7月2週目水曜日。おじいちゃんと同伴。先週のあれこれを報告。博子、仕込みが恐ろしいで
水曜日は、おじいちゃんとの晩ご飯の日やった。
博子は夕方前から、今日は何にしようかなと考えて、最終的に和食の銀平にした。
ベタと言えばベタやけど、最近の自分はむしろベタを外し続けてきた気がする。
先週は焼肉やったし、今週はこれぐらいで勘弁してもらおうかな、という気持ちもあった。
待ち合わせて、店の前に立つと、おじいちゃんはすぐに笑った。
「博子にしては、えらいオーソドックスやな。」
博子も笑って返す。
「オーソドックスをずっと外してきたんで、ここで一回刺しとこうかなと思いまして。」
「悪くないな。銀平なら、まあ間違いない。」
そう言って店に入り、席につく。おじいちゃんは、座った瞬間から、
もう博子の空気が少し抜けているのを感じてる顔やった。
「なんや、そういう座組の組み方にも余裕あるようになってきたな。」
博子は、そこで少し肩を落とした。
「余裕があるというよりも、金土日が結構濃くてですね。
それがようやく、一山越えて、火曜日ゆっくりできた、って感じですわ。」
魚の煮物、出汁巻き卵、茄子の煮びたし。
そういう、いかにも“ちゃんとした和食”をつまみながら、二人でゆっくり始める。
おじいちゃんは一杯やってから、すぐに言う。
「ほな、ちょっと話聞かせてみ。」
「はいはい。」
博子は、まず金曜日の話からした。
清掃会社の社長と揉めて、切れたこと。
外遊びありきで、よその女でもええわみたいなことを言われて、NGにしたこと。
そこはやっぱり、おじいちゃんも静かに聞いていた。
「で、それをリカバーしながら、土日回しましたと。」
「うん。」
「今回は、女の子二人を置いてけぼりにせずに、鉄板のコースを一回見てもらって。
自分のベクトルもちゃんと話して。そのうえで三人で噛み合わせたがゆえに、
全部きれいにハマりまして。ちゃんと、たくさんお手当てもいただけたという感じです。」
おじいちゃんが、そこで頷く。
「ほう。」
博子は、そのまま続けた。
「で、言うたら、次来てもらう分の数万円。あと、六本木・銀座でもう一回遊んでもらう分の数万円。
それを引いて、向こうが言うてきた額より、最終的に十万ぐらい少ない額でフィニッシュさせました。」
おじいちゃんが、ここで声を出して笑った。
「いや、リカバリーもお前すごいけども、ありやで。
土日ちゃんと刺して、全員で刺して、よう拾ったな。」
「ありがとうございます。」
「この前、五十がどうの四十がどうの言うてたけど、今回どうやったんや。」
ヒロコは、少し得意そうに笑った。
「全員、三人とも五十払うっていう話やったんです。でも、十万引いて四十にしてもらった。」
「なんでや。」
「次来てもらう仕組み作りと、六本木銀座でもう一回遊んで、
私たちの座組とか、気づきとか、そういうものに比べてどれだけ薄っぺらいか見てもらうっていう、
動線を踏んどいたんです。」
おじいちゃんは、グラスを持ったまま、また笑う。
「それができるの、博子ぐらいしかおらんわ。」
「いやいや。」
「ほんで、六本木銀座でそんなん飲んで、一時間で十万とか使ってたやつは、
そらこっち流れてくるわ。さすがやな。」
博子は、そこで少し照れたように笑ってから、もう一つの話を出した。
「あと、それと別にね。最近、東京の社長さんたちに、奨学金の肩代わりの制度と、
就労不能に関して調べてもらってたんです。」
「ほう。」
「そしたら昨日、社長から来て。だいたい一年間で七百万から三千万浮くと。
ざっくり言うたら、十年で二億浮くから、その分を全額上げるわけにいかんけども、
コンサルティングフィーとして、女の子たちとは別で払いたいって言うてきたんです。」
おじいちゃんが、そこで少し目を細める。
「……もうそれ、お前、仕事やな。」
「そうなんですよ。」
「なんや、お前、社労士でも勉強するんか。」
博子は、すぐに首を振った。
「いやいやいや、今、そこまで勉強する余裕はないです。
でも、その辺のところを勉強したら、お金になりそうやなっていうのはあります。
今はほんまに、即金性の高い最新の情報とかを得ながらやっていこうと思ってるけど、
いずれはそういう道も、なくはないよねって。」
おじいちゃんは、そこで楽しそうに笑う。
「まあでも、お酒の場で可愛い女の子が“ちょっと調べてください”って言うたら、調べてくれるやん。」
「そうなんです。」
「で、まともな社長は、部下に調べさせたら“だいたいこれぐらいの見積もりです”って出してくる。」
「そう。」
「しかも、お前、値引きしとるしな。」
博子も、そこで苦笑いする。
「だからそこまで、一応考えてはいるんやって話したら、向こうも食いついてくるんですよ。」
おじいちゃんは盃を置いて、博子の顔を見た。
「……もうその顔、そら恐ろしいわ。」
そう言って、おじいちゃんはまた笑った。呆れてるんやなくて、面白がってる。
博子は、その笑い方に少し安心する。
「怖いですか。」
「怖い。でも、おもろい。なんや、お前、接待して、遊ばして、気づかせて、
会社の制度まで動かすんやろ。」
「結果的にはそうなってますね。」
「そら恐ろしい。」
二人で笑う。銀平の煮魚はちょうどええ味で、出汁巻きも茄子の煮びたしも、変に主張しすぎへん。
今日みたいな話の日には、それぐらいがちょうどいい。
おじいちゃんは、最後にもう一回、少しだけ真面目な声で言った。
「でもな、そこまで回るようになったんやったら、あとはほんま、調子乗りすぎんようにだけ
気ぃつけや。」
博子は、そこで素直に頷いた。
「それは、女の子たちとも握ってます。台風みたいなもんやって。」
「せや。来る時は来る。引く時は引く。
でも、そういう時にちゃんと拾えるようになったのは、お前の力や。」
その一言が、じんわり残った。
金曜の傷も、土日の爆発も、全部ひっくるめて、今日はようやく“話にできる”ところまで来たんやろうなと思いながら、博子はまたグラスを口に運んだ。




