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さきちゃんのコース。祇園でまったりイタリアンでじわっと刺す。社長も汗かいてくれたり東京都の違いに満足

一方、さきちゃんの方は京都駅から、だらっとタクシーで祇園へ向かっていた。

あえて電車で細かく刻まず、今日は最初から“ゆるく街に入る”を選んだ。

社長も昨日からだいぶ肩の力が抜けているし、ここでバタバタ乗り換えるより、

車窓から京都を見せながら入った方が、この人には合うと思ったからや。

タクシーが四条通を抜けて、祇園の方へ入っていく。

社長は窓の外を見ながら、ぽつりと言う。

「やっぱり、空気ちゃうな。」

「ちゃいますよね。」

さきちゃんは笑って頷く。

「今日のところは、観光は余白があったらちょっとする感じで。

先にご飯をちゃんと食べてもらおうと思ってるんです。」

「ほう。」

「祇園の中のイタリアン、実は予約してるんです。夜やったら一万から一万五千円ぐらい

するところが、昼は四千円ぐらいでやってるんですよ。これ、なかなかお得でしょうって

いうのを感じてもらいたくて。」

社長は少し眉を上げる。

「確かに値段だけ聞いたらお得やな。

でも、こうやってどんどん歩いていったら、どこ行くねんって感じやな。」

さきちゃんはそれが嬉しくて、少しだけ足取りをゆるめた。

「祇園って、分かりにくいんですよ。

一見さんに対して、ちょっとハードル高い街なんです。

だから、こうやって連れていかれる方が楽やと思います。」

細い通りを少し入ったところに、その店はあった。

外から見たら、そこまで派手ではない。むしろ「ここなん?」って思うぐらい、静かにある。

けど中に入ると、空気が変わる。シックで、少しレトロで、ちゃんと落ち着いてる。

昼やのに、ちゃんと夜の店の気配も残ってる感じやった。

社長が席について、店の中を見回す。

「なるほどな。」

「でしょう。」

「表はそんなに派手ちゃうのに、中入ったらちゃんとしてるな。」

「そういうの、京都っぽいんですよね。」

料理が出てくるまでの少しの間、さきちゃんは水を一口飲んでから言う。

「こういう、ゆったりした京都って感じを味わってもらえたらなと思ってます。」

社長は、店の奥から聞こえる皿の音や、低い話し声なんかを聞きながら、少しだけ頷いた。

「これは、良かったわ。なんか、京都来たって感じする。」

「よかったです。」

さきちゃんはそこで、少し照れながら本音も混ぜた。

「私もまだまだ勉強不足なんですけどね。大阪にいるから、京都のこと全部わかってるわけでも

ないし。でも、大阪で座組で色々回ろうっていうより、京都の方がやっぱり選択肢広いんですよ。」

「そうなんや。」

「うん。伏見もあるし、嵐山もあるし、私の祇園もある。この辺やったら八坂さんも近いし、

知恩院もあるし、高台寺もありますし。お寺回りもできるし、平安神宮の方まで行ってもいいし。

美術館とか博物館も多いから、もしかしたらそういうのも刺さるかなって。」

社長が思わず笑う。

「お前、どこでその知識仕入れてんねん。」

さきちゃんは、そこでちょっと素直に笑った。

「博子ちゃんです。」

「やっぱりか。」

「博子ちゃんが、とんでもなく引き出し持ってるんですよ。で、私らにシェアしてくれるんです。」

料理がちょうど運ばれてくる。前菜からしてちゃんとしてる。四千円の昼とは思えへん整え方で、

社長の顔がまたちょっと変わる。

「……ええな。」

「でしょ。」

社長がフォークを持ちながら聞く。

「でも、なんでそんなシェアしてくれるんや。」

さきちゃんは少し考えてから答えた。

「前に、東京から複数で来られた時に、やっぱり博子ちゃんが明らかに人気というか、

刺さり具合がえぐかったんですよ。で、それやとこっちも変な空気になるし、博子ちゃんも

一人勝ちしてたらしんどい。だから色々シェアしてくれて、チームで頑張ろうみたいな感じで

言ってくれるんです。」

「へえ。」

「それについていって、私らもちょっと必死にやってる感じです。正味、キャバ嬢がこうやって

アフターで一日動いて、っていうのは、たぶんだいぶイレギュラーやと思うんですけど。」

社長が、そこで小さく笑う。

「そらそうやろな。」

「でも、そうやって頑張ったら、みなさん東京との違いに気づいて、結構ちゃんとお手当

いただいたりするんで。そういうところで、頑張れたりはしますね。」

社長は、料理を口に運んで、しばらく黙った。そして飲み込んでから言う。

「なるほどなあ。多い少ない、だけじゃないんかもしれんけど。

そうやって頑張ってくれてるのは、確かに評価したいなって気持ちにはなるわな。」

さきちゃんは、その言い方が嬉しかった。金額の話だけにしない。ちゃんと“動き”を見てくれてる。

それだけで、今日ここまで連れてきた意味がある。

社長は、改めて料理を見て言う。

「それにしても、ここのランチうまいな。東京でこういうの食おうと思ったら、昼でも一万いくぞ。」

「いくと思います。」

さきちゃんは笑って返す。

「そこはやっぱり、場所をずらしたことによるメリットちゃいますかね。

東京も探したらあるのかもしれないですけど、こうやって“祇園の奥”って文脈付きで、

しかもこの値段でってなると、やっぱり効くんですよ。」

社長はグラスを持ちながら、しみじみ頷く。

「うん、効く。これは普通に、また来たくなるやつやな。」

サキちゃんは、その言葉を聞いて、心の中で小さくガッツポーズした。

王道やけど、ただの王道やない。

“ちゃんとしたもんを、ちゃんとした値段で、ちゃんとした空気で出す”。

それが今日は、綺麗に刺さっていた。

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