いところ回りまくってるんで。行くなら伏見稲荷とか、

東福寺とか、九月頃とかいいんちゃいますか。」

先生が、想像するように空を見る。

「ああ、そうやな。秋口とかいいかもしれませんね。」

「でしょう。」

「でも、こういう隙間時間をちょっとずつ、一緒に過ごせたら、私は結構いいと思って

るんですけどね。」

その言い方に、先生は少しだけ照れたように笑った。

そうして二人で、気づけば一時間ぐらい、ほんまにだらだらと喋っていた。

案件でもなく、同伴でもなく、報告会でもなく。ただ、中之島で、ペットボトル片手に喋る。

その感じが、博子には思った以上に息抜きになった。

「無理せんといてくださいね。」

最後に博子がそう言うと、先生は頷く。

「また月曜日、来てくださいね。」

「はい。」

「楽しみにしてます。」

先生を見送って、博子もまた帰る。

ちょっとした息抜きにもなったし、なんかよかったな、と素直に思う。

一方その頃、先生の方も帰りしなにふと思う。

結局、弁護士先生も何もかも、博子さんに“選んでもらった”な、と。

ちょっと満足でもある。忙しい途中で抜けてきて、博子に声をかけられて、

中之島で一時間喋って帰る。そんな選ばれ方なら、悪くないなと、

先生は少しだけ機嫌よく思っていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ