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鯛飯の炊きあがりを待ちながらアルカちゃんが同伴してくれる社長のありがたみと東京大阪の認識のずれを指摘する

鯛飯が炊きあがるまでのあいだ、アルカちゃんはだし巻きを取り分けながら、

わりと淡々とした口調で続けた。別に熱弁してるわけじゃない。けど、言ってることは、

社長にとってたぶん新鮮やった。

「多分ですけど、大阪で北新地で言うたら、進撃のノアさん系のグループとかは、

六本木とか銀座の遊び方に結構近いと思うんです。」

社長が「ほう」と反応する。

アルカちゃんはそのまま話を繋げる。

「ボトルも、六本木銀座より半額ぐらいの感覚で開けられるじゃないですか。

だから、“東京でやってる遊び方を、そのまま大阪に横滑りさせる”みたいな発想は、

たぶんあると思うんです。安いから大阪でパカパカ開けて、女の子とワンナイト狙う、みたいな。」

社長が苦笑いする。

「うわ、言い方えぐいな。」

「でも、そういう横滑りって、あると思うんですよ。

ただ、そうじゃないキャバクラからしたら、話が全然違うんです。」

アルカちゃんは唐揚げをひとつ取って、ゆっくり噛んでから続けた。

「売上がパカパカ立つ店って、やっぱり限られてるんです。売れてる子と、

売れてへん子の差、めっちゃあるんです。で、売れてる子って、極端な話、“マクドナルドで

同伴してから店入るでもええよ”っていう子、全然いると思いますよ。」

社長が、そこで箸を止めた。

「……マジか。」

アルカちゃんは、ちょっと笑う。

「マジです。それぐらい、平日の夜に同伴って、結構むずいんですよ。」

「いや、こっちの感覚やと、同伴なんて当たり前の入り口やけどな。」

「そこなんですよ。」

アルカちゃんは、社長の顔を見て、少しだけ声を落とした。

「社長さんたちって、たぶん“同伴に来ること”の価値を、ちょっと忘れてるんです。

というか、認識ないんです。」

社長が「認識ない?」と聞き返す。

「そう。だって、普通に考えて、平日の夜って女の子も店入りあるし、化粧もあるし、

準備もあるし、体力も削るんです。それでも同伴ノルマとかあるから頑張って連絡して

埋めなあかんけどなかなか埋まらない。でも慣れてる社長さんって、そこを“行ってあげて当然”

みたいに思っちゃう。」

社長の顔に、ほんの少しだけ陰が差した。

アルカちゃんは、その変化に気づきながらも、止まらない。

「もちろん、売れてる子は売れてる子で、そういうのを軽く回すテクニックあると思います。

でも、普通の店、普通の子からしたら、同伴ってほんまにありがたいんです。

だから、ファミレスでも行くし、時間なかったらマクドでも全然ある。

“店に来てくれる”って、それだけで大きいから。」

社長は、だし巻きを口に入れたまま、少し考えるような顔になる。

東京での自分たちの遊び方。同伴の値段感。

“今日はどこ連れてく?”が、いつの間にかゲームみたいになってる感覚。

そういうものが、アルカちゃんの言葉で少しずつズレていく。

アルカちゃんはそこで、少しだけ笑って空気を緩めた。

「だから、私も“来てくれる人”への感謝はあるんです。もちろん、東京の人って

お手当て積んでくれること多いし、接待モードに入る時は、そっちに結構力入れるんですけど。」

「最近、東京多いんか。」

「多いです。ここ最近めっちゃ来てくれはって。だから、こっちも“接待します”の

モードに入って、できるだけ喜んでもらおうってやってるんです。

で、ちゃんとお返しももらうから、余計に“丁寧にやろう”ってなる。」

社長は、そこでふっと笑った。

「でも、マクドナルドで同伴でもええんか。それ、六本木銀座やったら絶対ありえへんぞ。

あとで女の子同士で、めちゃめちゃ悪口言われるわ。」

アルカちゃんも笑う。けど、その笑いは少しだけ寂しい。

「そうかもしれないですね。でも、それぐらい“来てくれる”ってすごいことなんやって、

向こうは忘れてるんです。というか、最初からそういう感覚がないんですよ。」

社長は、唐揚げにレモンを絞る手を少し止めた。

「……。」

「社長さんたち、結構軽く見られてると思いますよ。」

その一言は、アルカちゃんがさらっと言ったのに、妙に重かった。

責めてるわけでもない。東京の遊び方を否定してるわけでもない。

ただ、事実として置いた感じやった。

社長は、そこで初めて少しだけドキッとした。

自分たちは金を出してる。気を遣ってる。店も選んでる。

そのつもりやった。

でも、もしかしたら、“同伴してやってる側”やと思い込んでただけで、

向こうからしたら“来てくれるだけありがたい人”では全然なかったのかもしれん。

そのズレが、一瞬で胸に落ちた。

「……そんなもんなんかな。」

思わず出た声は、さっきまでの強気な感じより、少しだけ本音に近かった。

アルカちゃんは、そこでやっと笑顔を強めた。

「そんなもんやと思います。だから、せっかく来てくれるなら、私らは

“なんか返そう”って考えるんですよ。高いものじゃなくても、ちょっと驚くとか、

ちょっと嬉しいとか。そういうのの積み重ねで、また来たいなって思ってもらえたら、

それでええかなって。」

そのタイミングで、店の奥から、鯛飯が炊けた匂いがふわっと流れてくる。

社長は、その匂いと一緒に、自分の中の“当たり前”が少し崩れたのを感じていた。

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