水曜日、おじいちゃんとだらだら話す。博子はオジサン転がすのうまいな。新しい視点を持ってきてくれるのが嬉しい
店内に入ってからも、おじいちゃんとの話はそのまま続いていく。
席に座って、ひと息ついて、軽く飲み物を整えて、さあここから店の時間やなと
いうところやけども、もう流れとしてはほとんどさっきの同伴の延長みたいなもんやった。
おじいちゃんが、博子の顔を見ながらしみじみと言う。
「博子はほんま、オジサンのさばき方えぐいわ。東京のな。」
博子は、すぐに苦笑いする。
「なんですか、その言い方。」
「いやいや、でもそうやろ。」
「そんな今さら褒め言葉みたいに言われてもな。」
「いや、褒めてるんやって。」
そう言いながら、おじいちゃんは楽しそうに笑っている。
博子も、ああまたこの話かと思いながらも、嫌ではない。
むしろ、こうやって言葉にして面白がってくれるのはありがたかった。
「だって、そこまで回してるやつおらんから。」
おじいちゃんは続ける。
「やっぱり面白いなと思うんや。」
博子は、グラスをいじりながら、小さく肩をすくめる。
「いや、でも、そうでもせんと、私やってこれへんかったし。」
「うん。」
「普通に座って、普通に喋って、普通に酒飲んで、で、指名増えます、みたいな世界だけやったら、
多分もっと早い段階であかんかったと思う。」
おじいちゃんは、その返しにちょっと真顔で頷く。
「そこやな。」
「だから、なんか無駄なこと考えてるように見えるかもしれへんけど、私の中では結構必要なんよね。」
「なるほどな。」
おじいちゃんは、そこで少しだけ姿勢を崩して、いかにも楽な顔になる。
「でも、そういう話をちょいちょい持ってきてくれたら、わしは結構退屈せんで済むしな。」
「おじいちゃんはね。」
「うん。」
「第一ビルから第四ビルの魔境に行く気はないやろ。」
「ない。」
即答やった。
博子は思わず笑う。
「でしょうね。」
「わしはちょっと行く気はない。」
「やと思う。」
「けどな。」
おじいちゃんは、そこで箸を置いて、少しゆっくり言う。
「やっぱり、自分以外の視点をくれるっていうのがありがたいなと思うのな。」
その言葉には、軽口とは違う本音が混ざっていた。
博子も、それをちゃんと受け取る。
「そこはね、めっちゃ考えてますわ。本当。」
「うん。」
「みんなは大なり小なりやってると思うんだけど、
私は多分、そこをちょっと大げさにやってるだけかもね。」
「そうかな。」
「高所得層は、多分余計にそうなのかもなって。」
おじいちゃんが「ほう」と聞く顔になる。
博子は、そのまま少し言葉を選びながら続ける。
「もう金で殴る世界、札束で殴る世界から、ちょっと違うところで、なんか気づきを求めてるやん。」
「なるほど。」
「しかも、女の子が好きなものとか、若い人が好きなものとか、そういうのを追いかける
気もないけど、自分の気づきほしいってオジサンが多いやんか。」
「まあ、そうやな。」
「そこを、“こういうのありですよ”って、私の方からちょっと置いとく。
で、それを向こうが、“自分でも行けるかも”って思えたら、ちょっと扉が開くわけよ。」
おじいちゃんは、その言い方に感心したように笑う。
「扉、開くか。」
「開く。」
「ほんで、ニーズを掘り起こしてるわけや。」
「そうそう。」
ヒロコは頷く。
「ちょっとビジネスの方に寄ってるイメージが良かったなっていうのもあるし。」
「うん。」
「その辺のところを結構ほじりながらやってるかな、って感じ。」
おじいちゃんは、そこでしみじみと博子の顔を見る。
「そこを俯瞰して、狙ってやってるところが、博子の偉いところやな。」
博子は、その言い方にちょっと照れたように笑う。
「偉いかどうかはわからんけど。」
「偉い。」
「なんか、そうやって言われると、ちょっとむずがゆい。」
「でもほんまやで。」
店の空気は、ちょうどよく回っていた。
他の卓のざわつきも、遠くに聞こえる笑い声も、全部ひっくるめて、夜の店らしい柔らかい
騒がしさがある。その中で、おじいちゃんとの二セット目は、妙に落ち着いて続いていった。
「だからな。」
おじいちゃんが、少し先を見るような顔で言う。
「将来的に、キャバクラを引退せなあかん時期が来て、スナックでもいけることができるかもな。」
博子は、そこで少し目を細めた。
「そうかもしれんね。」
「うん。」
「私も別に、色気で売ってるつもりはないしな。」
「そうやろ。」
「もちろん、見た目とか年齢とか、その時その時の流れはあるけど、私の中でメインはそこちゃうし。」
おじいちゃんは、嬉しそうに笑う。
「だから、話が残るんやろな。」
「かもね。」
「女の子と飲んでるというより、おもろい案内人と飲んでる感じがあるんよ。」
「案内人。」
「そう。でも、案内するだけやなくて、ちょっと人の頭の中までかき回して帰す感じ。」
「それは悪い言い方やな。」
「ええ意味や。」
二人で笑う。
色気で売る、若さで売る、そういうわかりやすい世界とは、博子は少し違うところにおる。
それは本人もわかってるし、おじいちゃんももうわかってる。
そして、その“ちょっと違うところ”が、今はちゃんと価値になっている。
そんなことを、だらだら話しながら、店の二セット目は気持ちよく続いていった。




