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おじいちゃんの帰り際に金曜日別枠で税理士先生の座組をツアー形式で回す話を報告する博子

終わり際になって、博子が「あ、あと実はもう一個あるんです」と言うと、おじいちゃんは

「まだあるんか」と笑った。

もう十分濃い話をしたあとやのに、まだ球が残ってる感じが、いかにも博子らしい。

「実はですね、こっちの税理先生と保険会社の人から、座組組んでくれって話が来てまして。

金曜日に。」

「ほう。」

「今週土日は、もう私休み寄りにするんです。土曜日は予約出勤があれば入るぐらい。

だから、その分、金曜日にそっちを入れようかなと思ってるんです。」

おじいちゃんが、そこで少し目を細める。

「休暇モードか。」

「休暇モードというか、東京の台風は一回休ませるって感じです。」

「まあ、それは賢い。」

博子はそこで、少し前のめりになって続けた。

「で、弁護士先生がね、顧問先の人を接待したいからって言ってきてるんですよ。

だから、昼ぐらいから大阪で待ち合わせして、サンダーバード乗って京都行って、

伏見の酒蔵をグループで回るっていう形にしようかなと。」

「お前がツアーコンダクターやるんか。」

「そうです。私、ツアーコンダクターみたいな形。」

おじいちゃんは、そこでまた笑った。

「ほんま、どこまでいくねん。」

「当然、その分のお手当ては三人とももらう形にするんですけど。ただ、同伴は別々っていうより、

今回はちょっと混ぜようかなと思ってて。弁護士先生が初対面やし、しかも接待する側やから、

いきなり一対一で放り込むより、六人でひと卓みたいな感じにして、みんなで回りながら

喋る方がええかなって。」

「なるほどな。」

「店に来てからは、反省会みたいな形にして。今回のはプロトタイプで回そうと思ってるんです。

で、さきちゃんとアルカちゃんとは相変わらず三人で回すんやけど、

アルカちゃんは保険会社の人と仲良し。私は税理先生と仲良し。

さきちゃんは弁護士先生、初対面の人をちょっと面倒見てあげる感じで。

その辺の配置で、全体を回そうかなって。」

おじいちゃんは、そこで「お前まだ増やすんか」と半分呆れたように言った。

でも、本気で止めてる感じではない。博子もそれが分かるから、少し笑って返す。

「増やす気はなかったんです。けど、回してくれってめっちゃ言ってきはるから。」

「東京とまた違うんやろ?」

「違います。大阪の先生たちやし、東京みたいに“気づきを与える”っていうより、

一緒に遊んで、なんか面白いことしましょうっていう交流なんです。だから、

ちょっと気持ちは楽なんですよ。」

「ふむ。」

「しかも税理先生は、ゴルフ接待の延長みたいなもんやから、軽く行こうやって言うてくれてるんです。

だから、お手当ても別にそこまでガツガツ求めへんし。ただ、女の子がツアーコンダクター組んで

やるっていうのが面白そう、っていうので入れてくれるから、これは継続するかどうかは

分からんです。」

おじいちゃんは、グラスをくるりと回した。

「まあ、それはそれでええんちゃうか。」

「ほんまですか。」

「うん。東京は東京で台風の目みたいなもんやろ。博子も言うてたけど、来る時は来る、引く時は引く。

やったら、その間に別の種を育てとくっていうのは大事や。」

その言葉に、博子はちょっとだけ安心した顔になる。

自分でも、今やってることが散らかってへんか、たまに不安になる。

でも、おじいちゃんの口から“種を育てる”って出ると、ああ、今の動きも間違ってへんのかなと思える。

「結局それで、お前の出勤、全部バンバンやろ。」

「バンバンです。」

二人とも吹き出す。

博子も、そこは自分で分かってるから笑うしかない。

「だから、あんまこれ以上は増やさんようにって話なんです。」

「そらそうや。新規があったら、ちょっとツアー組むかな、ぐらいでええんちゃうか。」

「うん、それぐらいでいこうと思ってる。」

「全部拾うなよ。」

「全部は拾わないです。」

「今のところ、半分拾っとる顔やぞ。」

「半分は拾います。」

また笑いが起こる。

おじいちゃんは、やっぱりこういう時にちょうどいい。

止めすぎへんし、煽りすぎへん。今の博子がどこまで行けそうで、どこから危ないか、

その辺を何となく見ながら、ちょうどいいところで一言入れてくれる。

「まあまあ、また聞かせてくれよ。」

最後にそう言って、おじいちゃんは席を立った。

「はい。金曜こなしたら、また報告します。」

「おう。弁護士先生、ちゃんと転がしてこいよ。」

「観戦チケット言うときました。」

「それ、ええな。」

おじいちゃんは、最後まで面白そうに笑って帰っていった。

その背中を見送りながら、博子は今日の話を頭の中でざっとなぞった。

金曜の傷。土日の台風。今週は一回引くこと。

でも、その代わりに別の種を蒔くこと。

全部ひっくるめて、今の自分の仕事なんやろうなと思う。

店の外の空気は、夜の熱を少しだけ失い始めていた。

博子は、グラスの最後の一口を飲んで、静かに息を吐いた。

今週も、また濃くなりそうやった

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