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六条河原町のタキモトで鉄板コースを満喫する日本酒を吟味して五条の隠れ家イタリアンへ

タクシーで六条河原町のタキモトに着くと、先生は店構えを見た瞬間に、ちょっとだけ笑った。

いかにもな観光客向けの酒屋という感じではなくて、街の中にすっと溶け込んでる。

知らん人やったらそのまま通り過ぎるような顔をしてるのに、入ると奥が深い。そういう店や。

博子は慣れた感じで先生を中に入れながら言う。

「先生、何飲まれますか。」

先生は、ぐるっと店内を見回す。棚にびっしり並んだ瓶、冷蔵ケースの中の限定酒、

紙の札。酒好きやなくても、ちょっと気分が上がる空間やった。

「いや、でもあれですよ。」

先生が少し考えるように言う。

「一応、地方に行くから地方の酒も飲みますし。

鉄板は鉄板で飲みますけど、結局いろいろ飲みますからね。」

博子が頷く。

「そうなんです。だから、ここ、結構広いんですよ。」

一本ずつ指差しながら、博子が説明していく。

「ほら、青森の田酒。これはまあ、限定品あったりして、やっぱりご褒美枠ですよね。

で、美酒の設計。東洋美人もありますし、二兎もあるし、高千代もあると。

結構酒の種類揃ってるんです。」

先生が、へえ、という顔で聞いている。

博子はそのまま少し横にずれて、別の棚を指した。

「あ、ちなみに、芋焼酎もですけど、常温で置いてあって、結構いいもの揃ってます。

だから、焼酎好きの人でも全然いけるんですよ。」

「ほんまやな。」

先生が少し近づいてラベルを見ながら言う。

「こういう店、普通に酒好きが来ても楽しいやろな。」

「楽しいです。でも、私的にはですね、先生が京都にいらっしゃった時は、

やっぱり京都の酒を飲んでほしいんですよ。」

「京都の酒。」

「そう。佐々木蔵之介の実家の酒蔵とかの流れもありますし、澤屋まつもとあたりも美味しいですし。

最後は蒼空っていう伏見のお酒で落とす、っていうのが、私の中ではひとつ流れなんです。」

先生が、そこでちょっと笑う。

「また流れ作ってる。」

「そら作りますよ。」

博子も笑う。

でも、その笑いのあとに、一本の瓶の前で足を止めた。

「で、これです。」

先生も自然にその先を見る。

「蒼空の純米大吟醸。ちょい高です。けど、マジで店で飲んだらどえらい値段するので、

これを、今日は河原で飲んでほしいなと思ってます。」

先生は瓶を見て、少しだけ唸るように言う。

「なるほどなあ。」

「いつもは、ここで京都の酒を見せて、最後に伏見で“実物”を飲ませるっていう流れなんですけど、

今日は先生なんで、そこまでぎゅうぎゅうに詰めなくてもええかなと思って。でも、

一回蒼空のラインだけは触っといてほしい。」

先生は、いかにも酒のことを考えてる顔になる。

博子は、ちょっとだけからかうように言った。

「そこはもう、先生に任せますけどね。でも先生は先生で、お好きなやつあるんじゃないですか。」

先生が苦笑いした。

「うーん、そうやな。やっぱり美味しいのは美味しいよね、っていうので行くなら、

美酒の設計とか、あのへんでも全然いいんですけどね。」

「全然ありです。」

「でもまあ、今日は博子さんに任せますわ。」

その一言に、博子は少しだけ満足そうな顔をした。

「じゃあ、蒼空の純米大吟醸、買います。」

会計を済ませて、店を出る。

昼の京都の空気はやわらかくて、平日やから観光地の変な熱も薄い。

先生は紙袋をちらっと見てから言った。

「こうやって一本選ばせるのも、なんかええな。」

「でしょ。ただ飲むより、一本抱えて次行く方が、なんか“話が繋がる”感じするじゃないですか。」

「また出た、その感覚。」

二人で笑いながら、今度はイタリアンへ向かう。

少し路地を入る。表通りのわかりやすい店じゃない。

昼間でも少しだけ影ができるような細い道を抜けていく。

先生が、途中で思わず言う。

「これ、知らんかったら絶対来ん場所やな。」

「来ないです。」

「店もわかりにくいし。」

「そこです。ここを見つけるあたりが、センスえぐいですね、って言うてもらうために

連れてきてるんです。」

先生が吹き出す。

「自分で言うんや。」

「言います。」

ほどなくして、目立たない外観の店に着く。ぱっと見、ほんまにここなんか、

というぐらい静かな顔をしている。けど、中に入ると空気が変わる。

照明が柔らかくて、席間もちょうどよくて、平日の昼やのに夜の店の名残がちゃんとある。

先生が、席につきながら小さく感心する。

「ええな。」

「でしょ。」

ヒロコがメニューを軽く見ながら言う。

「これ、夜やったら一万五千円ぐらいするんです。でも昼やと、八千円で済むんです。」

先生が目を上げる。

「八千。」

「そう。コロナの時なんか、三千円やったんですよ。」

先生が、思わず笑う。

「三千円でこのコース食べれた人たち、めっちゃ羨ましいですわ。」

「ほんまにそうです。あの時期に来てた人たちは勝ち組です。」

「いやあ、そういう時期の値段の話まで出てくるの、また面白いな。」

ヒロコは少し肩をすくめた。

「だって、そういう文脈も味なんで。」

店の中は静かやった。派手じゃない。

でもちゃんと“わかってる人が来る店”の空気がある。

先生はグラスの水を手に取りながら、博子の方を見て、少し笑った。

「なるほどな。こういうとこを一本一本当ててくるから、あの東京の社長たちもやられるんやな。」

博子は、その言葉を聞きながら、ちょっとだけ得意そうに笑った。

「そういうことです。」

そうして、木曜日の鉄板コースは、酒屋から路地裏のイタリアンへ、

ちゃんと流れを持ったまま進んでいった。

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