蒼空の蔵元で純米大吟醸と純米酒を堪能。博子が解説。どこの回しもんやねんwww伏見の名店鳥せいに向かう
藤岡酒造の中に入ると、奥にきれいに飲めるところがある。
博子はそこで、六人を自然に横一列に流し込むように入れていった。
誰がどこに座るとか、変に固めすぎず、でも会話が途切れへん並びにする。
その感じを見て、税理士先生がもう笑ってしまう。
「ここまで設計されてるんちゃうか、ほんま。」
博子も笑って返す。
「平日やからですよ。土日やったら、こんな綺麗に横入れできへんです。」
弁護士先生が、店内を見回しながら小さく頷く。
「なるほどな。今日が平日でよかったって、こういうところにも出るんですね。」
「そうなんです。でも、ここで長居するわけじゃないですけどね。
二十分か三十分ぐらいです。」
「短いんや。」
「短いです。でも、そのぐらいがちょうどいい。」
そう言って博子がまず勧めたのは、蒼空の純米大吟醸やった。
「これはもう、まず飲んでください。本当に起承転結しっかりしてて、
めちゃめちゃいいお酒ですから。」
みんながそれぞれグラスを受け取って、口に運ぶ。その瞬間、六人の中で会話が一回止まった。
うまい酒を飲んだ時の、あの一瞬の静けさや。
ただ「うまい」と言う前に、ちゃんと舌と頭が追いつこうとする時間。
最初に声を出したのは税理士先生やった。
「……いや、これはすごいな。」
保険会社の人も、思わず笑いながら言う。
「え、なにこれ。めちゃくちゃ綺麗やのに、ちゃんと残る。」
弁護士先生も、少し驚いたような顔でグラスを見た。
「これはうまいな。このためだけに来ても良かったな、ぐらいある。」
横でさきちゃんが小さく笑う。アルカちゃんも「やっぱり最初これなんですね」とヒロコを見る。
博子は少しだけ得意そうに笑った。
「普段勧められるお酒って、やっぱり流通してるところ中心じゃないですか。
久保田とか、獺祭とか、その辺は分かりやすいし。あとは店主さんの趣味とか、置きやすさとか。」
税理士先生が、そこで「確かにな」と頷く。
「でも、こういうレベルの酒って、なかなか普段の店ではないんですよ。置いたら全部
開けなあかんし、回転の問題もあるし、単価もあるし。だから、こうやって蔵元寄る
意味があるんです。」
弁護士先生が、ちょっと感心したように言う。
「どの店でそんな話してんねん、って感じですね。」
「でしょう。」
みんなで笑う。その空気のまま、博子は次に純米酒の方を勧める。
「で、次これです。こっちは純米。食中酒としてもかなりええし、さっきの純米大吟醸より
リーズナブルなんで、普段のご飯にも合うんですよ。」
グラスがまた配られて、それぞれ飲む。さっきの純米大吟醸とは違って、少し親しみやすい。
けど、ちゃんと芯がある。保険会社の人が「これの方が、普段飲みにはいいかも」と言うと、
ヒロコがすぐに頷く。
「そうなんです。こういうのを知っとくと、後で役立つんですよ。で、また機会あれば、
私伏見以外でも売ってるところ知ってるんで、そういうのまた言うてください。」
税理士先生が、そこで吹き出す。
「どこの回し者やねん。」
博子も笑う。
「いやいやいや、回し者ちゃいます。でも、美味しいもんは美味しいって伝えたいだけです。」
弁護士先生が、そのやりとりを見ながら少し面白そうに目を細めていた。
初対面の空気も、ここまで来るとだいぶ溶けてる。酒の力もあるけど、それ以上に、
ちゃんと“共通のうまい”を一回通せたのが大きい。
博子はそこで、時間を見て立ち上がった。
「じゃあ、そろそろ行きましょうか。」
「もう移動なんや。」
「はい。ここでダラダラしすぎると、次が入らなくなるんで。」
店を出ると、伏見の街の空気がちょうど昼に向かって開いていた。
博子は歩きながら、周りを指し示す。
「この辺、黄桜ファクトリーもありますし、月桂冠大倉記念館も近いです。湧き水があるのも
このへんです。で、その近くに鳥せいがあります。」
税理士先生が「有名店やんな」と言う。
博子は頷いた。
「そうです。ここも有名店。昼の伏見やるなら、やっぱり強いです。」
弁護士先生が、少し驚いたように聞く。
「ここから歩くんですね。」
「歩きます。」
「でも、こうやって街の中見ながら行くのも、悪くないな。」
「それが狙いです。」
アルカちゃんとさきちゃんも、もう完全に流れに乗っている。
保険会社の人も、さっきまでの遠慮がちさが少し抜けて、ちゃんとこの街を面白がり始めていた。
「じゃあ、ここから昼ご飯です。」
博子がそう言うと、税理先生が笑う。
「まだ始まったばっかりやのに、もう満足感あるな。」
「昼、強いですよ。」
「ほんまやな。」
六人はそのまま、湧き水のある辺りを抜けて、鳥せいの方へ向かった。
藤岡酒造で舌を開かせて、街の温度を少し吸わせてから、有名店に落とす。
今日の座組も、ちゃんと流れの上に乗って進んでいた。




