日曜日。東京イキリ社長は満足して新大阪から東京へ帰る。最後まで気づき多い大阪やったとイキリ社長
「ま、そろそろ行きますか。」
グラングリーンの芝生の前で、アイスコーヒーを飲み終えたところで、博子がそう言うと、
イキリ社長も「せやな」と頷いた。ぼーっとする時間をちゃんと取ったあとやから、
変に名残惜しさでだらだら引っ張る感じにもならない。
今日はここまででちょうどいい。
そういう区切り方ができるのも、博子の流れのうまさやった。
そこから二人で新大阪まで少し移動する。
梅田から新大阪までは、言うたらすぐや。
でも、その“すぐ”の間にも、社長の顔はだいぶ落ち着いていた。
水曜に銀座でへこんで、土曜に京都で迎えられて、日曜は梅田で小籠包食って、
芝生見て、コンビニコーヒーで締める。
その一連の流れが、たぶんこの人の中で、かなりちゃんと“回復”として機能していた。
新幹線の改札口の前まで来ると、博子は少し立ち止まって、イキリ社長の顔を見た。
で、最後に、軽く一言添えるみたいに言う。
「東京からここまで来てもらって、なんかひょっとしたら気づきがあったかもしれませんけども。」
社長が、少し笑う。
「ひょっとしたらどころちゃうやろ。」
博子も笑い返しながら続ける。
「多分、地方で言うと、博多と北海道はそういうのありそうな気がしますけどね。」
「え。」
「もちろん、大阪に来てほしいですけど。」
「うん。」
「でも、そういうところを探検するのも楽しいんちゃいますか。」
その言い方に、社長は思わず吹き出した。
「お前、その辺ずるいぞ。」
「何がですか。」
「なんか縛らへんのも、またずるいな。」
博子は、ちょっと肩をすくめて笑う。
「何言っても、ずるいになりますやん。」
「なる。」
「それ、ずるいです。」
二人で笑う。
でも、社長が言ってることも、少しわかる。
大阪だけに来てください、私だけ見てください、みたいに縛るんやなくて、
“他も探検したらええんちゃいますか”と扉を広げる。
でも、その上で“やっぱ大阪よかったわ”って戻ってくる流れを作っている。
それが、たしかにちょっとずるい。
博子は、そこで少しだけ真面目な顔になった。
「でも、もし私のことずるいと思うなら。」
「うん。」
「昨日喋ってた奨学金の話ですね。それ、ちょっと会社で落とし込んで、
ぐるぐるかき回してみてくださいよ。」
社長が、そこで目を細める。
「まだ言うか。」
「まだ言います。」
「なんか面白い話、出てくるかもしれませんよ。」
その一言に、社長は苦笑いしながらも、ちゃんと頷いた。
「お前、その辺のところしっかりしてるよな。」
「一応。」
「遊びの最後に、ちゃんと次の玉投げてくるもんな。」
博子は、少し照れたように笑う。
「それが仕事ですから。」
社長は、新幹線のチケットを軽く指で叩きながら言う。
「今日のお手当とかも、新幹線でちょっと考えながら、またやり取りもするし。」
「はい。」
「その後日談も話すし。あと、社長たちとも、実はちょっと隠れて行ったことも言うから。」
ヒロコが、そこで少しだけ目を上げる。
「へえ。」
「温度感とかも見るからさ。その辺、また言うわ。」
「お願いします。」
社長は、そこで少しだけ声を落とした。
「他の子たち二人も、なんやかんやちょっと心配してんやろ。」
博子は、そこはごまかさずに頷く。
「そうなんです。」
「やっぱりな。」
「博子ちゃんがこう、頭一つ出ちゃったから、多分その辺のバランスもあるやろうし。」
「うん。」
「遊び方も教えてもらったしな。」
社長は、少し笑いながら続けた。
「魔境で遊ぶっていうやつも教えてもらったし。」
博子が吹き出す。
「第一ビルから第四ビルですね。」
「そうそうそうそう。」
「その辺のところは、ちょっとまるっとやってみるわ。」
「ぜひ。」
「何でもかんでも、博子に連れてってもらうんじゃなくてな。」
「その方が絶対いいです。」
「で、たまに戻ってきて、答え合わせするぐらいがええんやろ。」
博子は、その言い方に少しだけ嬉しそうに笑った。
「それ、めっちゃいいですね。」
改札の向こうは、もう人の流れができている。
そろそろほんまに行かなあかん時間や。
社長は、一歩だけ改札の方へ寄ってから、また振り返る。
「しかし、ええ二日やったわ。」
「よかったです。」
「銀座でへこんで、電話して、来てよかった。」
「でしょ。」
「でしょ、ってお前な。」
「ほんまのことですから。」
また二人で笑う。
その笑いの中に、土曜の京都、日本酒、日曜の小籠包、芝生、コーヒー、そして店の中での話、
全部が少しずつ混ざっていた。
「ほな、また連絡するわ。」
「はい。」
「お手当ても、後日談も、社長たちの温度感も。」
「全部待ってます。」
「待ってるって言われるとプレッシャーやな。」
「ずるいって言われるよりマシでしょう。」
社長が、最後に声を出して笑った。
「それはそうや。」
そう言って、ようやく改札を抜けていく。
博子は、その背中を見送りながら、少しだけ息をついた。
一人で来た社長を、ちゃんとリセットさせて、また次の話まで持っていく。
今日の役割としては、十分すぎるぐらいやった。
しかも、最後にちゃんと“縛らない”で終われた。
それが、自分でもちょっとよかったなと思う。
イキリ社長は振り返って、小さく手を上げた。
博子も軽く手を返す。
で、新幹線の人混みにその姿が紛れていくのを見ながら、博子は小さく笑った。
「ずるいって、便利な言葉やな。」
そうひとりごちてから、今度は自分の帰り道へ向かう。
社長は新幹線の中で、お手当てのことも、後日談のことも、他の二人への温度の渡し方も考えるやろう。
博子の方も、さきちゃんとアルカちゃんへの共有の仕方を、また少し考えなあかん。
けれど、その全部を含めて、今日の締めはきれいやった。
新大阪の改札前には、そういう“きれいに終わった日”の余韻だけが、静かに残っていた。




