八月一週目月曜日。弁護士先生との同伴前半戦。博子の東京イキリ社長の経緯を聞き爆笑する弁護士先生
刺身をつまみながら、まずは先生の方から近況の話になる。
博子が「先生、今週どうでしたか?」と水を向けると、先生はグラスを軽く持ち上げて、
少し肩の力の抜けた顔で答えた。
「最近は、まあ、ボーナスももらって一息ついてますね。」
「お、ええですね。」
「案件もぐるぐる回してるし、まあ、大きいポカとかもないから、順調に進んでるかな
というところかな。」
博子は、先生のそういう「派手さはないけど、堅実に回ってる感じ」のしゃべり方が結構好きやった。
弁護士という仕事柄もあるのか、何か特別な事件がなくても、「大きい事故がない」というだけで
十分価値がある、という感覚がちゃんとある。先生もまた、それを言葉にするのがうまい。
「休みの時はね。」
先生は、刺身をひと切れ口に運びながら続ける。
「博子さんとこうやってご飯食べに来て、なんか新しいことないかなって探してる感じです。」
「ありがとうございます。」
「いやいや。あんまりそういう意味では、まあ変わり映えはないけども。大きい事故もないから、
まあ良しかな、みたいな感じで生きてますよ。」
博子は、その返しに少し笑ってから、「じゃあ次は私ですね」と言わんばかりに肩をすくめた。
先生もすぐに「そうですね、博子さんはどうなんですか」と聞いてくる。
そのタイミングで、博子は少しだけ水曜日まで話をさかのぼる。
「まあ、水曜日にさかのぼるんですけど。」
「はい。」
「東京の年代上の社長さんで、イキリ社長って勝手に呼んでる人がいるんですけど。」
先生が、もうその時点で少し笑う。
そのネーミングの雑さも含めて、博子の話は入りやすい。
「その方が、銀座で遊んできはったんですよ。」
「ほう。」
「前回、大阪に来た時にお手当てくれたんですけど、こっちの方で、
女性陣の方でちょっと割り引いたんです。」
「割り引いた。」
「そう。また来てくださいで五万円割引。で、銀座で遊んできてくださいで五万円割引。」
そこまで言った瞬間、先生はもう笑いをこらえきれなくなる。
「何ですかそのキャンペーン。」
「いや、そういう感じで送り出したんです。」
「で、ほんまに行ったんですね。」
「行ったんです。」
博子は、ちょっと得意げとも呆れ顔ともつかん表情で続ける。
「で、私たちの大阪の遊びの話をしたらしいんです。こういう店行って、こういう流れで、
こういう感じで、って。」
「はい。」
「そしたら、銀座の女の子らに、“超面倒くさくない?”みたいな話になって。そんなことより
シャンパン下ろししよう、みたいなムーブメントになったみたいで。」
先生は、そこでついに吹き出した。
「なるほど。」
「最終的に、銀座で“いたいお客さん認定”みたいなんされて、へこんで帰ってきてはったんです。」
その一言で、先生は完全に爆笑した。
肩を揺らして、「それはおもしろい」と言いながら笑う。
博子もつられて笑うけれど、当の本人はかなり本気でへこんでたんですよ、という顔もしてみせる。
「で、その流れで水曜日の晩に電話かかってきて。」
「ええ。」
「土曜日に大阪で遊ばしてくれへんか、って。」
「はあー。」
「で、結局、土日、言うたら一泊二日で遊んだっていう感じなんです。」
そこまで聞いた瞬間、先生はまた声を立てて笑った。
「なるほど。博子さんの遊び方って、やっぱ特徴あるし、あれなんですね。」
「何ですか。」
「他で遊んでた男たちが、もう他で遊べなくなるんですね。」
博子は、思わず口を尖らせる。
「悪いことしてますね、みたいに言わないでくださいよ。」
「いや、だって。」
「違うんですって。他のその銀座とか六本木のキャバ嬢が、あぐらかいて、大した接客
してないだけですよ。」
先生は、そこを聞いて、まだおかしそうに笑いながらも頷く。
「まあ、でも、それはあるかもしれないですね。」
「だって、結構大変ですよ。」
博子は、そこで少し身を乗り出した。
「新幹線乗ってきて、一泊するって。」
「確かに。」
「大阪が安いから来るとか、それだけで来るわけちゃうんですよ。時間も使うし、ホテルも取るし、
移動もあるし。それを乗り越えるぐらい、向こうの接客に価値がないか、こっちの接客に
価値があるか、どっちかなんです。」
先生は、その言い方に少し真顔になる。
「なるほど。」
「で、今回はたぶん両方です。」
「両方。」
「向こうの接客がひどかったし、こっちの接客が、まあ、悪くなかったっていう。」
先生は、そこを聞いて、また少し笑う。
「悪くなかったどころじゃないんでしょう。」
「まあ、そうかもしれませんけど。」
「でも、それを乗り越えるぐらい、ヒロコさんの接客を受けた後、
銀座での接客がひどかったんですね。」
博子は、そこでしっかり頷いた。
「ひどかったんです。」
先生は、その返事を聞いて、しみじみとおかしそうな顔になる。
博子の方も、ここまで一気にしゃべって、ちょっとすっきりした感じがあった。
土日の一泊二日を、こうやって外から見てくれる人に話すと、改めて「変なことやってるな」と思う。
でも、変やからこそ面白いし、刺さるんやろうなと、自分でも少し思う。
先生はまだ笑いの余韻を引きずりながら、次に何を言おうかという顔で博子を見ていた。




