博子の返信を社長達が受け取る。値引きの理由に爆笑。満足して東京駅に降り立つ
東京駅が近づいてきて、新幹線の速度が少しゆるんだ頃やった。
三人の社長たちは、さっきまで白州の紙コップを片づけて、そろそろ荷物まとめるかという
空気になっていた。そこで、イキリ社長のスマホが震える。
「……来た。」
「博子か?」
「うん、返信。」
三人とも、自然に顔を寄せる。メイン社長がメールを開いて、読み上げ始めた。
「“すごい評価していただいてありがとうございました。三人とも、一回連絡して、
三人とも一人50もらえるのはすごい喜んでます。頑張った甲斐あったなって喜んでます”」
「そこは、まあそうやろな。」
「そら喜ぶやろ。」
そこまでは、割と想定通りやった。
でも、次の一文で、三人とも表情が変わる。
「“でも、私たち三人の合意で、二つ提案させてください”」
「お、来たな。」
「絶対なんかあると思った。」
イキリ社長が笑いながら続きを読む。
「“一つは、50万というのを40万にしてください”」
「は?」
「なんでやねん。」
三人とも、そこで一回吹き出した。しかもまだ続きがある。
「“5万円は、次来てもらう時の交通費と宿泊費に使ってください。もう5万円は、六本木銀座で
一回遊んでから来てください。私らの汗水垂らして考えたこの座組と、六本木銀座で
チャラチャラやってる女たちと、一回見比べてください(笑)”」
そこで、完全に爆笑になった。
「なんやそれ!」
「50払って、10減らしてくるか普通!」
「しかも、めちゃめちゃ挑戦的やな!」
イキリ社長も、腹を抱えるほどではないにしても、完全に笑っていた。
「いや、次来てくださいは、まあ百歩譲ってわかるねん。
交通費と宿泊費の足しにしてください、もわかる。
でも“六本木銀座で遊ぶ代の足しにしてください”って、なんやそれ。」
「お前ら、一回あっち行って比較してこいってことやろ。」
「しかも“チャラチャラやってる女たち”って、言い切るのすごいな。」
笑いながらも、三人ともちゃんとその意味はわかっていた。
これは単なる冗談ちゃう。向こうは本気で、“うちらの価値は比較したらもっとわかる”
と思ってる。その自信もあるし、実際、ちょっとそうかもなと、こっちも思わされてる。
イキリ社長が、まだ笑いの残る声で続ける。
「で、もう一個や。“奨学金返済の肩代わりの制度と、就労不能の制度、そこのところを
社長たちの会社でもやってるかどうか、そこでやることによって離職率が下がるとか、
採用コストを削れるとか、その辺をまた見積もってみてください”」
「出た。」
「やっぱ入れてきたか。」
「“実際に動いたら、どれぐらい効果が出るか、また教えてください”……って。」
そこまで読み終わって、三人とも一瞬黙る。
で、黙ったあと、またじわじわ笑いが戻る。
「いや、ほんまにすごいな。」
「最後までコンサルしてきよる。」
「50払う言うたら、普通そのまま受け取るやろ。それをわざわざ10引いて、その代わり
“また来てください”と“六本木銀座で一回確認してきてください”と、“制度見積もってください”
まで入れてくるんやで。」
メイン社長が、スマホを持ったまま首を振る。
「これはやられたな。」
一人が、少し真面目な顔になる。
「でも、これで逆に向こうの芯がわかったやん。単純に金だけほしいんやなくて、
比較させたいし、次につなげたいし、自分の話したことが会社にどう効くかまで見たいんやろ。」
「そうやな。」
「だから、たぶんこっちがまた来る前提で話してる。」
そこはもう、三人とも認めるしかなかった。向こうは“また来る”のを当たり前みたいに
置いてきてる。しかも、その置き方がうまい。金を減らしてまで、関係の温度を上げようとしてる。
「じゃああれやな。」
メイン社長が、少し顔を上げる。
「来週の週末ぐらいに、もう一回行くか。」
「来週?」
「さすがに毎週は行きすぎちゃうか。」
「いや、でもこれ、行きたくなるやろ。」
二人も、そこは否定しきれへん。だって、気持ちはもうだいぶ大阪京都に傾いてる。
銀座六本木にもう一回行っても、おそらく前みたいには楽しくない。
せやけど、それでも一回確認する意味はある。向こうに言われた通り、“見切りの確認”や。
「たぶん、もう楽しくないと思うで。」
「俺もそう思う。でも、確認しといた方が、こっちも腹落ちするやん。」
「そうやな。比較した上で“やっぱあっちや”ってなったら、もう堂々と行けるし。」
そこで三人とも、なんとなく腹が決まる。六本木か銀座か、どっちか一回行く。
で、その上で、また大阪京都行く。そういう流れが、もう自然に見え始めていた。
「ほな、とりあえず返信しよか。」
「うん。」
「“わかった”って。」
イキリ社長が、その場で文面をまとめる。
《了解。提案、三人で読んでめっちゃ笑いました。50から10引いてくるとは思わんかったです。
でも、その理由も含めて面白いし、納得してます。六本木銀座、言われた通り一回確認してきます。
奨学金返済と就労不能の件も、会社で見てみます。また見積もりとか出たら共有します。
それぞれ振り込みしたいので、あとで口座教えてください。》
打ち終わって、二人に見せる。
「ええんちゃう。」
「うん、それでええ。」
そのまま送信。東京駅到着のアナウンスが流れ始める。
三人は荷物を持ち上げながらも、まだ少し笑っていた。
「しかし、六本木銀座の遊び代の足しにしてください、は反則やな。」
「完全に挑発やろ。」
「でも、それでちゃんとこっちが動こうとしてるんやから、向こうの勝ちやな。」
そう言いながら、新幹線を降りる。ホームの人混みの中を歩きながら、三人とも、
たぶん同じことを思っていた。
もう、気持ちはだいぶ向こうや。せやけど、一回だけ、東京を確認する。
その上で、また行く。それがたぶん、いちばん面白い。




