おじいちゃんの余韻が残る中、フリー待機で集団で浮いているおじさまを見つける。
二セット。白州十二年。五万円。
ボトルはまだ余韻を残したまま、静かに片付けられた。
おじいちゃんは満足そうに笑って、「今日はここまでやな」と言って帰っていく。
無理に引き止めない。その背中を見送るのも、もう慣れてきた。
席が空き、博子は一人になる。――この人や。
今日の夜で、それがはっきりした。シャンパンを煽らなくていい人。
長い話をして、グラスの減りを気にしない人。派手さよりも、時間を買ってくれる人。
「どのお客さんが自分に合うか」それを、頭じゃなく身体で理解した夜やった。
フリー待ちになり、博子はフロアをゆっくり見渡す。北新地らしい顔ぶれが揃っている。
北浜の証券会社の人たち。弁護士。会計士。それぞれが、それぞれの距離感で座っている。
その中で、ふと目に留まった卓があった。サラリーマンの集団。
勢いはある。声も大きい。けれど、その端に――一人だけ、少し浮いている男がいる。
年は五十前後。スーツは良いが、派手ではない。グラスは進んでいるのに、
話の輪にうまく入れていない。「集団が苦手な人やな」博子は直感でそう思う。
ああいう人は、付き合いはできる。仕事もできる。
でも、大勢のノリが苦手で、気を遣いすぎてしまう。
昔、部下や取引先と無理して飲んできた口。今はもう、正直しんどい。
黒服と目が合う。「行ってみる?」軽く顎で示される。
博子は一瞬だけ考えて、うなずいた。集団に混ざるのは得意じゃない。
でも、あの“浮いている一人”には、声をかけられる気がした。
「失礼します」席に入ると、場の空気が一瞬止まる。でも、それでいい。
「今日はお仕事帰りですか?」一番端の男に、自然に話しかける。
男は少し驚いた顔をして、「あ、はい……まあ」と笑った。その笑い方で、確信する。
――この人も、静かに飲みたい側や。博子は、無理に場を盛り上げない。
シャンパンの話もしない。ただ、ゆっくりと会話を拾っていく。
白州を飲んできた後の夜。自分が立つ場所が、はっきりと見え始めていた。
派手な真ん中じゃない。でも、確実に“残る席”。
北新地で生き残る女のポジションを、博子はまた一つ、身体で覚えた夜やった。




