金曜日。同伴前の店調整に悩む博子
金曜日。今日は清掃会社の社長との同伴。夕方、時計を見ると17時半。
集合は18時過ぎを想定している。「……店、どうしよ」
頭の中で候補をいくつか並べる。小籠包。中華。
カジュアルで、軽くて、外しにくい。
「小籠包……ちゃうな」悪くはない。でも、今日は違う。
社長は50代。派手なノリより、落ち着いた時間を好む人。
この前の焼肉も、値段より“雰囲気”を喜んでくれた。
じゃあ、何がいい。「……ふぐ?」一瞬、ふぐの文字が浮かぶ。
季節は3月。まだ鍋が美味しい時期や。ふぐ鍋。白子。ひれ酒。
「……いや、ちゃう」悪くない。でも、これも少し重い。
鍋は向かい合う時間が長い。会話が詰まると、逃げ場がない。
それに、同伴の“入り”としては、少し気合が入りすぎる。
今日は金曜日。この後、店にも行く。重すぎず、軽すぎず。
酒の流れが自然で、食べるペースも会話に合わせられる店。「……和食やな」
鍋じゃない。でも、騒がしくもない。カウンター。小鉢。季節の一品。
社長は、こういうのが好きや。“うまいもんを、静かに食べる時間”。
スマホを取り出して、店を探す。北新地の端。大通りから一本入ったところ。
派手な看板はない。でも、料理の写真がちゃんとしてる。
「ここやな」電話をかける。「18時半、2名でお願いします」
すんなり予約が取れる。金曜日にしては、ちょうどいい。
社長にメッセージを送る。「18時半に新地で和食のお店、予約しました。
落ち着いたところなので、ゆっくりできます☺️」
少しして、返事が来る。「了解。そういう店の方がええわ。助かる」
……よし。服を選び直す。派手すぎない。でも、仕事着すぎない。
今日は“営業”じゃない。でも、“ただのご飯”でもない。
このバランスが、一番難しい。鏡を見ながら、深呼吸する。
金曜日。同伴。店の前の時間。
派手なことはしない。煽らない。流れを崩さない。
ちゃんと、積み上げる夜にする。
そう決めて、家を出た。




