同伴で博子のチョイスおばんざい屋で雑談と花見に行く話に花をさかせる。
日曜日の昼焼肉で出た話が、
思ったよりも早く現実味を帯びてきた。
「この前言うてた花見な、4月の2週目くらい、どうや?」
清掃会社の社長からそう言われたのは、
月曜同伴での食事の席やった。平日
仕事の合間に、少しだけ季節を楽しむ感じ。
私は一瞬、頭の中でスケジュールを回す。
出勤、動画、勉強。無理はしたくないけど、
この流れは大事にしたい。
「火曜木曜日曜のどれかならなんとか行けます」
そう答えると、社長はほっとしたように笑った。
花見の場所の話になる。大阪か、京都か。
「大阪やったら、天満宮とか桜宮あたりですかね」
「散歩するだけでも気持ちいいですよ」
そう言うと、「ええな、あそこは落ち着く」とすぐ返ってくる。
京都の話も出る。哲学の道、出町柳。桜のトンネル。川沿いのベンチ。
「京都もええなぁ…」と社長は言いながら、少し考える。
私は正直に言う。「出町やと、1日仕事になりますよね」
「それはちょっと、私の方が申し訳ないです」
無理に夢を広げすぎない。これも私なりの線引きや。
すると社長は、「せやな」とあっさり頷いた。
「京都連れていくなら、ちゃんと店通わないとな」
その言葉に、私はこの人の感覚が好きやなと思う。
“遊び”と“仕事”を、ちゃんと同じ線の上で考えている。
「大阪やったら、そこまで無理せんでもええ」
「でも、この季節だけやしな」
季節限定。今しかない。その言葉が、少し胸に残る。
食事はおばんざいのカウンター。静かで、気取らない。
距離が近すぎず、遠すぎず。出てくる料理は、
茄子の煮浸し。里芋の煮っ転がしの揚げ物。
出汁の効いた、小鉢。「家では、こんなん出てけえへんわ」
社長が笑う。「嫁と二人になったらな、もう刺激ないねん」
その言葉は、愚痴というより、淡々とした事実みたいに聞こえた。
「子供も独り立ちして、仕事して、帰って、飯食って、寝るだけ」
少し間を置いて、「今、ヒロコとおる時間、めっちゃ楽しいわ」
と、ぽつっと言われる。私は、すぐに何か返すわけでもなく、
ただ「ありがとうございます」とだけ答えた。
こういう言葉は、軽く受け取ったら壊れる。でも、重く受け取りすぎても、
関係が歪む。「もし、一人でもいいですし」私は話題を少し前に進める。
「会社の方とか連れて、にぎやかな会にしてもらっても、私は全然嬉しいですよ」
社長は驚いた顔をした。「ええんか?」
「はい」「個別も好きですけど、たまにそういうのも楽しいですし」
これは本音や。一対一だけに閉じた関係より、“開いた余白”がある方が、
長く続く。「なるほどな」「ほんま、よう考えてるわ」そう言われて、
私は心の中で小さく息を吐く。花見。京都か大阪か。散歩か、軽い飲みか。
まだ何も決まってない。でも、この話題が自然に続いてること自体が、
今の関係の答えやと思う。私は、この流れをちゃんと掴んでおきたい。
派手に煽らなくても、無理に縛らなくても、こうして“次”が生まれる関係。
——この人とは、季節を一緒に重ねていけそうや。
そう感じながら、おばんざいの小鉢を箸でつついた。




