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十五分で残すフック。不動産社長とのフリー卓。

次にフリーが回ってくるまで、少し時間が空いた。

一時間ほど。博子――中身は博之は、グラスの水を口に含みながら、

さっきの席を頭の中で反芻していた。完璧ではなかったが、ゼロでもない。

一本目としては、悪くない。「次、博子」呼ばれて顔を上げる。

今度の相手は、五十代前半くらいの男性だった。背筋が伸び、

話し方にも自信がある。名刺は出ないが、雰囲気で分かる。――社長やな。

席に着き、挨拶を交わす。「お仕事帰りですか?」「まあな。不動産やってて」

来た。博之の頭の中で、引き出しが静かに開く。博之は、生きていた頃、

不動産投資を真剣に考えたことがあった。資料を集め、セミナーにも顔を出し、

何人もの不動産会社の社長と話した。結局、踏み切れなかったが、

業界の空気や言葉遣いは、それなりに身についている。

「不動産って、大きな金額動かすじゃないですか」少し間を置いてから言う。

「リスク取って、ああいう仕事されてるの、すごいなって思います」

相手は、軽く鼻で笑った。満足そうでもないし、否定するでもない。

――この人は、単純なヨイショには乗らん。

「でも、正直」博子は、首を傾げる。

「どういう興味から入ったらいいんですか? 私、数字とか苦手で」

相手の目が、少しだけ動いた。「最初から分かるやつなんておらんで」

そう言って、グラスを置く。「俺も最初は失敗ばっかりやった」

――きた。この人は、“聞いてほしい”。

「そうなんですね」「失敗って、やっぱり怖くなかったですか?」

問いを投げると、相手は少し考え、話し始めた。若い頃の話。

最初に買った物件。思ったほど回らなかった時期。そこからどう立て直したか。

博子は、合いの手を打ちながら聞く。知識を出さない。評価もしない。

ただ、「ちゃんと聞いている」ことだけを伝える。

「まあ、仲良くなったらな」話の途中で、相手がふっと笑った。

「そういう話、また教えたるわ」「本当ですか?」

博子は、少しだけ声を弾ませる。

「もし、またお誘いいただけたら、ぜひお願いします」

相手は、悪くない顔をした。この人は、女の子に正解を求めていない。

分かっているふりでもなく、媚びでもなく、ただ“話が通じる相手”を求めている。

十五分ほどで、時間が来た。博子は、丁寧に頭を下げて席を立つ。

フロアに戻りながら、博之は思った。――これやな。

場内がかかるかどうかは、分からない。だが、今日は二人とも、

悪い終わり方をしていない。話に興味を持つ。相手の仕事を理解しようとする。

相手が話したいところを拾う。「一刺しは、できたな」

広之は、静かに満足していた。派手な盛り上がりはない。ドリンクも

無理に入っていない。だが、“話が分かる女の子”としてのフックは、

確実に残せた。感覚ではない。これは、再現できる。

博子は、次の席に備えながら、そう確信していた。

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