博子は戸惑いながらイキリ社長がはまった鉄板コースの種明かし。社長達は明日のプランにも興味津々
博子は、社長たちの「ちょっと教えてや」に、少しだけ困った顔をしたまま、
でも逃げずにグラスを置いた。さっきまでの笑いの空気を切らんように、けれどちゃんと
線は引く。そういう喋り方になる。
「社長には、明日は別のプランで誘おうと思ってるんで……一応、種明かし“だけ”しときます。」
その言い方に、三人の社長がちょっと前のめりになる。
アルカちゃんとさきちゃんも、横で「来たな」という顔をする。
「別にね、このやり方が面白そうやなって思ったら、アルカちゃんとさきちゃんにも同じコース、
一回味わってもらってるんです。」
「え、そうなん?」
「そうです。刺さり方に差が出て、そこで仲悪くなるのも嫌やったし、みんなのレベル感とか、
何を刺したらいいかっていうのは、共有しとこうかなと思って出したんです。」
イキリ社長が、そこで半分呆れたように笑う。
「懐、広すぎやろ。」
博子も苦笑いする。
「いや、そこはね。独り勝ちしたら、結局しんどいの私なんで。」
場がまた少し和む。
そのうえで、博子はようやく“構造”の話に入った。
「前の私の鉄板コースで言うと……まず大阪待ち合わせでサンダーバードで京都駅に出ます。」
一人の社長が「おお」と反応する。
博子は指で空中に動線を描くみたいに話し始める。
「で、創業百二十年ぐらいの酒屋さん行くんです。そこで、いろんなお酒を見てもらう。
ただ見るだけじゃなくて、私の方で誘導しながら、伏見のお酒を選んでもらうんです。」
「酒屋から始まるんか。」
「そう。いきなり店でこれ買いましょうってしない。“自分で選んだ感”を最初に作るんです。」
社長たちが、その時点で少し黙る。もう“デートコース”として聞いてへん。
構造物として聞き始めてる。
博子は続ける。
「そのあと、隠れ家イタリアンに行く。パスタ二種類、半分ずつでリザーブ。
肉と魚のメインも半分ずつリザーブ。でも、そんな高くない値段でやってくれるんです。」
アルカちゃんが横で補足する。
「ここ、ちゃんと“いいもん食べてる感”あるのに、気取ってないんですよ。」
「そうそう。」
博子が頷く。
「で、そこでちょっと満足してもらってから、鴨川。」
「観光地のど真ん中じゃなくて?」と社長の一人が聞く。
「手前です。」
博子がすぐ返す。
「そこが大事なんです。観光地のど真ん中に入る一歩手前の、ちょっとずらした川原。
そこで、さっき酒屋で選んだ日本酒を開けて、手料理も軽くつけて、鴨川でのんびりしてもらう。
――そういうプランです。」
その説明が終わった瞬間、別の社長が思わず身を乗り出した。
「それは刺さる。」
「でしょ?」
「いや、今の説明だけで、いろんなところに“構造で刺さるポイント”あるなって分かる。」
博子はそこで少し笑った。
それが分かる時点で、この人らもだいぶ“見る目”が変わってきてる。
「多分、あります。」
「“多分”なんかい。」
「いや、ありますよ。でも、それを私の口で全部言うても、実際行って補足せんと
分からんところがあるんです。」
サキちゃんがそこで口を挟む。
「女の子側には、その辺全部種明かしして、解説してもらったんです。」
「へえ。」
「ただ、それを全部ここで言うと、博子ちゃんの飯の種なくなるんで。」
その言い方に、社長たちがどっと笑う。
博子も「そうなんです」と肩をすくめる。
「もちろん、温度感とか、会話の間とか、相手をどう見るかっていうのは属人的です。
だから、コースだけ真似したら同じになるわけじゃない。
でも“こういうことを考えてる”っていうのは、共有してます。」
イキリ社長が、少し真面目な顔で頷く。
「なるほどな。それをさらすことで、“一緒にやっていこう”っていう意思を見せたんやな。」
「そうです。」
アルカちゃんも、そこでしっかり乗る。
「だから、私らも“ついていこう”って気になってるんです。もちろん、刺し口は博子ちゃんと
違います。でも、チームで同じ方向見てやるっていう感じは、めっちゃあります。」
サキちゃんも笑って続ける。
「私もそう。“どうやったら東京の人に大阪の楽しさ伝わるか”みたいなの、
三人で交換してるんで。それはやっぱり、博子ちゃんが種明かししてくれたからです。」
社長たちが、その話を聞きながら、ちょっと本気で感心した顔になる。
「そこまで考えてるの、マジですごいな。」
「普通、隠すやろ。」
「隠した方が得やもんな。」
博子はそこで、少しだけ静かに返した。
「短期的にはそうです。でも、長くやるなら、私一人で抱えても無理なんで。」
その一言が、意外と重く響いた。
三人の社長も、女の子三人も、その場でなんとなく同じことを思った。
これは単なる“夜の遊び”の話やない。もうほとんど、場づくりの話になってる。
そうして、三セット目はかなりいい温度のまま終わった。
ボトルの流れもよかったし、会話も深くなりすぎず、でもちゃんと残る。
“いい感じで終わる”って、こういうことやな、という締まり方やった。
で、席が少し緩んだタイミングで、社長の一人がにやっと笑って言う。
「で、明日どこ行くかっていうのは、教えてくれへんのけ?」
その一言で、女の子三人が一瞬だけ顔を見合わせる。
「どうする?」
「言う?」
「いや、でもな……」
そういう無言のやり取りが、三人の間をすっと走る。
社長たちは、その空気を見て、余計に楽しそうになる。
「お、そこはまだ秘密なんか。」「それとも、明日の朝まで引っ張る系か?」
博子は、困ったように笑いながらアルカちゃんとサキちゃんを見る。
二人も、半分笑ってるけど半分本気で迷ってる。
ここでどこまで出すか。
明日のワクワクを残すか。
それとも、少しだけ餌をまくか。
店の中の空気が、またひとつ面白いところへ転がりかけていた。




