小籠包を堪能しながら大阪の第一ビルから第四ビルでのごちゃごちゃを提案する博子。遊べる場所はまだまだありますよ(笑)
小籠包が運ばれてくると、博子はすぐに手を止めて、社長に向かって少し真面目な顔で言った。
「これ、ちゃんとあれですよ。」
「うん?」
「中の汁をちゃんとすすってから食べないと、ほんまに熱々になるんで気をつけてくださいね。
ほんまに。」
イキリ社長は、そこで思わず笑う。
「そこまで言うんか。」
「言いますよ。」
「お前は介護士か。」
博子も、すぐ笑いながら返す。
「まだ介護するほどの年齢じゃないじゃないですか。」
「それはそうやけど。」
「でも、なんかこうやって女の子に翻弄されるのも悪くないんじゃないですか。」
その言い方に、社長はちょっと間を置いてから、妙に素直に言った。
「いや、博子ちゃんなら悪くないわ。」
博子が「ほんまですか」と笑う。
社長は、そのまま小籠包を箸でそっと持ち上げながら続ける。
「銀座の女でなんか好き勝手やられるわがままとは違って、なんか
接待してくれてる感じが気に入るわ。」
「でしょう。」
「お前、おかんか、みたいな感じでツッコミもできるしな。」
「そうでしょう、そうでしょう。」
博子がそう言いながら、小皿の生姜を寄せる。
社長は、言われた通り、まず皮を少し破って、中の汁をすする。
その瞬間、目を見開いた。
「うわ。」
「でしょう。」
「肉汁がすごいな。」
「すごいでしょう。」
社長は、そのままひと口食べて、素直に頷く。
「美味しい。」
「よかった。」
博子も、自分の小籠包を持ちながら、満足そうに笑う。
この“最初のひと口で顔が変わる感じ”が、やっぱり好きやった。
東京の社長でも、おじいちゃんでも、ここはちゃんと刺さる。
そこにちょっとした確信がある。
「これね。」
博子が続ける。
「一応セットなんですけど、個別でも頼めるんです。」
「へえ。」
「だから、また別の方と来る時とか。社長たちで夜とか来て、単品で頼む時には、
こうやって四個入りのセットをちょこちょこ並べながら、呑むなんていうのも、
ありやと思いますよ。」
社長が、その絵を想像したみたいに頷く。
「ええな。」
「なんか変に、居酒屋とかに行くのもなんなんでね。」
「たしかに。」
「でも、まあまあ、ここら辺の界隈で言うたら。」
博子は、少し楽しそうに話題を広げる。
「魔境と言われる第一ビルから第四ビルまでの地下の立ち飲み屋とかもあるんで。」
「魔境。」
「そう、魔境です。」
社長が吹き出す。
「言い方。」
「でもほんまにそうなんですって。なんかそういうところも楽しんでもらえたら。
あとは東通りみたいなところもあるし。」
社長は、その話に興味を持ったように身を乗り出す。
「だからなんか、大阪ってありやな。」
「ありですよ。」
「東京で言ったら、いろんな役割の界隈がギュッとしてる感じやな。」
博子は、そこをすぐに拾う。
「そうなんですけどね。ほんまに、大阪で遊んでるって言ってても、どこの筋で遊んでるかで、
全然遊び方が違うみたいな感じでありますよ。」
「なかなか奥深いな。」
「でしょう。」
「まだまだ全然楽しめるわ、大阪って。」
博子は、その言葉に少しだけ嬉しそうに笑う。
「ありがとうございます。」
社長は、汁そばの方にも箸を伸ばしながら、しみじみ続けた。
「やっぱり、新幹線乗って帰って、休んで、ホテル泊まって、っていうのを考えたら、
奥行きがなかったらなかなか飛んでこれへん。」
「それはそうでしょうね。」
「ただ安いとか、ただ女の子がかわいいとかだけやと、続かへんねんな。」
「うん。」
「その先に、“まだ知らん遊び方がある”とか、“まだ見てない大阪がある”って思えるから来れる。」
博子は、その言い方にかなり納得していた。
結局、東京から来る人たちは、金があるから来るんやなくて、“次がある”と思えるから来る。
だから、引き出しは大事や。けどそれは一人で全部抱え込まんでもええ。
博子は、その流れでまた少し先を見せるように言った。
「多分、そうやって飲むところとかを、第一ビルから第四ビルで美味しいところ
探すとかになってきたら、やっぱ社長さんのお友達の社長さんとかも来て、
わちゃわちゃやるのも悪くないと思いますよ。」
社長が頷く。
「あ、まあ確かにな。」
「それもそうやと。」
「一から十まで、博子ちゃんに全部案内してもらうのも、それはそれでちょっと
やりすぎ感あるしな。」
博子は、その返しに嬉しそうに笑う。
「でしょう。」
「自分で探す楽しさもあるな。」
「あるでしょう。」
博子は、そこで少しだけ目を細めた。
「結構、社長さんたちの入り口は、扉は開いてる感じしますけどね。」
社長は、その言い方を聞いて、小さく笑う。
「扉、開いてるか。」
「開いてます。」
「お前の言い方、ほんまうまいな。」
「そうですか。」
「うん。全部こっちで面倒見ます、じゃなくて。“入口は開いてますよ”って言われると、
ちょっと自分でも動きたくなる。」
博子は、その言葉に静かに頷いた。
まさにそこや。
全部差し出すより、少し先を見せる。
その方が、人は自分で踏み込みたくなる。
そして、自分で踏み込んだ場所の方が、ちゃんと記憶に残る。
そんなことを話しながら、二人はご飯を堪能していく。
小籠包の熱、汁そばのやわらかさ、梅田の真ん中でゆっくり話せている気楽さ。
銀座でへこんだ流れからここまで戻ってきた社長にとって、
この時間はかなり気持ちのいいものになっていた。
博子も、それを横で見ながら、やっぱり“入口を作る”のは面白いなと思っていた。




