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店の中でおじいちゃんと語る。よくみているおじいちゃん。博子のしたたかさに感心する

店の中に入ってからも、話はそのまま続いた。

店の中はいつものざわつきがあって、女の子たちの笑い声や、グラスの触れ合う音が、

向こうの卓から細く流れてくる。けど、おじいちゃんと博子の卓だけは、妙に落ち着いていた。

銀平で整えてきたせいか、今日は最初から“続きの話をする日”みたいな空気になってる。

おじいちゃんが、グラスを少し揺らしながら言う。

「でも、お前どうすんねんと。東京のやつらが大量に来てるんやろ?」

博子は、そこで少し肩をすくめた。

「実は、今週の土曜日もそういう話が別の社長グループであったんです。

でも、それは言うたら来週に先延ばししました。」

「お、先延ばししたんか。」

「しました。さすがに、女の子三人も疲れてるしと。

あと、今のまま今週やると、たぶん雑になるなと思って。」

おじいちゃんが、そこで小さく頷く。

「それはええ判断や。」

「で、その社長グループの面倒くさいところは、社長一人が突っ走ってるんですよ。

他の二人の社長の熱量が、全然ついてきてなくて。結果、女の子二人との間にも差が出てるんです。」

「ほう。」

「だから、今回は“構造で刺す”ことにしてて。一通り遊びはするんですけど、店の中では、

前半二セットは別で普通に遊ぶ。で、後半二セットは、私がなんでこの社長が刺さってるのかを、

遊んだ中身をしゃべりながら、ちゃんと講義する。」

おじいちゃんが、そこで目を細めた。

「講義。」

「そう。言うたら、私が手品の種を明かす感じですね。なんで天満から入ったのかとか、

なんであそこで引いたのかとか、なんで伏見で酒蔵見せたのかとか。その“意味”を説明する。」

おじいちゃんは、そこで声を出して笑った。

「それはもう、キャバ嬢ちゃうな。」

「ほぼ違いますね。」

博子も笑いながら続ける。

「で、その分は、向こう、一セット十万円で遊んだりしてるって豪語してるぐらいやから。

そこは、もう一人二十万もらう。」

「ほう。」

「で、その全体の方向性を底上げして、女の子二人に対する差も薄めていく。

そういう作業をしたいから、今週やるにはちょっと荷が重いなと。だから一週間ずらしたんです。」

おじいちゃんは、少し感心したように黙って、博子の顔を見た。

それから、ゆっくり酒を口にして、ぽつりと言う。

「お前、なかなかやるな。」

博子は少しだけ笑った。

「そうですかね。」

「やる。やっぱり余裕が出てきてるわ。」

その“余裕”という言葉に、博子は少しだけ引っかかった顔をする。

「余裕というより、雑務込みで考えるようになったんかもしれないです。誰がどう思うかとか、

女の子二人の温度とか、社長三人の温度とか。その辺を全部含めて組まなあかんから。」

「それや、それ。」

おじいちゃんがすぐに返す。

「その雑務含めてコンサルしてる感じが、余計に刺さんねん。」

「え?」

「調子ええ時はマジで刺さる。でもな、博子はそこで“私すごいやろ”にならんで、

丁寧に刺しに行って、チームでなんとかしようって動くやろ。他への気遣いもする。

そこが、今のところはええ。」

博子は、そこで少しだけ黙った。

おじいちゃんの言ってることは、自分でもなんとなくわかる。

前やったら、ここまで大きく当たったら、もっと一人で抱え込んでたかもしれない。

でも今は、女の子二人との関係も、お店の空気も、次につながる線も、全部見ながら動いてる。

おじいちゃんは、そこで少しだけにやっとした。

「もうちょっと調子乗ってきたら、わしもなんか一言言いたいけどな。」

「怖。」

「でも今のところは、まだ大丈夫そうや。」

博子は、ようやく小さく笑った。

「ありがとうございます。」

「いや、ほんまに。ようやっとる。金曜にあんな嫌な目見て、土日でそこまで巻き返して、

しかも次の座組まで考えてる。それは普通やない。」

店の中の空気は、少しずついつもの夜の熱を帯びてきていた。

でもこの卓だけは、熱いというより、深く静かに回ってる感じがあった。

1セット半。時間にしたらそんなに長くない。けど、中身はだいぶ濃かった。

博子はグラスの氷を少し鳴らして、ふっと息を吐いた。

金曜の傷も、土日の爆発も、来週の座組も、今のおじいちゃんの言葉で、

ちょっとだけ整理された気がする。

「ま、今週はちょっと休みながらやりますわ。」

「それがええ。」

「でも木曜は弁護士先生の鉄板コース入るかもしれん。」

おじいちゃんが、そこでまた笑う。

「お前、休む気ないやろ。」

「ないわけじゃないです。」

「半分しか休んでへんな。」

二人とも、そこでまた笑った。

卓の向こうでは、他の席の笑い声が少し大きくなっている。

博子は、その騒がしさの中で、なんやかんや、自分はまだ大丈夫やなと思えた。

おじいちゃんが見てくれてるうちは、まだ変な方向には行ってへん。

その感覚が、ありがたかった。

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