東京イキリ社長お見送り後、博子は明日のために早上がりする。アルカちゃんとさきちゃんは気遣いに気づくと同時にくやしさと東京の社長達に刺す武器がいると痛感する
店の空気自体はまだ全然回せる感じやったけれども、明日のアフターをちゃんと
仕上げることを考えたら、今日は欲張らん方がええ。最後の一時間は早帰りすることにした。
そういう判断を博子はするようになってきていた。
帰る前に、さきちゃんとアルカちゃんのいるところへ顔を出して、軽く話す。
さっき四セット目で混ぜた流れの余韻もまだ残っていて、二人とも少しやわらかい顔をしていた。
「いや、最後混ざってくれてありがとうな。」
まずそう言ったのは、博子の方やった。
すると、アルカちゃんがすぐに笑う。
「毎度毎度やん。」
さきちゃんも、小さく頷く。
「でも、あれは混ぜた方がよかったと思う。」
博子は、そこで少し真面目な顔になる。
「やっぱり一人、パンと出てきたら、そこは慣らした方がいいと思うんやね。熱量的にも。」
「うん。」
「やっぱ三人でバンと来てくれる方がいいし。行き帰りの新幹線で反省会とかしはるやん。」
アルカちゃんが「ああ、それはある」と言う。
博子は、そのまま続ける。
「一人で行って帰る時って、行きは勢いよくても帰りの物寂しさとかで、冷静になったりする時が
あるから。そこは、なんか“一緒に悪いことした”っていう感情を出すのが、
私の座組的にはいいと思ってんのよ。」
さきちゃんが、そこでちょっと感心したように笑う。
「博子ちゃん、ほんまそういうの俯瞰して見てるんよな。」
博子は、少しだけ照れたように笑う。
「いや、まあ、見ざるを得んというか。」
「でも、その見方がえぐいねん。」
「そうかな。」
「そうやって、一人で完結させへんようにしてるの、でかいと思う。」
博子は、その言葉を聞きながら、さっきの四セット目を思い返していた。
あの社長は、今日一人で来た。
銀座でへこんで、京都で持ち直して、大阪でまた話して、かなり熱は上がっている。
でも、だからこそ、その熱を“博子だけのもの”に見せすぎたら危ない。
他の二人との温度差が、またじわっと残る。だから最後に混ぜた。
あれは、たぶん正解やった。
「ただな。」
博子は、少しだけ声を落として言う。
「ちょっと資料とかも出してしもたから、その辺のところの熱量の差は、
また出てくると思うねんけども。」
アルカちゃんとさきちゃんが、そこで少しだけ真顔になる。
講義。制度コンサル。数字。その辺は、たしかにヒロコの強い札や。
でも、その札を切るたびに、どうしても“博子にしかない感じ”は強くなる。
「そこは、また追い追い調整でいいかなと思ってる。」
博子がそう言うと、サキちゃんが頷いた。
「うん。一気に揃えるの無理やしな。」
「そう。」
「で、若手の三人の社長と比べて。」
博子は、少し考えながら言葉をつないだ。
「今回の社長たち三人は、結構、銀座でやられてるから。その辺のところは、
個別に軽く揺さぶって出てもらえたら、ひょっとしたら来るかもしれんし。
その辺のところまでは、ちょっと私は見切れへんから。」
アルカちゃんが、そこをすぐに受けた。
「分かってる。」
さきちゃんも続ける。
「その辺のところまでは見切れへんの、私らも分かってるから。そこは任して。」
その返事に、博子は少しほっとする。
全部を自分一人で背負わなくていい、という感覚が、やっと三人の間で共有できるように
なってきている。前やったら、ここで変な遠慮が出たかもしれへん。
でも今は、「情報共有だけしとこう」「あとはそれぞれで動こう」が、ちゃんと成立している。
博子は、最後に少しだけ笑って言う。
「そうやって情報共有だけしとこうね、みたいな。」
「それでええと思う。」
「うん。」
「何がどう転ぶか分からんしな。」
「そう。」
そこまで話して、博子は立ち上がる。
「そんなところで、今日は明日あるから帰るわ。」
「おつかれ。」
「明日また頑張って。」
「無理せんときや。」
二人にそう言われて、博子は軽く手を振って帰る。
背中を向けたあと、アルカちゃんとさきちゃんは少しだけ顔を見合わせる。
多少の悔しさは、やっぱりある。それはある。
今日だって、結局一人で来た社長を受けたのは博子やし、熱量が上がってるのも博子のところや。
そこに対して、まったく何も思わないわけではない。
でも、その悔しさをそのままぶつけても、意味がないことも二人は分かっていた。
「でも、そこら辺を察してくんのがヒロコちゃんやしな。」
アルカちゃんが、ぽつりと言う。さきちゃんも、小さく頷く。
「うん。あれを最後混ぜてきたのも、たぶんそういうことやし。」
「納得はしてる。」
「してるけど。」
「してるけど、自分らも個別で来てもらえるぐらい、やらなあかんな。」
その言葉には、ちょっとした悔しさと、ちょっとした前向きさが両方混じっていた。
東京と大阪の差。銀座と新地の差。
高いだけの世界と、工夫で刺す世界の差。
そこをどう使うか。博子が前でやってることを見て、自分たちも“何か仕掛けを作らなあかんな”
という気持ちには、確かになっている。
「やっぱ、なんか一手いるな。」
さきちゃんが言う。
「うん。ただ座ってるだけじゃ、東京の人らには弱いかもしれん。」
「でも、全部博子ちゃんみたいにやるのも違うしな。」
「そこやねん。」
二人は、そんなことをぽつぽつ言いながら、またそれぞれの持ち場に戻っていく。
博子は博子で、明日のアフターに向けて帰っていく。
アルカちゃんとさきちゃんは、多少の悔しさを飲み込みながらも、
自分たちなりの仕掛けを考え始めている。
そういう意味では、この三人の座組は、ちゃんと前に進んでいる。




