七月二週目月曜日。弁護士先生との同伴。博子の話を天ぷらと日本酒で受け止める先生
七月二週目の月曜日。
朝から昼にかけて、博子はもう何もする気が起きず、だらだらと部屋の中で転がっていた。
寝ていたというほどでもないけど、起きていたというほど頭も冴えていない。
土日が濃すぎた。いや、正確に言えば金曜からや。金土日、三日続けて、気も頭も使い続けた
感じがして、ようやく今日、体が「ちょっと休ませろや」と言ってきている。
風呂をためて、ぬるめのお湯にゆっくり浸かりながら、博子はここ数日を順番に思い返していた。
まず金曜日。清掃会社の社長。数ヶ月、ようしてくれていたし、こっちもそれなりに丁寧には
やってきたつもりやった。けど、結局あの人は、私との相談とか、外遊びとか、そういうところが
メインで、中身を見てくれていたわけではなかったんやな、というのが最後にはっきりしてしまった。
よその女でもええわ、みたいなことを口にされた瞬間、ああ、終わりやな、と思った。
そこで切った。NGにした。あれはしんどかった。正直、かなりダメージは食らった。
けど、あれを曖昧にして続けてたら、もっとしんどくなってたとも思う。
そのあとや。土日、言うたらダメ元みたいな形で当たった東京のイキリ社長たち。
あれが、まさかあそこまで綺麗にハマるとは思わんかった。
三人で座組を組んで、店も外も、流れも意味も作って、反省会まで含めて回してみたら、
びっくりするぐらいうまくいった。
お金の面も、評価の面も、手応えとしては十分すぎるほどやった。
トータルで見たら良かった。むしろかなり良かった。
けど、ハードやった。ほんまに、心身ともにごっそり持っていかれた感じがする。
風呂から上がって、軽く身支度をして、弁護士先生との同伴へ向かう。
今日は何にしようかなと思っていたけど、結局、天ぷらにした。重すぎず、でもちゃんと
満足感がある店。今の自分にはそれぐらいがちょうどええ。
待ち合わせ場所に着くと、弁護士先生はいつもの柔らかい笑顔で立っていた。
「博子さん、お疲れ様です。」
その言い方が、なんかもう、それだけでちょっと救われる。
博子も自然に笑って返した。
「お疲れ様です。とりあえず、お店入りましょうか。」
店に入って、カウンターに通される。
先生がメニューを開く前に、博子が先に言う。
「今日は、日本酒ちょっといきましょう。」
先生が少し意外そうに笑う。
「今日、博子さん日本酒いくんですね。」
「ちょっとね。ビールでくいっといくには、金土日が濃すぎたんです。週末が濃すぎて、
まだちょっと消化しきれてない。」
先生は、その言葉にすぐ反応する。
「ということは、また僕、その話聞けるわけですか。」
「聞けますよ。」
博子は笑って、少し肩の力を抜いた。先生はほんまにええ。時々こうやって私の話を面白がって
くれるし、何より、私のことをちゃんと見てくれている。
ただ店で座ってる女としてやなくて、どう動いて、どう考えてるかを見てくれてる感じがある。
そこがやっぱり違う。
それで、博子はふっと本音をこぼした。
「先生はやっぱり、いいですね。」
「え、急にどうしたんですか。」
先生が笑いながらも、少しだけ心配そうな顔をする。
「そんながらにもないこと言うて。なんかありました?」
博子は、自分でもちょっと急やったかなと思いながら、箸袋を指でいじった。
「いや、最終的には気持ちも整って、一山越えた感じなんですけど。結構大変だったんです。」
先生の目が、少しだけ真面目になる。
「……うん。」
「なんか、金曜日にちょっと一人切ったんですよ。」
「切った?」
「うん。清掃会社の社長さん。数ヶ月よくしてくれてたけど、結局、私との外遊びありきで。
中身見てくれてたわけじゃなかったんやなっていうのが、最後にわかって。
よその女でもええわ、みたいなこと言われたから、ああもう無理やなって。NGにしました。」
先生は、そこで少しだけ眉を寄せた。
「それは……きついですね。」
「きつかったです。でも、切って正解やったと思います。そのまま続けてたら、
私が雑になってたと思うし。」
「うん。」
「で、その流れのまま土日入って、東京の社長たちとガチで座組組んで、
外も中も全部回したら、今度は逆にめちゃくちゃうまくいって。
だから結果オーライなんですけど、落差がえぐくて。」
先生が、そこで小さく笑った。
「博子さんらしい週末ですね。」
「らしいですか?」
「らしいです。しんどいことがあっても、そのまま終わらずに、別のところでちゃんと
回収してくる感じ。」
博子は、その言い方に少しだけ救われた気がした。
「……そうやといいんですけどね。」
ちょうどその時、最初の天ぷらが運ばれてきて、カウンターの上に静かに置かれる。
湯気と油の香りが立って、ようやく、月曜日の夜が始まった気がした。
博子は日本酒の盃を少しだけ持ち上げて、先生に向かって言う。
「じゃあ、週末の話、ちゃんとします。」
先生も盃を持ち上げて笑った。
「今日は長くなりそうですね。」
「たぶん、結構長いです。」
そう言って、博子はようやく、この数日分の重さをゆっくり言葉にし始めた。




