月曜日。指名が帰り、静かに飲むおじいさんの卓につき指名と店外約束する
月曜日。指名卓がひと段落して、フリー待ちの時間に入った。
フロアを見回すと、ソウメイやアルマンドが空いている卓がいくつか目に入る。
盛り上がってはいるけれど、正直あの空気は少し苦手や。
声が大きくて、テンポが早くて、女の子も煽りに寄りがちになる。
博子は黒服のところに行って、小声で言う。「フリー、もし空いてたら、
あの奥の静かな卓に行きたいです」指差した先には、年配の男性が一人、
ゆっくりグラスを傾けている宅があった。
「お、珍しいな。ええよ、あそこ落ち着いてるし」
黒服は一瞬だけ不思議そうな顔をしたが、すぐに通してくれた。
ヒロコは軽く深呼吸して、その卓に向かう。
「こんばんは。ご一緒してもよろしいですか?」
男性は顔を上げて、穏やかに笑った。
「ええよ。こういう時間、久しぶりや」
グラスの置き方がきれいで、声も落ち着いている。
派手さはないけれど、長くこの世界を見てきた人の空気がある。
少しずつ話を聞いていくと、男性は豊橋の大きな会社で
長く役員をしていた人やった。定年退職を迎えて、まとまった退職金をもらい、
今は関連会社の役員として名前を残している。
「現役の頃はな、飲みの誘いが嫌になるほどあったんやけどな」
そう言って、少しだけ笑う。「今はめっきり減ったわ。
家に帰っても、仕事ばっかりやってたから、居場所がようわからん」
博子は相槌を打ちながら、急がず話を聞く。この人は、賑やかさよりも
「話を聞いてもらう時間」を求めてここに来ている。
「最近の新地はな、勢いはあるけど、ちょっと違うなあ」
「シャンパン煽って、すぐ写真撮って、すぐ次やろ」
「わしらの頃は、もっと静かやった」博子は少し考えてから言う。
「もしよかったら、今度指名いただけたら、お昼にでもちょっとお散歩しませんか?」
男性は一瞬、目を丸くした。「昼?」「はい。夜じゃなくても、
元気出るもの食べに行くのもいいかなって」
少し照れたように、でも嬉しそうに笑う。
「最近の子で、そんなこと言ってくれる人おらんかったわ」
「今はイキってる子が多いしな」しばらく沈黙が流れて、男性がぽつりと言う。
「あなたな、昔ながらの匂いがするわ」「落ち着く」
その言葉と一緒に、場内指名が入った。ヒロコは軽く頭を下げる。
「ありがとうございます」話は自然に次の約束へ進む。
「昼やったら、何食べたいですか?」と聞くと、「わしは……うなぎかな」
ヒロコは少し笑って言う。「ちょうどいいですね。お花見の季節ですし」
「ちょっと散歩して、うなぎ食べに行きましょう」
男性は満足そうにうなずいた。「それ、ええな」
その場で連絡先を交換する。ソウメイも、アルマンドも、今日は関係ない。
この静かな一卓で、生まれた関係の方がずっと重たい。
博子はそう思いながら、グラスをそっと置いた。




