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先生最近どうなんですかと博子が話を振る。先生なりの結婚観や博子との葛藤など

「で、先生は最近どうなんですか?」

博子がそう振ると、弁護士先生は少しだけ笑って、グラスを置いた。

自分の話を振られるのは嫌いやないけど、こうやってちゃんと聞かれると、

ちょっと照れる。そんな顔やった。

「うーん、まあ、ボーナスもらって嬉しかったことはありますよ。」

「お、いいですね。」

「いや、案件もたくさんやってたし、結構忙しくやってたんで。

その分、形になったなって感じはあります。」

「さすがです。」

「さすがかどうかは分からんけど、まあ、働いた分返ってきたな、ぐらいですかね。」

先生はそこで少し肩を回した。

「ただ、やっぱり色々管理も大変やし。仕事以外、あんまりないんですよ。

博子さんと遊ぶぐらいしか、あんまなくて。」

博子がそこで、少し首を傾げる。

「婚活はしないんですか?」

先生は、その言葉に苦笑した。

「婚活もなあ……。」

「無理ですか。」

「無理ですよ。もうこの遊び覚えてしまったら。」

博子が吹き出す。

「それ、だいぶ終わってますよ。」

「終わってるんです。」

先生も笑いながら認める。

「いや、本当に、金に群がるだけの女よりも、博子さんみたいに、なんかドラマチックな

方が面白くていいんですよ。」

「またそんなこと言う。」

「いや、ほんまに。」

先生はそこで少し真面目な顔になった。

「婚活って、結局、条件と条件の突き合わせみたいになるじゃないですか。

年齢、年収、家族構成、住む場所、子ども欲しい欲しくない。

そら大事なんやけど、それだけ並べられても、心動かへんのですよ。」

博子は静かに頷く。なんとなく分かる気がする。

「出張先とかで遊ばないんですか?」

博子が次にそう聞くと、先生は少し笑って首を振った。

「出張先もね、行こうと思えば行けるんです。実際、誘われたりもしますし。」

「ですよね。」

「ただね、たぶんキャバクラって、普通の世の中にある“中身のない話の楽しさ”っていうのは、

あるんですよ。それなりに。それは別に否定しないです。なんかちょっとテンション上げて、

酒飲んで、わーっと喋って、楽しかったなって帰る。あれはあれで、成立してる。」

「うん。」

「でも、博子さんとかの、その座組の話を聞いてると。

しかも臨場感ありで聞いてると、めっちゃ考えてるじゃないですか。」

博子は、少し照れたように笑う。

「まあ、考えてはいます。」

「その構造を知ってしまうと、他の遊び方がちょっと安っぽく見えてしまうんですよ。」

「安っぽく。」

「うん。そりゃ、あれですよ。“今度店外行きませんか”とか、“ご飯行きませんか”とか、

そういう誘いはある。でも、その先に向こうから“こんな面白いことあるんですよ”って

提案してくること、ほぼないんです。」

「なるほど。」

「全部、男側が考えるんですよ。どこ行くか、何食べるか、どう流すか。こっちが店選んで、

空気作って、向こうは乗っかるだけ。で、それで“楽しかったです”って言われて終わる。

いや、それも悪くないんやけど、博子さんたちの話聞いた後やと、その差し方がないのが、

もう物足りない。」

博子は、先生の顔を見ながら、少しだけ真顔になる。先生が、ちゃんと比較してるのが分かるからや。

「だから、なんやかんやここに戻ってきてしまいますわ。」

先生はそう言って、少し笑った。でも、その笑いの中には、半分諦めみたいなものもある。

「えー、でもそれは嬉しいですよ。」

「嬉しいんですけどね。」

先生は、そこで少しだけ視線を落とした。

「ただ、今日聞いた、金曜日の清掃会社の社長の話あるじゃないですか。」

「うん。」

「外遊びありきで引っ張る。で、それが無理やとわかったら、他の子でもええわみたいな話。」

博子の顔から、少しだけ笑いが引く。先生は、その反応を見ながら続けた。

「それ聞くと、俺もそんなんやってたんちゃうかなって、ちょっと思うんですよ。」

「先生が?」

「うん。いや、あそこまで露骨じゃないにしても。結局、有馬温泉行ったり、外で遊んだりしてた時、

“博子さんと外で遊べること”そのものを喜んでた部分は、たぶんあるんです。

それって、清掃会社の社長と、構造はそんな変わらんのちゃうかって。」

博子は、少しだけ言葉を選んだ。

「でも先生は、違いますよ。」

「違うって言ってくれるのはありがたいですけどね。でも、やっぱり微妙な気持ちにはなるんですよ。

こっちは“ちゃんと見てるつもり”でも、向こうから見たら“外遊びできる女の子として

見てただけ”ってこと、全然ありえるわけでしょう。」

博子は、そこで少しだけ前のめりになった。

「いや、先生はちゃんと違いましたよ。だって、店の中でも見てくれてるし、こうやって話も

聞いてくれるし。今日みたいに、私がしんどかったことも、ちゃんと受け止めてくれる

じゃないですか。」

先生は、苦笑いした。

「受け止めるのは、まあ仕事柄もありますけど。」

「それでもです。結局、私が嫌やったのって、“私を見てるようで見てない”って

いうところやから。先生は、そこまで雑じゃないです。」

先生は黙って、それを聞いていた。

博子の言葉を、すぐに軽く受け取らず、一回ちゃんと腹に落とす感じや。

「……そうやったら、ええんですけどね。」

「そうです。」

「でも、ちょっと自分の中でも考えますわ。」

「考えてください。」

「で、鉄板コースも考えます。」

博子がそこで吹き出す。

「そこは早いですね。」

「だって、今日の話聞いたら余計そうなるでしょ。」

「まあ、そうですね。」

二人で少し笑う。

でも、その笑いの下にある会話は、案外深かった。外遊び、店内、見る目、見られ方。

どこまでが許容で、どこからがしんどいか。

その線引きを、先生は今、自分なりに考え始めてるのが分かった。

「なんか、先生ってちゃんとしてますよね。」

博子がふとそう言うと、先生は少し驚いた顔をした。

「今さらですか。」

「今さらです。でも、こうやって“俺もそうやったかもしれん”って思えるの、ちゃんとしてるなって。」

先生は、ちょっとだけ照れくさそうに笑った。

「いや、単にビビってるだけですよ。博子さんに嫌われたくないんで。」

その返しが、妙に正直で、博子は少しだけ嬉しかった。

お酒も進んで、夜も深くなってきてる。

でも、こういう話をしながら飲める相手がいるのは、やっぱりありがたいと思う。

「まあ、先生は大丈夫です。」

「ほんまですか。」

「今のところは。」

「今のところ、か。」

そう言って二人とも笑った。

月曜日の夜は、土日の濃さを引きずりながらも、こうして少しずつ静かに整っていった。

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