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東京イキリ社長の驚き。10年で2億の費用対効果。博子との遊びの延長で効果が出て笑う社長達と相談。

火曜日の昼過ぎ。社長がひと仕事終えて、コーヒーを飲みながら

軽くメールを流していると、部下が資料をまとめて持ってきた。

「社長、この前言われてた件、1枚のメモにしてきました。」

「お、早いな。」

「知り合いの方に聞かれて、費用対効果を見たいって話やったんで。

辛めに見積もるラインと、これがちゃんと効いた場合にどれぐらい出るかっていうライン、

両方で出しときました。」

社長は、資料を受け取って、ざっと目を通す。

奨学金返済支援。就労不能。メンタル不調対応。

採用コスト。離職率。風評リスク。OpenWork。

いろんな単語が並んでいる。

「で、ざっくりどれぐらいなん。」

部下は、もうそこを待ってましたという顔で答える。

「1年で、だいたい甘めに見ても700万ぐらい。

で、うまく効いたら3000万ぐらいの改善余地があります。」

社長が顔を上げる。

「そんなに効果あるんけ。」

「あります。で、10年で見ると、7000万から3億円ぐらいですかね。」

そこで社長は、さすがに少し驚いた顔になる。

紙の上の数字やから、もちろんそのまま鵜呑みにはせえへん。

せやけど、自分の感覚より大きい。そこが、まず意外やった。

「……そんなにか。」

部下は頷く。

「はい。奨学金返済の支援は、単年度やとコストが先に立つんですけど、

若手の定着と採用に効くんで。あと、就労不能とかメンタルの対応って、目先の保険料とか

制度コストだけ見たら重たいですけど、辞められるリスクとか、書き込まれるリスクとか、

揉めるリスクを減らせるんで、実はでかいです。」

社長は紙を見ながら、指先で数字をなぞる。

「じゃあ間取ってって感じか。間取ったら、なんぼぐらいになる?」

部下は少し考えてから言う。

「10年で2億円ぐらい、ですかね。」

「2億。」

「はい。10年で2億やったら、年2000万ぐらいの改善余地があるって見方でいいと思います。」

社長は、そこで椅子にもたれた。年2000万。

案件ひとつふたつの話ではない。しかも、ただの売上ではなく、“浮く金”“防げる損失”や。

そう思うと、急に現実味が出てくる。

「……それぐらいは全然ありえるんか。」

「全然ありえますよ。」

部下は、資料の別ページをめくりながら続ける。

「特に、採用コストを低く出すための施策として、奨学金返済はかなりわかりやすいです。

学生にも若手にも刺さりますし。就労不能だって、最近は大きめに出してる会社も結構あります。

あと、メンタル病んだやつの後の対応が楽なんですよ。

会社として“見てる”って建て付けを作れるんで。

最悪、お悔やみ金側に金払えるっていうのもありますし。」

その言い方は、少しさらっとしていた。でも、実務の匂いがする。

きれいごとだけではない、現場の理屈や。

社長は、資料を閉じたり開いたりしながら、小さく呟く。

「そうか。ざっくり2000万ね。」

年2000万。10年で2億。その数字が、頭の中をゆっくり回る。

――2億円ヒロコにやるわけにはいかんけども。

そこは、さすがに自分でも笑う。けど、遊ぶ時に博子に別で積んだってもええな、

という気持ちは、数字を見てさらに強くなった。ただの“おもろかったから多めに払う”ではなく、

実際に会社の見え方や制度設計に影響を与えて、年2000万クラスの改善余地が見えたとなると、

交際費やコンサル費として見ても、かなり筋が通る。

「2000万か……」

部下がまだ何か言いかけたけど、社長は半分独り言みたいに続ける。

「月、150万ぐらいか。別に、その半分でも5、60か。だって遊ぶにしたってな……」

部下は、少し困ったように笑う。

「社長、何の計算してるんですか。」

「いや、なんでもない。」

そう言って流したけど、頭の中ではちゃんと回っている。次、大阪京都に行く時。

三人でまた遊ぶとして。その中でも博子は、やっぱり別格や。

あの“気づきの球”を投げられる女に対して、少し別に積んだってもええんちゃうか。

150はさすがに勢いが強いか。でも、その半分、いや5、60ぐらいなら、全然おかしくない。

そう考え始めると、自分の中で数字に筋が通ってくるのが面白かった。

「……他の社長たちにも聞いてみよかな。」

ぽつりとそう出る。自分と同じぐらいの規模の会社や。感じてる採用難も、

離職の痛みも、たぶんそう変わらへん。やったら、この“年2000万ぐらい改善余地あるかも”

って話を、向こうにぶつけてみるのもありや。

部下が聞き返す。

「他の社長、ですか。」

「うん。俺と同じぐらいの規模やから、多分そんなもんやと思うけどな。一回軽く聞いてみるわ。」

その場でスマホを取り出して、三人グループのうちの二人に軽く連絡を入れる。

水曜の夜あたり、軽く飲めるか。ちょっと面白い数字が出た。そんな感じで送る。

すぐに片方から返事が来る。

《ええで。何出たん。》

社長は、それを見て少し笑った。

「食いつくやろな。」

部下が「何か面白そうですね」と言うと、社長は資料をトントンと叩きながら答える。

「いや、結構面白いで。“遊びの延長”で聞いた話が、会社の数字に変わってくるんやから。」

その言い方に、自分でも少し不思議な感じがあった。

数週間前の自分やったら、こんな資料を見て、ここまで興味持たへんかったかもしれん。

でも今は、博子に投げられた球のせいで、会社の見え方がちょっと変わってる。

それが、悔しくもあり、面白くもあった。

「とりあえず、水曜ちょっと飲むわ。“こんな効果出たんやけど”って話してみる。」

「いいですね。」

「うん。で、向こうも同じような感覚やったら、なおさら筋が通る。」

資料をデスクに置いて、社長はもう一度だけ数字を見る。

年700万から3000万。間を取って年2000万。10年で2億。

その数字の重みを、まだ完全には飲み込めてない。

でも、少なくとも“ただの思いつき”ではないと分かった。

それだけでも十分やった。

社長は椅子から立ち上がって、窓の外を少し見た。

週末の大阪京都。酒蔵、川下り、祇園、そしてセンチュリーホテルのラウンジ。

あの余韻が、まさか火曜日の昼過ぎに、こういう資料になるとは思わんかった。

でも、その変わり方こそが、博子の言う“気づき”なんやろうな、と少しだけ思った。

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