東京勢の話たくさん聞いてくれている弁護士先生に観戦チケットとしての鉄板コースの体験お誘いする博子
「実は、今週の土日もね。」
博子は、少しだけ声のトーンを落としてそう切り出した。
弁護士先生は、グラスを持ったまま「はい」と目を向ける。
「東京の別の社長からも話聞いてたんですけど、それ、断ったんですよ。」
「断ったんですか。」
「うん。しんどいから。」
先生が、そこでちょっと笑う。
「そこ、正直でいいですね。」
「正直ですよ。だって、先週の今週でまた東京枠入れたら、さすがに私ら三人も
消耗しすぎるんで。今日の晩か明日には、女の子二人にも言うんです。“一週間ずらすよ”って。」
先生は、そこで少し頷いた。
「なるほど。」
「だから逆に言うと、土日は空いてるんですよ。今週なら、ちなみに楽なんです。」
そこまで言ってから、博子は先生の顔を見る。
今の一言だけでも、だいぶ意味は伝わってるはずや。
でも、ここで雑に“じゃあ行きます?”と詰めるのは違う。
先生には先生の温度があるし、東京の社長たちみたいな“お手当て込みでの実験”ともまた違う。
だから、見せ方を変える必要がある。
博子は、そこで少し笑って言った。
「で、先生に改めてご提案したいのは――観戦チケット買いませんか、
っていうぐらいの気持ちで見てもらったらええかなと思ってるんです。」
先生が、一瞬きょとんとする。
「観戦チケット?」
「そう。」
博子は、自分でもちょっとこの言い方おもろいなと思いながら続けた。
「東京の人たちは、体験そのものに気づきがあるから、お金を積みはるんですよ。
で、その気づきの分に対して、私らも“ああ、それなら”ってなる。でも先生の場合、
それとはちょっと違うなと思って。」
「どう違うんです?」
「先生は、“その場で全部どっぷりハマって持ち帰る”というより、言うたら、
観覧席で試合を見る人に近いんかなと思ってるんです。」
先生が、少しだけ笑う。
「試合。」
「うん。だって、お相撲さんとかでもあるじゃないですか。競技やってる人の“ごっつぁんです”の
お金と、観客席に座ってる人が払うチケット代って、別でしょ。」
「ああ、なるほど。」
「だから、先生に関しては“参加選手”じゃなくて、“良い席で試合を見る人”の感覚で
ええんちゃうかなって。そのぐらいの距離感でどうですか、っていう提案なんです。」
先生は、そこでグラスを置いて、少しちゃんと考えた顔になった。
博子も、あえて急かさへん。ここは先生の中で“なるほど”になるまで待った方がええ。
しばらくしてから、先生がゆっくり言う。
「……ああ、そういうふうに言ってくれたら、ありやな。」
博子は、そこで少しだけ肩の力を抜いた。
「ほんまですか。」
「うん。なんか、東京の社長たちみたいに“俺もその熱量で行かなあかんのかな”って
思うと、ちょっと違う気はしてたんです。でも、“観戦席”って言われたら、すごいしっくりきます。」
「でしょ。」
「ええな、その言い方。」
先生は少し笑ってから続けた。
「それやったら、土日休みで時間に余裕あるなら……木曜日やったら、行こうかな。」
博子が、そこで思わず目を細める。
「木曜日、いけそうですか。」
「うん。丸一日はちょっとあれやけど、木曜なら比較的、心も時間も取りやすい。
しかも今の話聞いてたら、なんか“見てみたい”に変わってきました。」
「じゃあ、それでちょっと予約取っときますわ。」
先生が、そこでまた笑う。
「やっぱり取るんや。」
「取りますよ。そこはもう、私の仕事なんで。」
「出た、その感じ。」
二人で笑う。でも、その笑い方はだいぶ柔らかかった。
さっきまでの、東京の社長たちの熱だとか、六本木銀座との比較だとか、そういう少し尖った話とは
違う。今のこれは、もっと静かな提案や。“ハマってください”やなくて、“見てみませんか”。
その距離感やからこそ、先生には刺さったんやろうなと、博子は思う。
そのあとも少しだけダラダラ喋った。土日の密度が高かったこと。
東京の社長たちの熱量。女の子三人で回してる時のしんどさと面白さ。
先生は、途中で何度か笑いながら首を振っていた。
「いやあ、やっぱり内容濃いなと思いましたわ。」
最後にそう言って、先生は席を立つ。博子も立って、少しだけ見送る姿勢になる。
「今日は三セットいたし、そろそろ帰ろうかなと。」
「はい。ありがとうございます。」
「いや、こっちがありがとうですよ。なんかもう、話だけでお腹いっぱいや。」
「まだ木曜ありますから。」
「そうやった。またそこで“観戦”させてもらいます。」
「ぜひ。」
先生は、そう言って笑って帰っていった。背中を見送りながら、博子は小さく息を吐く。
土日の余韻はまだ残ってる。でも、ちゃんと次にもつながった。
しかも今度は、東京の熱とは違う、もっと落ち着いた座組や。
「観戦チケットか……」
自分で言うて、自分でちょっとおもろいなと思う。
でも、ああいう言い方が、たぶん先生には一番よかった。
全員に同じ売り方はせん。そこが今の自分の強みなんやろうな、と少しだけ思った。




