博子達の土日の話を弁護士先生に話す。楽しそうに聞く先生。先生も鉄板コース体験してみます??(笑)
お店に入ってからも、弁護士先生は相変わらず丁寧やった。
飲み方が大人やなあと、博子は改めて思う。無理に煽らへんし、変に見栄を張らへんし、
でもこちらに手を抜かせる感じでもない。ちゃんと遊んでくれるし、
ちゃんと話も聞いてくれる。こういう人は、やっぱりええなと思う。
卓に着いて、少し落ち着いたところで、先生が笑って言う。
「で、日曜日の続き、聞かせてもらえるんですよね。」
「聞かせますよ。」
博子も少し笑って、グラスを置いた。
「日曜日は、ちょっとゆっくり寝てから、昼に伏見の方行ったんです。で、酒蔵のところ回って、
黄桜のところでご飯食べて、地ビール三種飲んで、最後に一杯百円の日本酒で締めて。
そこから京都戻って、ホテルのラウンジでお茶して、最後三人みんなで集合して、
東京に帰す、っていう形でした。」
先生が、なるほどという顔で頷く。
「綺麗な流れですね。」
「綺麗でした。しかも、その辺のところがめちゃ刺さってまして。」
「また来る匂いがしますか。」
「プンプンしてます。」
そこは博子も、わりと確信がある感じで言う。
実際、駅で見送る時の空気も良かったし、その後のメールの返しも早かった。
ああいう人たちは、刺さった時は分かりやすい。
「で、一応、お手当て交渉の際にも、たくさん積んでくれたんですけど。」
「ほう。」
「でも、もし来てもらうために、ちょっと割引入れて。それに加えて
その代わり、“六本木銀座でもう一回遊んでください”ってもう一段割引いれたんです。
“それでうちらとの差が分かりますから”って。」
先生がそこで吹き出した。
「指し方がえぐいですね。」
「えぐいですか。」
「えぐいです。不満の種を、わざわざ明確にしてあげてるわけでしょう。
“なんか違和感あるな”で終わらせずに、“そこですよ”って言って、大阪側に寄せてる。」
博子は、少しだけ肩をすくめた。
「でも、六本木銀座では、あんまりそういう遊び方ないみたいなんですよ。
女の子が接待してくれるとか、外で一日遊んでくれるとか。で、向こうは一卓十万とかで
遊んでたって話やから、それ考えたら、たぶんこっち来そうな気はするんです。」
先生は、感心したように博子を見た。
「気づきを明確にしてあげる。不満の種も明確にしてあげる。
その上で、“こっちの方がええでしょう”って構造で持っていく。
博子さん、これキャバ嬢じゃなくても、そこそこ成功してたと思いますよ。」
博子は、そこで即座に首を振る。
「いやいや、全然です。こんなん、台風みたいなもんやと思ってるんで。」
「台風。」
「うん。来る時は来るけど、去る時は早い。だから、あんまり慢心しないようにって、
女の子たちとは一応握ってるんです。こういう人たち、乗る時は乗るけど、離れる時も早いんで。」
先生が笑う。
「めっちゃ冷静ですね。」
「冷静でおらな、あとでしんどいんですよ。」
そう言って、博子も少し笑う。
実際、今回の土日は大きかった。評価も、お金も、手応えも十分すぎるほどやった。
けど、それを“自分の実力がすべて”みたいに思ったら危ない。たまたま噛み合った風向きもあるし、
向こうの熱もある。そういうのは、ちゃんと分けて見とかんとあかん。
少しダラダラ喋って、先生が酒を口にしたタイミングで、博子はふっと話題を変えた。
「で、やっぱり先生、あれですかね。」
「何ですか。」
「こうやってお話、いつも聞いてくれるじゃないですか。
でも、人情感を得るためには、やっぱり鉄板コース一回回っときます?」
先生の手が、ほんの少し止まる。
博子は、その反応を見ながら続ける。
「土日の作りの話とか、結局、東京の社長たちも“あのコースを味わった上で”
の反応やったんですよ。だから、なかなか人情感というか、“ああ、こういうことか”って
いうのを掴むには、一回体験してもらった方がいいかなと思って。」
先生は、表情を崩さへんようにしながらも、ちょっとドキッとしたのが分かる。
博子は、それをわざと急かさへん。
「木日、行けそうですけど。でもたぶん、その良さが際立つのは平日やと思うんです。
人も少ないし、こっちも落ち着いて回れるし。どうですかね。」
先生は、一拍置いてから、少し笑った。
「……それ、急に来ますね。」
「急に言いました。」
「いや、なんか。話聞いてるうちに、だんだん“体験してみたい”になってくるから困るんですよ。」
「狙ってますもん。」
「でしょうね。」
先生はそう言って笑うけど、その笑いの奥に、明らかに気持ちが動いた感じがある。
博子はそこを見逃さへんけど、あえて今は押し込まない。
「まあ、また気が向いたらでいいです。」
「いや、その“気が向いたら”の置き方がうまいんですよ。」
「だって、押しすぎたら逃げるでしょう。」
「ほんまに、よう分かってる。」
店の空気はやわらかくて、夜はまだ長い。
土日の話をしていたはずやのに、気がつけばまた次の座組の話になっている。
それも、博子にとっては自然な流れやった。
目の前の人がどこまで見えていて、どこに惹かれてるか。そこを少しずつ読みながら、次の一手を置く。
弁護士先生は、盃を少し回してから言った。
「……ちょっと、本気で考えます。」
博子は、そこでようやく少しだけ満足そうに笑った。
「お願いします。」




