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さきちゃんの視点、フグ料理で社長を刺す。社長の遊び方に疑問。それって女性陣の怠慢ですよね?

さきちゃんの方は、社長を連れて新地の少し奥まったところにあるふぐの店に入っていた。

大阪言うたら、やっぱりふぐかな、という発想で押さえたコースや。

季節外れではある。でも、季節外れやからこそ逆に面白い。寿司でも焼肉でもない、

東京の社長が自分では選ばへんやつ。それを先に出すのが、今日の狙いやった。

席について、社長がメニューを見てすぐ笑う。

「大阪と言えばふぐか。焼肉と寿司にせんのは偉いわ。」

さきちゃんは、そこで少し得意げに笑った。

「多分、そうやと思ってまして。六本木とか銀座でええもん食い過ぎてはるでしょうし。」

社長は頷く。

「そらな。もう寿司と焼肉は、ええとこ行こうと思えば東京で何ぼでもある。」

「ですよね。だからうちら三人、そこはやめとこうっていつも言うてるんです。」

「三人で?」

「はい。東京から来られる方には、できる限りのものを送って帰ってもらいたいし、

街も感じてもらいたい。そういう意味で、“東京にある高いもん”じゃなくて、

“大阪で食べる意味のあるもん”を出したいなって。」

社長はそこで少しだけ感心したような顔になる。

「なかなかあれやな。よう考えてるんやな。」

サキちゃんは、そこで変に謙遜せず、そのまま受け取る。

「そうですね。私ら東京の人たちは、基本“接待や”と思ってるんで。

なんか爪痕残してやろう、みたいな感じでいます。」

そのタイミングで、てっさが運ばれてきた。

薄く引かれたふぐが、皿の上にきれいに花みたいに並んでいる。

社長は思わず身を乗り出した。

「うわ、めっちゃ綺麗やんけ。」

箸で一枚取って、薬味と一緒に口へ運ぶ。歯ごたえがちゃんとあって、でも硬すぎへん。

そのまま、社長が言う。

「……うま。」

さきちゃんは、それを見て小さく笑う。

「でしょう。」

「いや、これ、東京でもなかなかこんなええもん食われへんわ。」

その言い方が、ちょっとだけ本音っぽくて、さきちゃんの肩も少しだけ軽くなる。狙いは合ってる。

この社長も、やっぱり“わかりやすい高級”より、“自分で選ばんけど、食ったら

ちゃんと良いもん”に反応する。

しばらくして、ふぐちりも来る。季節外れやけど、だからこそまたいい。

湯気の向こうに白い身が揺れて、ポン酢の香りが立つ。

社長は「これはこれでええな」と言いながら、ちょっと嬉しそうに食べる。

食事がひと段落したところで、さきちゃんは自然に話を広げた。

「社長って、普段どんな遊び方してはるんですか?」

社長は、ここぞとばかりに少し得意げになる。

「だいたい三人で遊んでな。焼肉か寿司行って、じゃんけんで負けたやつが金払う。

ほんで三人で飲みに行って、ボトルばんばん下ろして、ざくっと100ぐらい使って帰る。

そんな感じや。」

さきちゃんが「へえ」と相槌を打つ。

「女の子たちも喜ぶし、結構連絡もくれるんや。」

そこまで聞いてから、さきちゃんは首を少し傾ける。

「でも女の子たち、店選んだりしないんですか?」

社長は、きょとんとした顔になった。

「映える店言うたり、ランチで呼ばれたりはあるけど……それぐらいかな。

こんなふぐの料理屋とか、全然ないぞ。」

さきちゃんは、そこで少しだけ笑う。

「それ、ちょっと女の子の怠慢かもしれないです。」

「怠慢?」

「はい。大阪の私らからしたら、せっかく来てくれるんやから、できるだけ苦労させんように、

もてなしたいなと思うんで。Googleレビューとか食べログとか、めっちゃ見ますけどね。」

社長が、意外そうに笑う。

「大阪の子ら、そんなことするの?」

「普通にすると思いますよ。というか、少なくとも私らはするんです。」

そう言って、さきちゃんはふぐを一枚すくって、取り皿に置く。

「できるだけ、店に来る前の満足度を上げたいなと思ってるんで。」

社長はその言葉を反芻するみたいに、ふぐを噛みながら頷いた。

“来る前の満足度”。

そういう発想自体、あまりなかったのかもしれん。

「さすがに、このふぐのコースは満足するわ。」

「よかったです。」

そこからまた少し話して、さきちゃんはさらっと別の話題を出した。

「平日の夜とか、来てくれへんことも全然ありますから。

そんな時は、明るいファミレスでご飯食べて、そのまま店入るでも全然行きますけどね。」

社長は、本気で手を止めた。

「マジか。そんなん言ったら後で裏で悪口言われるやろ。」

さきちゃんは即答した。

「いやいやいや。裏で悪口言う女は、そらしょうもないですよ。」

その言い切り方が、妙に潔い。社長は少し笑うけど、ちゃんと耳は傾けてる。

「だって、その日その日の売り上げがちゃんと立てれるって、やっぱすごいことやと思うんです。

六本木とか銀座で人気の女の子やったら、また話は違うかもしれない。

でも、そうじゃないのに変なプライドで“こういう店連れてきてくれないと”

とか言ってる子見たら、私、鼻で笑ってまいます。」社長が吹き出す。

「言うなあ。」

「そんなもんより、日頃の1ポイントを上げた方がいいじゃないですか。

同伴でも、店外でも、なんでもいいけど、“来てもらう関係性”を作った方が強いと思うんですね。」

社長は、ふぐちりの鍋を見ながら、しばらく黙った。

東京では、金を払って遊ぶのが当たり前。女の子の機嫌を取るのが当たり前。

高い店に連れていくのが正解。

そういう前提が、さきちゃんの言葉で少しずつ崩れていく。

「……東京と大阪、全然空気ちゃうな。」

「違うと思います。」

「でも、こっちの方が、人間っぽいかもな。」

さきちゃんは、そこで初めて少し照れたように笑った。

「どうなんでしょうね。でも、私はこっちの方が好きです。」

そのあと二人は、余計な理屈を足さずに、ただうまいふぐをバクバク食った。

てっさも、ちりも、最後の雑炊までちゃんと旨い。

東京の遊びの話をしながら、大阪の飯を食う。

その温度差ごと、社長は今日の夜を持って帰ることになるんやろうな、とさきちゃんは思った。

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