弁護士先生をお見送りしたあと、フリーの卓でアルカちゃん、さきちゃん達と情報交換
弁護士先生を気持ちよく送り出したあと、博子は店の奥の卓に戻ると、
ちょうどアルカちゃんとさきちゃんも一緒になった。
月曜の夜もだいぶ回っていて、店内のざわつきも少し落ち着いてきている。
そんな中で、三人はようやく軽く息をつける感じになっていた。
「日曜、お疲れさんやったね。」
まず博子がそう言うと、アルカちゃんがすぐに笑う。
「ほんまやで。」
さきちゃんも頷く。
「でも、最後混ぜてくれてありがとうね。」
「いや、あれは混ぜた方がよかったと思うし。」
博子がそう返すと、二人も「それはそう」と素直に頷いた。
あのままイキリ社長を一人で受けて、一人で帰らせて、何事もなかったみたいにするよりは、
最後に一回三人で空気を共有した方が、どう考えても後に残るもんが違う。
そこはもう、三人とも感覚として分かっていた。
で、博子が水を向ける。
「あれからどう?他の社長さんたちとも連絡取ってみた?」
するとアルカちゃんが、すぐに少し苦笑いした。
「あー、取ったらなんか拗ねてたで。」
「やっぱり?」
「やっぱなんかちょっと、えー、あいつそんなところ行ってんの?みたいな。」
さきちゃんも、そこで話に乗る。
「しかも、めちゃめちゃ楽しんでましたよ、みたいなニュアンスで伝わってもうたっぽくて。」
博子が吹き出す。
「まあ、それはちょっとあるよな。」
「あるある。」
「なんか詰めなあかんな、みたいな空気はちょっとあった。」
そう聞いて、博子も少しだけ真顔になる。
やっぱりその辺の温度差は、完全には避けられへん。
一人だけ先にもう一回行ってる。しかも銀座でへこんでからの“戻り”やから、
余計に感情が乗っている。それを、残り二人が何も思わんわけがない。
「でも、あるよ。」
博子がそこで少し前向きな言い方をする。
「私、社長さんたちに“また言うといて”って言うたやん。あれ、イキリ社長が
“言うとくわ”ってちゃんと言うてたから。」
「おお。」
「だからまた多分あるやろう。水曜ぐらいにまた飲まはるんちゃうかな。」
アルカちゃんが、その言い方に少し希望を持った顔になる。
「そこでちょっと盛り上がってくれたら、こっちに足向くかもね。」
「そうそう。」
さきちゃんも頷く。
「そうやったらいいよね。」
その会話の流れのまま、三人とも自然に“次”のことを考え始めていた。
イキリ社長の流れだけで終わるわけやない。
むしろ、次に来そうなのは、あの若手三人組の方かもしれへん。
前回かなり刺さっていたし、伏見も、講義も、全部含めてかなり腹落ちしてた。
だったら、その火を消さない方がいい。
「でもなんとなく、次は東京の三人の若手の社長さんたちが来そうやから。」
博子がそう言うと、二人もすぐに乗る。
「それはある。」
「なんかその辺も、ちょっと連絡取りながらやってかなな。」
博子は、そこで少しだけ得意げに言う。
「私はあの、酒屋さん提案して、その辺はちょっと差し込んどいたけど。」
するとアルカちゃんが、負けじと口を開く。
「うちらもやったで。」
「お。」
「ちゃんと下田のところ、提案しといたし。」
さきちゃんも続ける。
「山梨は山梨で、こっちも提案しといたし。」
博子が、それを聞いて嬉しそうに笑う。
「ええやん。」
「やろ?」
「じゃあ、なんかその辺のところで一回向こうで動きがあってから、こっち来るかもね。」
「そうそう。」
アルカちゃんが指でテーブルを軽く叩きながら言う。
「なんかその辺のところ、火が消えないようにしといたら、なんやかんや、
こっちに来てくれそうな気はする。」
「うん。」
「頻度は高くないけどね。」
それは三人とも同じ感覚やった。
毎週毎週、東京から社長が飛んでくるわけやない。
そんなもん、向こうにも仕事あるし、金と時間の都合もある。
でも、月一とか、二ヶ月に一回とか、そのぐらいのペースで「また行こか」
ってなるように火を残しておく。
そこが大事や。
思い出させるフックを、向こうの生活の中に軽く差し込んでおく。
博子の酒屋。
アルカちゃんの下田。
さきちゃんの山梨。
そういうバラバラの玉が、結果的に「大阪京都おもろかったな」に繋がればええ。
「結局、全部博子ちゃんが回すんじゃなくて。」
さきちゃんがぽつりと言う。
「そうやって、こっちもこっちで差し込んどくっていう形の方が、たぶんええんやろな。」
「そうやと思う。」
博子も頷く。
「私が全部やると、博子がおもろい、で終わっちゃうし。」
アルカちゃんが、そこで笑う。
「いや、おもろいんやけどな。」
「ありがとう。」
「でもそれやと、うちらが弱くなるからな。」
「そこやねん。」
三人で、少しだけ真面目な顔になって、でもすぐにまた笑う。
最近は、このバランスの話をしても変に重くなりすぎないのがよかった。
前やったら、もうちょっと棘があったかもしれへん。
でも今は、悔しさもあるけど、共有して動く感じの方が勝っている。
そこは、ここ数週間でちゃんと変わったところやと思う。
「まあでも。」
博子が、最後に少し肩を回しながら言う。
「今日はこんなもんかな。」
「やな。」
「月曜終わった感じするわ。」
店内のフリーの卓は、またそれぞれ散っていく時間帯になっていた。
呼ばれる人は呼ばれるし、もう今日はここで終わりかなという空気の人もいる。
三人も、それぞれの持ち場に戻る。
でも、その前にちゃんと“次”の話を握れたのは大きかった。
東京のイキリ社長の流れ。
若手三人組の次の一手。
他の二人の社長へのフォロー。
酒屋、下田、山梨。
火を絶やさへんための、小さな差し込み。
そういうのを確認し合って、それぞれまたフリーへ散っていく。
月曜日は、そんなふうに終わった。
派手な事件があったわけではない。
でも、確実に水面下では何かが動いていて、その動きを三人で薄く共有しながら夜を閉じる。
今の博子たちの座組は、そういう終わり方ができるところまで、少しずつ来ている。




