東京イキリ社長、博子の影響でお茶会を開き奨学金返済肩代わりとリファラル採用を部下に提案。興味を持たれるwww
東京イキリ社長の動きーーー
月曜日の朝からなんか妙にソワソワしていた。
土日で博子ちゃんと遊んで、気分が完全に切り替わってしまっている。
銀座でへこんだところから、京都で酒を飲んで、大阪で話して、梅田で小籠包を食べて、
グラングリーンでぼーっとして帰ったあの二日間が、思った以上に効いていた。
効いたからこそ、なんかひとつ、自分の会社でも変なことをやってみたくなっている。
若い社長たちが、金払ってケーキでも買わせて、お茶会みたいなことをしているらしい。
それを聞いた時は、何してんねん、と思ったけど、今はその“何してんねん”を自分でも
やってみたくなっている。奨学金の肩代わりの話も、ちょっと差し込みたい。
でも、どのタイミングでどう言えばええんやろうなと、朝からずっと頭の中でぐるぐるしていた。
その様子は、やっぱり部下には丸見えやった。
普段と違って、なんか機嫌がいい。でも、それだけじゃなくて、どこか言いたいことを
抱えてる顔をしている。昼前ぐらいに、側にいた部下がとうとう聞いてきた。
「社長、なんか機嫌いいのと、なんかちょっと言いたいことでもあるんちゃいます?」
「ん?」
「今日、なんかソワソワしてますよね。」
社長は、一瞬だけごまかそうとしたけれど、すぐに笑ってしまった。
「わかるか?」
「わかりますよ。」
「今日はな。」
社長は、ちょっと声を落として言う。
「思い切って、お茶会をしたいと思うねんけども。」
部下が、一瞬固まる。
「……お茶会?」
「そう。二万円やるから、なんかケーキでもなんでも買ってきて、三時のおやつの時間に、
ちょっとざっくばらんに話すとかしてみぃひんか?」
部下は、その場で完全に止まった。数秒してから、ようやく口を開く。
「社長、なんか悪いもんでも食いました?」
社長は、そこで吹き出す。
「いや、ちょっとなんか土日で当てられてさ。」
「はあ。」
「若い社長がそんなことしてるって話を聞いて、俺もやりたいんやけども。
どうせこれをやるとなったら、まあ、意見も出えへんこともわかってんねん。」
部下は、半分笑いそうになりながらも、まだ警戒している。
社長は、そのまま本音を出した。
「そんな俺がさ、ガチャガチャガチャガチャやってるやつが、急にそんなことやりだしてもさ、
ただただキモいやん。」
「それは……まあ……。」
「わかってるんや。それもわかってるけども、ちょっとやってみて、
周りがどんな空気になるのかを見てみたいんや。」
部下は、そこでとうとう笑った。
「社長、悪趣味ですね。」
「せやろ。」
「でも、面白いからやりましょか。」
そういうわけで、三時のおやつの時間。
会議室でもない、ちょっとしたスペースに、ケーキやらお菓子やらが並べられて、
みんながキョロキョロしながら集まってくる。
「何の集まりなん」「誰か辞めるんですか」「なんかお祝いですか」と、みんな微妙な顔をしている。
社長は、前に立って、「この一時間だけは絶対キレへんから」と言う。
でも、いざそうやって始めてみても、なかなか意見は出ない。
そらそうや。
急に社長が「ざっくばらんに話そう」と言い出しても、最初から全員が乗れるわけがない。
「……まあ、今日思いついたらこんなもんやな。」
社長は、半分苦笑いしながらそう思う。
で、このまま空気が固まって終わるのもあれやから、鞄から資料をバサッと出した。
「話題というか、喋ることが固まってしもたらあれやからと思って。」
みんなの視線が、そこで一気に紙の方へ向く。
社長は、その反応を見ながら続けた。
「ひとつ資料をね。もらってきたというか、ツテでちょっと調べてもらってたことがあってさ。」
もちろん博子の名前は伏せる。
そこはきっちり分ける。
でも、内容そのものは面白い。
だから、そのまま投げることにした。
「奨学金の肩代わりの話なんやけど。」
「奨学金?」
「なんかそれで、これぐらいの採用効果が出るんですよ、みたいなことが、
結構細い数字でまとまってて。で、部下にも一回聞いたんよね。その時にも
ちょろっと話はあったんやけど。これ、ちょっと読んでみてくれへんか?」
そう言って渡すと、みんなが紙を見始める。しばらくして、一人が顔を上げた。
「社長、ここまで考えてくれてたんですか?」
その一言で、空気が一気に柔らかくなる。
社長の方も、内心「お、いけるか」と少し気分が上がる。
「若手で奨学金借りてる人って、半分ぐらいいるとか聞くねんけども。ぶっちゃけどうなん?」
そこを振ると、すぐに何人かが「ああ、いますね」と頷く。中には
「自分も借りてます」と小さく手を挙げるやつもいる。
そこで社長は、少しだけ本音を混ぜる。
「そこを肩代わりしてあげよっかな、っていうのも考えてんねん。」
その瞬間、さっきまで固まっていた空気が、ちょっとだけ弾けた。
「え、社長、それめっちゃいいじゃないですか。」
「それは嬉しいっすよ。」
「若い子、めっちゃ反応すると思いますよ。」
社長は、そこで少し照れながらも続ける。
「そうか。で、まあ、それで人が辞めにくくなったりとか、テンションが上がるというかさ。
可処分所得上がるとかって、若い子は喜ぶやろうし。」
「喜びますよ。」
「それで採用とか、従業員の満足度が上がるんやったら、ありちゃいますかって話と。」
社長は、そこからさらにもう一歩踏み込む。
「それを含めて、リファラル採用をやってる会社があるらしくて。なんかそんな話も聞いたんや。」
「へえ。」
「うちの採用って、転職でもだいたいやっぱり二百万ぐらいかかるやろ。」
「まあ、かかってますね。」
「となった時に、紹介した人と、雇ったやつに三十万ずつあげて。半年経ったら継続で
三十万三十万あげる、みたいなんやったら。採用費用的には、そっちの方が抑えられる上に、
うちうちで金回せるからいいんじゃねえの、って。」
その話になると、さっきまで様子見していた連中も、少しずつ前のめりになる。
「それ面白そうじゃないですか」と。
「奨学金の話は最近ちょこちょこ聞きますし」と。
「やってくれたら、若い子は喜びますよ」と。
思った以上に、反応は悪くない。
むしろ、いい。
社長は、その空気を見ながら内心ご満悦やった。
「だから、どの辺の熱量なのかっていうのも聞きたくて、こうやってやってみたんだ」と言うと、
部下の一人が笑いながら返す。
「社長がそんなことまで考えてくれるなんて思ってませんでした。」
「そやろ。」
「いや、普通に“お茶会”とか言い出したから、何を言い出したんやろと思ってたんですけど。」
その場がどっと笑う。
社長も、その笑いに乗る。
「お前、それありがとう。今の言い方ちょっとフラットすぎるやけどな。」
でも、その“何を言い出したんやろ”という最初の違和感が、だんだん「意外と面白い」に
変わっていく感じが、今日はちゃんと見えた。
ざっくばらんに話そう、なんて急に言っても、最初は誰も乗らへん。
でも、ちゃんと玉を投げたら、拾うやつはいる。
そして、その玉が少しでも自分たちに得のある話なら、なおさらや。
お茶会は、想像していたよりずっと柔らかい空気で終わった。
社長としては、かなり満足やった。
博子に当てられて、ちょっと変な球を投げてみたら、会社の中も案外ちゃんと反応した。
それが、妙におもしろかった。




