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東京イキリ社長、帰りの新幹線で土日を振り返る。大阪京都がよかったというより博子ちゃんがよかった

東京イキリ社長は、帰りの新幹線でコーヒーを飲みながら黄昏れていた。

窓の外は、もう夕方に寄りかかりかけた色をしていて、街も田んぼも、なんとなく全部が流れていく。

新大阪を出てしばらくは、まだ大阪の余韻が身体の中に濃く残っていた。

梅田の小籠包、グラングリーンの芝生、コンビニのアイスコーヒー、そして

新大阪の改札口で最後に博子が言った「博多とか北海道もありそうな気がしますけどね」

という、ちょっとずるい一言。ああいうのも含めて、結局あの子はうまいなと思う。

水曜日の銀座での嫌な感じは、完全に消えたかと言われたら、もしかしたらまだどこかに

残っているのかもしれない。でも、少なくとも、あの時の“うわ、なんか違うな”“もう

こういう世界しんどいな”という感覚は、ちゃんと新しい楽しさで塗り替えられたかなと思う。

改めてやっぱり、京都大阪は楽しかった。

いや、京都大阪が楽しかったというよりも、博子ちゃんが楽しかったかな、と社長は思い直す。

ここまでの座組みを含んで、一緒にいて、いろんな気づきをくれて、その上に資料までくれた。

遊んでるようで遊ばせてくれて、でも最後には何か一個、会社に持って帰れるものまで差し込んでくる。

なんなんやろな、あの子は、とちょっと笑いたくなる。

それで、鞄の中に入っている例の資料のことを思い出す。

奨学金返済の肩代わり。あれ、前に会社戻った時にちょろっと話したら、

思ったより食いつきが良かった。ということは、今回またちょっと進めてみるか、

という遊び心まで芽生えてきている。

単なる「ええ話聞いた」で終わらんのが、博子ちゃんの怖いところや。

あれを受け取ったら、なんか一回、自分の会社で試してみたくなる。

博子ちゃんの別枠の若い東京の社長たちは、お茶会みたいなこともしてるんか、と。

あいつらあいつらで、機嫌よくケーキでも買って、社内で雑談しながら話回してるらしい。

ほな、自分がやったらどんな反応が出るやろな、という面白さも出てきた。

そういう意味では、今回の一泊二日は遊びやったはずやのに、遊びだけでは終わっていない。

それが妙に心地よかった。

コーヒーをひと口飲んで、イキリ社長は少しだけ身体をシートに沈める。

これはまた来るな、と素直に思う。もう一回ぐらい六本木には顔を出すかもしれん。

付き合いもある。でも、気持ちはかなり大阪に向いてしまっている。

しかも今回は、一人で来た。

他の二人の社長には、ちょっと悪いことしたなという気持ちは、ちゃんとある。

あの二人も、多分来たら楽しむ。というか、この前の三人で回った時も、全員ちゃんと楽しんでいた。

だからこそ、今回一人で来てしまったのは、まあまあやらかしてる自覚もある。

でも、銀座でへこんで、そのままにしとくのも嫌やった。それを立て直したかった。

その意味では、今日来てよかったと胸を張って言える。

それを向こうの二人にどう言うか、ちょっと考えながら、またニヤける。

新幹線は、するすると名古屋あたりまで来ていた。

窓の外の景色が少し都会っぽくなってきて、車内の空気もなんとなく落ち着く。

そこで社長は、コーヒーのカップを小さく揺らしながら思う。

そろそろ、一泊二日の総括というか、博子ちゃんへのお手当てのことも考え出すか、と。

今回の流れを、イキり社長目線で整理していく。

まず、土曜。京都駅で迎えがあった。

この時点で、まず一点。

東京から来て、駅で迎えられるというだけで、やっぱり気分が違う。

雑に現地集合して、店に滑り込むのとは違う。

そこから清水五条まで流して、日本酒の店。

ここがまたえぐかった。十四代、而今、新政。しかも、あの値段。

銀座で先に「何開けます?」から始まる世界を食らったあとに、あれを見せられたら、そら効く。

まずここで、でかい加点やな、と社長は思う。

しかも、ただ酒が安いだけではなくて、「これ、東京戻ったら自慢できますぜ」と一言添えてくる。

ああいうのがうまい。あれでかなり回復した。

そのあと、大阪の店に戻って、店の中でもちゃんと話せた。

博子ちゃん一人だけやなくて、さきちゃん、アルカちゃんも混ぜて、最後に明日の

流れまで四人で話した。あそこもええ判断やったと思う。

あのまま博子ちゃんと二人だけで濃く終わってたら、また温度差が出る。

でも、あそこで軽く混ぜたから、なんか悪いことを一緒にしてる感覚が出た。

あれは、多分この子なりのチーム運営なんやろうなと思う。

そこも加点や。で、日曜は日曜で、梅田の小籠包。

駅近。二千二百円。デザートまでついてる。これもえぐい。

梅田であの値段であの満足感は、普通に通いたくなる。

しかも、そのあとグラングリーンで芝生見ながらコンビニコーヒー。

あれも妙に良かった。派手じゃない。でも、記憶に残る。そこがでかい。

「……悪ないどころちゃうな。」

社長は、小さくそう呟く。かなりええ。

かなりええどころか、東京での普段の遊び方と比べると、相当満足度が高い。

ここまでくると、いくら包むか、というより、どう評価するかの方が先に頭に来る。

銀座で雑に金を使って終わるのとは、やっぱり質が違う。

あとは、この後に会社で奨学金の話を回して、もし反応が良かったら、その後日談自体が

また博子ちゃんへの返礼になる。そういう返し方もできる。

金だけじゃなくて、結果も返せる。

それを含めて考えたら、今回の一泊二日は、ただの一泊二日やない。

遊びと気づきと、次の玉までセットやった。

社長は、そう思いながら、そろそろ本気で“今日のお手当て”をどうするか、

頭の中で数字を組み始めていた。

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