社長陣からお手当の話が来て女性陣で話し合う。5万は次の大阪遠征代、5万は銀座六本木での遊びの足しで割引します。
泥のように眠っていた博子が、ふっと目を覚ましたのは夜やった。
さすがに土日、濃すぎた。頭も体も使い切った感じがあって、起きた瞬間、
一瞬ここがどこかわからんぐらいやった。
でも、枕元のスマホを見たら、通知が一件、ぴかっと光ってる。
「……来たか。」
東京のイキリ社長からのメールやった。
博子は半分寝ぼけた顔のまま文面を開いて、読み進めて、途中でふっと笑った。
「細かく評価してくれて、ありがとうございますやな……。」
いかにもあの社長らしい、妙にロジカルで、でも熱が入った文面。
しかも金額の出し方がまた、ちゃんと“考えました”感ある。そこがちょっとおかしくて、
でも素直に嬉しかった。
博子はすぐに、さきちゃんとアルカちゃんにそれぞれLINEを飛ばした。
《起きたー。メール来た》
《ちょっと3人で通話しよや》
少しして、三人で通話がつながる。
まず最初に出たのは、当たり前みたいな一言やった。
「今日お疲れさま。」
「ほんまお疲れ。」
「いやー、濃かったな。」
博子は笑いながら言う。
「ちょっと今、メール飛ばすわ。」
そのまま、社長から来た文面を二人に転送する。
少しの沈黙のあと、アルカちゃんが先に口を開いた。
「……いや、しっかり考えてくれてるよな。」
さきちゃんもすぐ乗る。
「うん。素直に嬉しい。今回は。」
前に包んでもらった時は、言うたら15とか10とか、そのぐらいの積み方やった。
それでも十分ありがたかった。
でも今回は違う。三人とも、一人50。
それを三人分。数字にすると、改めてえぐい。
「マジすごくない?」
博子が思わず言う。
「もう店働かんでええやん、みたいな。」
二人が笑う。でも、その笑いの中に、ちゃんと実感があった。
「いや、でもこれは台風みたいなもんやと思うで。」
アルカちゃんが、少し冷静な声で言う。
「時々、ドーンと来るやつ。これを常態にしたら、逆にしんどい。」
「それはそう。」
博子もすぐ頷く。
「一応、土日は東京枠で置いといて、私らが座組回してやるけど、どんどんネタ新しくしていかな、
たぶん社長たち満足せえへん。その擦り減らしと、新しい切り口の仕入れ代込みやと思ってやろうや。」
さきちゃんも納得する。
「うん。今回の40とか50って、今までの貯金もあるし、これからの仕入れ代でもあるよな。」
少し静かになって、博子が本音を出した。
「……でも、私としては、今回もらい過ぎやと思うねん。」
「もらい過ぎ?」
「うん。もらい過ぎっていうか、余韻を残したい。」
そこで博子は、自分の中で考えてた案を話し始める。
「だから、5万引こうと思ってる。次に来る交通費と宿泊費分の5万円を引きます、って。
45って形で返そうかなと思ってる。」
二人が少し黙る。そしてさきちゃんより先に、アルカちゃんが言う。
「それ、理由の付け方、もうちょいおもろくせえへん?」
「どういうこと?」
「私ら、銀座六本木に一回行ってくださいって、ずっと言うてるやん。」
「あー。」
「その代金の足しにしてください、でさらに5万引くのどう?」
博子が、そこで一瞬止まってから笑う。
「いいやん、それ。」
サキちゃんもすぐ賛成する。
「うん、めっちゃいい。“次来てください”の5万でもええけど、
“六本木銀座でもう一回遊んで、その上で来てください”の5万の方が、絶対向こう笑う。」
「しかも、私ら前回10やったから、40もらうだけでもめっちゃいいしな。」
「そうやな。」
博子は、そこでだいぶ納得した。
「じゃあ、それで理由つけて送っとくわ。」
でも、そこだけでは終わらへんのが博子やった。
「で、その5万引く代わりに、一本だけ質問投げる。
前に話した奨学金の返済肩代わりと、就労不能の話。
最近のトレンドやし、会社でどうか、また調べてみてくださいって。」
アルカちゃんが笑う。
「出た。」
さきちゃんも笑う。
「そこはもう博子ちゃんに任せる。その取り分は博子ちゃんが取ってくれたらええよ。」
「ありがとう。」
三人でちょっとだけ笑って、それから、あらためてしみじみとした空気になる。
「でも今回、ほんま頑張った甲斐あったよな。」
博子がぽつりと言う。さきちゃんがすぐ返す。
「うん。40もらえたら、もうこれだけで生活できるしな。」
「まあ、だからって普段を雑にしたらあかんけどな。」
「それはそう。」
アルカちゃんが、そこで少し声のトーンを変えた。
「あと、税理士先生・保険会社の方の座組の話、あったやん。」
「うん。」
「さきちゃんはちょっと“初めまして”にはなるけど、それの打ち合わせも兼ねて、
また金曜入れれるようにするわ。博子ちゃん、清掃会社の社長、NG出したし。」
通話の向こうで、二人が「ああ……」と同時に言う。
あいつは、なかった。それはもう三人の中で確定やった。
「でも、あいつのことがあっても、土日でこうやってリカバリーできた博子ちゃん、すごいよ。」
博子は、そこで少し苦く笑った。
「いや、あれは一人ではどうにもならんかった。一人の店で、あんなん暴れられたらたまらん。
そういう意味で、キャバ嬢で、店で、黒服さんが守ってくれたのはほんま良かったし。
二人にフォローしてもらったからこそやわ。」
「それはそう。」
「ほんまにそう。」
少しの沈黙。でも、悪い沈黙やない。
やり切った後の、ちゃんとあったかい沈黙やった。
「じゃあ、今日はほんまにお疲れ。」
「お疲れ。」
「メール送っといてな。そのあとどう返ってきたか、また私らにも添付で教えて。」
「了解。」
「また店で会おうな。」
「うん、また店で。」
そう言って、通話は切れた。
博子はスマホを見下ろしながら、もう一回だけ社長からのメールを開いた。
嬉しい。でも、それ以上に、ちゃんと次に繋がりそうなんが良かった。
一度大きく息を吐いてから、ヒロコは返信の文面を考え始めた。
今回の50はありがたい。
でも10万引く。その理由も、ちゃんと笑ってもらえるように。
そして、次の糸も一本垂らすように。
土日は終わった。でも、座組はまだ続いていた。




