月曜日同伴。清掃会社社長と日曜日京都花見に行くことがきまる。
月曜日、清掃会社の社長と同伴で店に入った。
黒服は、こちらを見るなり察したように軽く会釈して、「お疲れ。卓確保してるで」
とだけ言った。余計なことを言わない。最近の流れを、もう完全に把握している。
席につくと、社長は少し間を置いてから切り出した。
「なあ、花見の話やけどな。日曜、京都どうや。哲学の道。今が一番ええやろ」
その言い方が、いかにも“軽く提案してるだけ”を装っているのは分かった。
でも同時に、タダで行けるとは思っていない、という空気もはっきり感じた。
「それはさすがに、タダでいけるとは思ってへんで」
博子は「気を遣っていただきありごとうございます。」と笑って言った。
最近、出勤日数が増えているのは、社長も気づいている。土曜日も出るようになったこと、
シフトが詰まり始めていること。だからこそ、日曜日を丸一日使うとなると、
それなりのお返しが必要だと社長は考えていた。
「せやろ。せやからな、シャンパン一本いくか、なんか形にした方が
ええかな思てんけど。どうや?」そこで博子は、少し言葉を選んだ。
売上を取りに行く返事もできた。でも、今欲しいのはそこじゃない。
「正直に言いますね」そう前置きしてから続ける。
「出勤増えた分、不安も増えてるんです。だから、もしよかったら
一気にじゃなくて、細かく刻んでもらえる方が嬉しいです」
社長は黙って聞いている。「お食事をご一緒させてもらって、同伴を増やしてもらえる方が、
私は安心します。シャンパンも嬉しいですけど、長くお付き合いできる方がいいなって」
それから、少しだけ間を置いて、こう付け足した。
「今、森伊蔵入れてもらってますよね。次は……百年の孤独とかどうですか?
私、麦もちゃんと飲んでみたくて。いいやつを一緒に挑戦させてもらえたら嬉しいです」
その瞬間、社長の表情がふっと緩んだ。「なるほどなあ……通やな、ほんま」
そう言って、軽く笑う。「月曜やしな。ほな今日はシャンパンちゃうな。
高いお茶、あったよな?」ヒロコはうなずいた。「はい。1万円のが一本あります。
今日はそれで、ゆっくりお茶飲むの、どうですか?」社長は即答だった。
「それええわ。仕事始めやし、身体に優しいのが一番や」
そうして高級茶が入れられた。グラスに注がれたお茶は、
香りが立ちすぎず、でも確実に“普通じゃない”のがわかる味だった。
その後は、2セットほど。仕事の話、最近の業界の愚痴、部下の話。
ヒロコは聞き役に回りながら、時々相槌を打つ。無理に盛り上げない。急がない。
「こういう時間、ほんま落ち着くわ」社長がぽつりと言った。
「シャンパンで騒ぐのもええけど、これはこれでええな」
帰り際、社長ははっきり言った。「金曜、同伴な。飯行こ。そこでまた考えよ」
博子は、深く頭を下げた。「ありがとうございます。楽しみにしてます」
一気に取りに行かず、でも確実に繋げた夜。
月曜日らしい、静かな積み上げだった。




