東京イキリ社長帰宅。博子とメール、電話をしてお手当の話と会社でお茶会をしてみる話をする。
東京イキリ社長は新幹線を降りて、家に戻って、荷物を置いて、ようやく
「ああ帰ってきたな」という空気になったところで、まずは先に博子にメールを送った。
内容としては、今日のお手当ての話と、コンサルティングの手当の話。
そこを雑にせず、ちゃんと箇条書きで整理して、こういうところが良かった、
こういうところに対して払いたいと思った、というのを自分なりに見える形にして送ったのである。
で、メールだけでは終わらず、そのあとに電話を入れる。
博子が出ると、社長は少し気の抜けた声で言った。
「帰ってきたで。」
博子は、すぐに笑って返す。
「お疲れ様でした。無事帰れてよかったです。」
「うん。でな、メール一本送ったんやけどな。」
「はいはい。」
「お手当ての話と、さっきのコンサルティングの話、ちゃんと送ってる。」
博子は、その一言だけで、ああ見てくれてるんやなとわかる。
社長は、そのまま続けた。
「それ見て、納得いかんかったらまたメールなり電話で言ってくれ。」
博子が吹き出す。
「別に気にしなくてもいいですよ。お気持ちなんで」
「いや、でも今回は別に値引きとかいらんで。勝手に一人で行ったからさ。」
「うん。」
「二人の間で握るぐらいやから、前よりもちょっと多いし、これぐらいでええかなと思うと。」
その言い方に、博子は少しだけやわらかい顔になる。
今回は三人で来た時とは違う。
一人で来て、一人で受けて、しかも前よりも熱量が高い状態で帰っていった。
それをちゃんと社長も自覚してるんやな、と。
「次もまた行くし。」
「ありがとうございます。」
「ま、そっからの話なんやけども。」
社長は、少しだけ声色を変えた。遊びの余韻のままやけど、その中にまたちょっと仕事とも
雑談ともつかん、あの独特のテンションが混ざっている。
「明日、思い切って奨学金の話をするのもそうやけど。」
「はい。」
「その他のグループで社長さんがやってくるお茶会あるやろ。おっさんの俺がお茶会を
ちょっと部下に言ってみて、また面白い話あったら、そっちに回すわ。後日談として。」
博子は、その話を聞いて思わず笑った。
「ちょっと思い切りましたね。」
「いやいや。」
社長も笑う。
「なんかそういうさ。博子ちゃんと遊んで思うのは、驚きとか、予想外の動きっていうのが、
結構こう、響くもんやなっていうのがわかったしさ。」
「うん。」
「グラングリーンでぼーっとしてたら、東京でアクセクやっててさ、なんかロジック詰めるの
とかよりも、なんかそういう変な球をボーンと投げるっていうのも、楽しいもんやなと思ったから。」
博子は、その言い方がちょっと気に入って、くすっと笑う。
変な球。たしかに自分がやってることは、ちょっとそういうところがある。
真正面からロジックを積み上げるだけじゃなくて、変な角度から投げて、
相手が面白がって拾ってくれたら勝ち、みたいなところがある。
「それで、ちょっと下を揺らしてみようかなと思うと。」
「悪い、悪い社長さんですね。」
博子がそう言うと、イキリ社長は少し得意げに笑った。
「そうやろ。」
「楽しみにしてますね。」
「うん。また話すわ。」
「はい。お疲れ様でした。」
そんな感じで電話を切る。
一方、博子の方は、改めてメールを見返す。
そこには、社長らしく、諸々を個別で箇条書きにして点数付けしてくれていて、
総額六十という形でまとめてあった。
前に三人で来てくれた時よりも、今回の方が値段が高い。
しかも、それとは別に、コンサルティングフィーを二十でちゃんと置いてくれている。
そこが、博子としてはすごくありがたかった。
ただ「楽しかったから」だけではなく、同伴の流れと、会社に持ち帰れる話を、
分けて評価してくれている。そのこと自体に、ちゃんと見てもらえてる感じがあった。
「ありがたいな。」
ぽつりとそう思う。
たぶん、これもまだ後日談みたいな形で続いていくんやろうな、とも思う。
お茶会をする。奨学金の話をまた投げてみる。
部下の反応を見る。それを後日談として返してくれる。
そういう流れが、もうすでに見えている。
そして、それが金額以上に嬉しい。
今回の六十と二十ももちろんありがたい。
でも、それ以上に、お茶会をするということ、実際に奨学金の話も動かしてみて、
ガチャガチャやってみるということ、そういうのを「面白いかも」と思って、
ちゃんと話を聞いてくれて、動かそうとしてくれてるところが、今の博子にとっては
ちょっと嬉しかった。自分が夜の席で投げたものが、その場の盛り上がりだけで終わらず、
向こうの会社の中や、向こうの日常の中で、もう一回別の形で転がっていく。
その感じが、今はとても面白かった。
「これからちょっと、面白くなりそうやな。」
そう思いながら、博子はスマホを伏せる。
疲れはある。でも、悪い疲れやない。
むしろ、次に繋がる感じのする疲れや。
ゆっくり布団に入って、明かりを落として、もう一回だけ社長のメールを頭の中でなぞる。
六十。二十。お茶会。後日談。
その単語たちが、今日は妙にやさしく見えた。
そして博子は、その先に起こりそうな新しい動きを、少しだけ期待しながら、
静かに眠りに落ちていった。




