東京メイン社長。博子から来週にずらされたが企画練られているので腹落ち。
東京メイン社長は、深夜に届いた博子ちゃんからのメールを、ベッドに腰かけたまま読み返していた。
読みながら、ふっと笑う。やっぱりそう来るか、という感じと、やっぱりそこまで考えてるんか、
という感心と、両方あった。
「了解。ほなまた再来週、楽しみにしてるわ。」
そう短く返してから、スマホを伏せる。
文面としてはそれだけやけど、腹の中ではだいぶ納得していた。
確かに、自分と他の社長二人には差がある。
それは最初の抜け駆けの時から、ずっと自分でも感じていた。
自分だけ刺さり方がえぐい。だからこそ、気持ちよかった部分もあるけど、同時に、
そのままやと三人で回らんというのも分かる。そこを、向こうはちゃんと見てる。
しかも、ただ空気読んで回すんやなくて、「差があるなら、そこを解説して腹落ちさせる」という
座組を考えてくる。
――さすが博子ちゃんやな。
社長は、素直にそう思った。普通やったら、今週来てくれるなら来てください、で終わる。
せっかく熱量が上がってるんやから、勢いで来させた方が売上にはなる。
でも博子ちゃんは逆や。一週間ずらしてでも、意味のある形に組み替えたいと言ってきた。
しかも、前半二セットは普通に回し、後半二セットを自分の講義にする、と。発想がおかしい。
けど、そのおかしさが、たぶん今いちばん面白い。
「……講義て。」
口に出したら、また少し笑ってしまう。
でも、実際そのぐらいのことをやらんと、二人は腹落ちせんやろうな、とも思う。
あいつらも、楽しかったとは言ってた。でも、自分みたいに“価値の構造”まで見えてるか
って言うたら、まだそこまでは行ってへん。そこを埋めようとしてるのが、また博子ちゃんらしい。
スマホをもう一回手に取って、さっき自分が送った「了解」の文面を見る。
短い。でも、今はそれでいい。
再来週。また来る前提で、お互いもう動き始めてる。
その事実が、なんか心地よかった。
で、それはそれとして。社長はベッドにもたれながら、ゆっくり考える。
――ほな、その間、何するかやな。
仕事を頑張る。それはもちろんある。
向こうに“また来る理由”を堂々と持つには、やっぱり仕事の数字も必要や。
奨学金返済の肩代わりの制度。就労不能の制度。
その辺も、一回ちゃんと見てみようと思う。
博子ちゃんに投げられた球を、ただ「面白かった」で終わらせるのは、もったいない。
見積もりが出せるなら出して、もし実際に社内で動かせるなら、そこは一歩踏み込んでみてもいい。
それができたら、向こうに対しても、ただ遊んでるだけやなくて、ちゃんと“持ち帰ってる”って言える。
でも、それだけやない。博子ちゃんに言われた通り、一回六本木に行くのもありやなと思う。
最近、ちゃんと遊んでへん。銀座も六本木も、ここのところ大阪京都の余韻が強すぎて、
むしろ避けてたところがある。でも、一回確認した方がいい。あっちの一時間十万。
シャンパンで殴るやつ。こっちが媚びて、機嫌を取って、店を選んで、なんとなく終わる夜。
それをもう一回味わって、「やっぱり違う」と思うのか、それとも「いや、これはこれでやっぱりある」と思うのか。そこはちゃんと見ておいた方が、再来週また大阪京都に行く意味も濃くなる。
「……まあ、多分もう、楽しくはない気がするけどな。」
そう呟いて、自分でちょっと笑う。でも、その“見切りの確認”は、必要や。
向こうに言われたからじゃなくて、自分の中で整理するために。
さらに頭が動く。地方、という言葉が浮かぶ。名古屋。博多。北海道。
単純に東京以外の軸を持つという意味で、その辺も候補に上がる。
大阪京都であれだけやれるなら、他の街にも別の刺さり方があるかもしれん。
あと、地方まで行かんでも、東京郊外。江戸川区、とふと頭に浮かんだのは、たぶん“都心ど真ん中以外”に目が向き始めたからやろう。今までなら、夜遊びと言えば銀座か六本木か、
せいぜい西麻布やった。でも、博子ちゃんたちに二日連れ回されて、街を“遊ぶ場所”やなくて
“文脈ごと味わう場所”として見せられたことで、少し視点が変わってる。
植物園もそうやった。正直、自分から行く発想はなかった。美術館もそう。
でも、ああいう“文化系”の場所に行って、それをきっかけに喋るっていうのは、
思ってたより悪くなかった。むしろ、かなりよかった。
だったら東京の方でも、そういうところをちょっと見てみるのも面白いかもしれん。
美術系。展覧会。植物園。博物館。
自分が今まで“女子が行きたがるところ”ぐらいにしか見てなかった場所を、
一回、自分の目で見てみる。それをやってから、また大阪京都に戻る。
そうすると、向こうに渡せる会話も増えるやろうし、何より、自分の引き出しも増える。
「……なんか、変わってきたな。」
ぽつりと、そう出た。大阪京都で遊んだだけやのに、いや、“遊んだだけ”やないからかもしれん。
飲み方。金の使い方。街の歩き方。女の子との関わり方。仕事の発想。
そういうものが、少しずつズレ始めてる。
ベッドの上で、社長は大きく息を吐いた。仕事もやる。六本木も確認する。
地方も少し見る。文化系も一回触ってみる。
その全部が、再来週の大阪京都につながってる気がした。
博子ちゃんの言う通り、今週はやめといた方がええ。
その余韻をちゃんと寝かせて、もう一段積んでから行く。その方が、多分また面白い。
スマホを枕元に置く。「再来週、楽しみにしてるわ」と送った、その短い一文の先に、
もう次の座組が見えている。そう思うと、少しだけ胸が高鳴った。
東京の夜は静かやった。
でも、社長の頭の中では、まだ酒屋も、五条のランチも、鴨川も、全部が薄く光っている。
その光を抱えたまま、社長はゆっくり目を閉じた。




