弁護士先生一行と同伴の店に行く。あらかじめ段取りするも余白を作る。弁護士先生もようやく緊張がほぐれてきて幹事の博子と税理士先生は安堵する
夕方にはまだ少し早い時間やったけども、博子としては、それぐらいがちょうどよかった。
昼の伏見は、酒蔵から鳥せい、黄桜まで、言うたらテンポよく切って切って回してきた。
あれはあれで綺麗に決まったけど、ここから先は同じように急かす必要はない。
むしろ、ここまで連れてきたからこそ、ここからは“ゆっくりさせる”のが仕事やなと思っていた。
店に入って、六人で落ち着ける席に通されると、博子はまず全体を見渡してから、軽く笑って言った。
「すいません、今日は矢継ぎ早にいろいろ紹介させてもらいましたけども。
ここからは、ちょっと時間多めに取れそうなので、ゆっくりしましょうということで。
始めましょうか。」
その言い方に、税理士先生がすぐに笑う。
「いやいや、こっちは全然ええんやけどな。でも、そう言われると、
たしかに今日はよう回ったなって感じするわ。」
弁護士先生も頷いた。
「うん。ここまでテンポよく来たから、逆に今“ゆっくりしましょう”って言われるの、
ありがたいです。」
博子は、それを聞いて少しだけ肩の力を抜いた。やっぱり、ここは“休ませる場”として
置いたのが正解やった。で、そのうえで、全部を放りっぱなしにするんやなくて、
最初の入り口だけは整えておく。そこが今日の最後の段取りや。
「一応ですね、軽く何品かはあらかじめ言うてるんです。」
「出た。」
保険会社の人が笑う。
もうこの日一日で、“博子が最初の数手を打つ”というのは全員わかってきていた。
博子は、指を折るみたいにしながら並べた。
「天ぷらと、魚のかま焼き。あと、さっき話聞いたらハマチのいいのがあるって言うてたので、
それも。で、出汁巻き、茄子の煮びたし、小芋のころがし、このへんは頼んでます。」
税理先生が、そこで吹き出す。
「そこまでやるか。」
「そこまでやります。」
博子も即答する。
「ただ、そこから先はもう皆さんご自由に。お酒とかも、やっぱりお好きなものあると思うんで、
そこは自由にやりましょう。」
弁護士先生が、そこでちょっと安心したように笑った。
「いや、ここまで回してもらったら、もう全部俺もやってもらいたいなと思ってしまいますけどね。」
「先生、それはあかんです。」
「なんでですか。」
「最後は皆さんも好きにしてもらわんと、息苦しくなるでしょう。」
税理士先生が横から口を挟む。
「いやでも、正直ここまできたら、全部任せてもええかなって気にはなるで。」
「なる。」
保険会社の人も同意する。
さきちゃんとアルカちゃんも、そのやり取りを見ながら笑っている。
全員が、なんとなく一つの流れに乗れた感じがあった。
博子は、そこを見てまた一つだけ補足した。
「席替えタイムは、いるかいらないかわからないですけど。まあ、そのへんも含めて、
ここではゆっくりやりましょうっていう感じです。」
その言い方がまたちょうどよかった。
“席替えします”と決め打ちせず、でも“動いてもええ余白”は残す。
それぐらいのゆるさが、今日の最後には合っていた。
料理が出てくる。まずは出汁巻き。きれいに巻かれていて、出汁がちゃんと効いてる。
茄子の煮びたしも、昼の伏見からの流れの中で、妙にしっくりくる。
小芋の煮っころがしなんか、こういう時に出てくるとやたら嬉しいやつや。
それに加えて、天ぷら、魚のかま焼き、ハマチ。派手じゃないけど、ちゃんと
“今ここで食べたい”に当たっている。
弁護士先生が、かま焼きをほぐしながらしみじみ言う。
「うわ……これ、うまいですね。」
ヒロコは、その一言を聞いて、内心ほっと安堵した。
昼の伏見でだいぶ満足度は上がってたから、ここで外したくなかった。
でも、最初の一口でそれが出たなら、もう大丈夫や。
「よかったです。」
税理先生も、天ぷらをつまみながら満足そうに笑う。
「いや、安心して任せられるわ。今日一日、ほんまにそうやったけど、
最後までちゃんと落としてくれるな。」
「ありがとうございます。」
「しかも、変に高級高級してへんのに、ちゃんと満足感あるのがええねん。」
それは、博子としても狙っていたところやった。
高いものをぶつけるんやなくて、その場に合ったものをちゃんと出す。
その方が、今日みたいな“交流の場”では効く。
アルカちゃんも、保険会社の人と楽しそうに喋っている。
さきちゃんはさきちゃんで、弁護士先生の前に座ったまま、変に気を遣わせないぐらいの
軽さで会話を回している。税理士先生も、それを見ながら満足してるのがわかる。
自分が連れてきた弁護士先生がちゃんと馴染んでいて、女の子たちも気持ちよく動いている。
その全体の空気に、一番ほっとしてるのは税理先生かもしれへんな、と博子は思った。
「なんか、ここまで来ると、もう安心しかないですね。」
弁護士先生がぽつりと言う。
博子は、その言い方に少し笑う。
「先生、さっきまでちょっと緊張してはりましたもんね。」
「してましたよ。だって、初対面で、しかもなんか全部設計されてる座組って聞いてたから。」
税理士先生が、その一言にまた笑う。
「でも、ええやろ。ゴルフ接待もええけど、こういうのもありやろ。」
「全然ありです。」
保険会社の人もすぐに乗る。
店の中の空気はもうだいぶ丸くなっていて、最初に大阪駅で集まった時のぎこちなさは
ほとんど消えていた。
博子は、その様子を見ながら、ようやく少しだけ“今日は大丈夫やな”と思えた。
昼の段取りを外さず、最初の空気も作れて、最後にちゃんとゆるませることもできている。
しかも、三人の女の子もそれぞれちゃんと役割を果たしてくれている。
それが嬉しかった。
「いやあ、ほんま、うまい。」
弁護士先生がもう一回そう言って、天ぷらを口に運ぶ。
税理士先生も「今日はええ日やな」と機嫌がいい。
保険会社の人も、アルカちゃんと何やら楽しそうに笑っている。
さきちゃんも、いつもの柔らかいテンポでそこに馴染んでいる。
それを見て、博子はようやく安心した。
今日の座組は、たぶん成功や。
東京の台風とは違う。でも、こういう穏やかな回し方も、ちゃんと自分たちの形としてありやなと
思いながら、博子はグラスをそっと持ち上げた。




