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同伴後半戦。金曜の清掃会社NGと土曜日の社長達の同伴の話をしながら食べ終わり、店へ向かう

「ま、金曜の後半戦ですと。」

博子は日本酒の盃を置いて、少し息を整えてから続けた。

弁護士先生は、天ぷらをつまみながら、もう完全に“聞く側”の顔になっている。

「金曜日は、だからチェンジされた後、もう一セットだけいて帰ったんです。」

「え、残ったんですか。」

「残りました。だって、あの日を清掃会社の社長の嫌な雰囲気だけで終わらせるのが、

どうしても嫌すぎて。」

先生が、そこで少し頷く。

「なるほど。」

「もう、あの人のせいで金曜日全部潰されたみたいになるのが嫌やったんですよ。だから、

フリーで一セットだけついて、普通に回して、“まだ私はやれる”っていうのを自分で確認して、

それで帰ったんです。」

「それ、意外と大事ですね。」

「大事でした。あれで耐えて寝て。で、土曜日の夕方です。今度は、私とチーム組んでるさきちゃん、

アルカちゃんの三人で、東京のイキってる社長さんたちを出迎えたというわけでございます。」

弁護士先生が、そこで少し笑う。

「イキってる社長さん。」

「いや、ほんまにイキってるんですって。」

博子も笑って返す。

「でも、ああいう人たちに対して、ちゃんと別の角度で刺しにいくっていうのが、

今回の勝負やったんです。」

「ほう。」

「で、それぞれ別々に同伴したんですけど、私は前に別の東京の社長にもやったのと同じで、

天満から入ったんです。三円の日本酒とか、三円のマグロとか、ハイボール五十円とか、

あの辺を見せて。」

先生が吹き出す。

「三円のマグロ、まだ強いですね。」

「強いですよ。でも、あれをただウケ狙いで見せるんじゃなくて、ああいう“安いけど、

ちゃんと街として成立してる”っていう相場観を当ててから、焼酎と鶏の店に行くんです。」

「なるほど。」

「そうすると、“安いのにいいところあるよね”っていうのと、“東京と価格感バグってるな”って

いうのが、一気に見えるんですよ。」

先生は、天ぷらの海老を箸で割りながら言う。

「それ、ちゃんと文脈で食わせてるんですね。」

「そうなんです。で、さきちゃんはふぐ。アルカちゃんは鯛飯。それぞれ全然違う味を出したんです。」

「ちゃんと分けたんですね。」

「分けました。しかも、前もって私の鉄板コースとか考え方を二人に見せてたから、

ベクトル共有できてたんですよ。だから、三人ともやってることは違うんですけど、

“東京の社長たちに大阪京都の面白さを見せる”っていう方向は一緒やったんです。」

先生は、そこで少し感心した顔になる。

「それは強いですね。」

「強かったです。社長さんたちも、めちゃくちゃ喜んでくれて。店に戻ってからも、

それぞれの同伴の話をあだこうだ言いながら盛り上がって、熱が高まって。で、三セットぐらい

行ったところで――」

博子は、少し間を置いた。

「私は三人、帰るっていうことをかましたんです。」

弁護士先生が思わず声を上げる。

「え、三セットで上がるんですか。それ、なかなか勇気いりますね。」

「勇気いりましたよ。」

博子は、ちょっと得意げに笑う。

「単純に、あの空気やったらまだ何セットか入れそうでしたから。熱量的には、たぶん全然

引っ張れたと思います。」

「でしょうね。」

「でも、次の日のこともあるし。正直、はよ帰りたいなって気持ちも半分ありましたし。」

先生が笑う。

「本音出ましたね。」

「出ますよ。でもそれだけじゃなくて、やっぱり“いつまでもいてほしい”“お金使ってほしい”

だけじゃないっていうのを見せなあかんなって思ったんです。」

「なるほど。」

「ここでスッと引いた方が、向こうの中に余韻残るし、“え、帰るん?”っていう揺さぶりにもなる。

だから、ちょっとした相手への揺さぶりですよね。カード切ったんですけど。あれ、

結構効果あったと思います。」

先生は、そこでゆっくり頷いた。

「それはそうでしょうね。欲しいところで引かれるの、いちばん残りますもん。」

「そうなんですよ。」

「しかも、金曜日にそんなへこむことがあって、その次の日にそこまでやれるって、

博子さん、座組の余裕が出てきてますよね。」

その言葉に、博子は少しだけ目を細めた。自分でも、今そう言われて、ちょっとはっとする。

確かにそうかもしれへん。前やったら、金曜の傷を土曜まで引きずってたと思う。

でも今回は、チームもあったし、設計もあったし、相手を見て一手打つ余裕まであった。

「……そうなんですかね。」

「そうやと思います。」

「でも、言われてみれば、思い返したらなかなかいい切り返しやったなって、自分でも思います。」

「いい切り返しですよ。」

「ありがとうございます。」

二人の間に、少しだけ静かな時間が流れる。

土曜の夜の熱を思い返したせいか、博子の表情もさっきよりだいぶ柔らかい。

「で、それで土曜日は終わって。」

「うん。」

「日曜日に、また京都まで引っ張るんですけど。それがまた、言うたら評価につながっていくんです。」

弁護士先生が、そこで笑った。

「まだその先あるんですね。」

「ありますよ。土曜だけでも十分濃いんですけど、日曜があるから、あの引き方が効いてるんです。」

先生は、盃を持ち上げながら言う。

「いやあ、ほんまに、博子さんの週末ってドラマですね。」

博子も少し笑って、同じように盃を持った。

「ドラマっていうか、接待コンサルっていうか。」

「そのジャンル、新しいですね。」

「でしょ。」

そうやって笑ってから、博子はふっと肩の力を抜いた。

金曜のしんどさも、土曜の踏ん張りも、こうして話にできてる時点で、やっぱり

一山越えたんやろうなと思う。天ぷらももうだいぶ減ってきた。

二人とも、いい具合に食べて、飲んで、話していた。

「じゃあ、店行きましょうか。」

博子がそう言うと、弁護士先生もすぐに頷いた。

「行きましょう。日曜の話、続きは向こうで聞かせてもらいます。」

「長いですよ。」

「聞きます。」

そう言って、二人は席を立った。

金曜の傷も、土曜の手応えも、まだ全部が新しいまま、夜の後半戦へ向かっていった。

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