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アルカちゃんの視点。鯛飯屋に社長を招待。東京でいいもんいっぱい食べてる社長に刺さるか?

アルカちゃんの方は、荷物をホテルに置かせてから、社長をタクシーに乗せて北浜の方へ向かった。

夕方の川沿いは、梅田とも新地ともまた空気が違う。ビル街やのに、少しだけ抜けがあって、

路地に入ると急に人の気配が柔らかくなる。

社長は窓の外を見ながら、最初に釘を刺すみたいに言った。

「まあ、先に言うとくけどな。高いもんは東京で、六本木や銀座の女の子らに、

もう見せてもらってるんで。」

アルカちゃんは、そこで嫌な顔ひとつせずに笑う。

「それはわかってます。だから、今日は高いもんじゃないです。違うもん見せます。」

社長が少し目を細める。

「ほう。」

タクシーが北浜の、少し路地に入ったあたりで止まる。

表通りから一本入るだけで、急に“知ってる人だけ来る店”みたいな顔つきの建物が増える。

社長は店の外観を見て、軽く笑う。

「こんな店、大丈夫か?」

アルカちゃんは即答した。

「大丈夫です。任してください。ここ、鯛飯屋です。」

社長が「鯛飯?」と少し意外そうな顔をする。

寿司でも焼肉でもない。そこだけで、もう一歩前に出てる感じがある。

アルカちゃんは暖簾をくぐりながら、さらっと続けた。

「もう先に言うてるんです。鯛飯、作りかけといてくださいって。」

「そんなことまでしてんの?」

「してます。やから、炊きあがるまでに、手早く食べられるもんでつなぎます。」

席について、メニューを開く前にアルカちゃんは店員に手際よく頼んでいく。

「ナスの煮びたし、だし巻き、鶏の唐揚げ。この辺、鉄板なんで先頼んでますわ。」

社長が笑う。

「おお、仕切り早いな。」

「いや、ここでダラダラ迷ってたら、せっかくの鯛飯の流れが死ぬんで。」

その言い方に、社長はちょっと面白そうにする。

東京の遊びでは、たぶんこういうテンポで女の子が店を回すこと自体が珍しいんやろう。

アルカちゃんは水をひと口飲んでから、わざと軽く聞いた。

「社長さんって、東京でどういう遊び方してはるんです?」

社長は、少し得意げに笑う。

「だいたい、三人で遊ぶ時はな。焼肉行くか、寿司行くかして、最後じゃんけんで

負けたやつが全部おごる。で、そこから店行って、ボトルなりシャンパンなり、

“文句あんなら開けてくれ”って言われるから、ざくっと百ぐらい使うかな。」

アルカちゃんは、顔には出さへんけど心の中で「でか」と思う。

でも額そのものに驚くんじゃなくて、そこから一歩踏み込む。

「額はすごいですけど……女の子たちが店選んで仕切るとか、しないんですか?」

社長は、むしろその質問に驚いた顔をした。

「そんなんするかいな。こっちが機嫌取ってやるのが普通やし。

で、それでうまくいったら、ワンナイトみたいなもんやろ。」

アルカちゃんは、そこでちょっと笑って首を振った。

「私のワンナイトはさすがに初見じゃないですけども。でも、女の子が何も決めずにやる、

って発想、私らあんまりないんですよ。」

「そうなん?」

「そうです。私と、さきちゃんと、ヒロコちゃん。東京からお客さん来る時って、

“接待します”みたいな感じで、もうこっちがもてなすんです。」

社長が眉を上げる。

「へえ。」

アルカちゃんは、ちょっと真面目な顔になって続ける。

「寿司と焼肉は、基本NGっていうか……NGじゃないですけど、東京で遊び慣れてる人ほど、

そこは散々やってるじゃないですか。だから、変わり種ないかなって結構探します。」

「そんなもんなんか。」

「そうなんです。だって、社長さんたち負担じゃないですか。女の子めっちゃ楽してません?

って、私は思っちゃうんですよ。」

その言い方に、社長は思わず笑う。

「いや、そら確かに、こっちが気ぃ遣って店も押さえて、って普通やからな。」

「だからそれ、私からしたら怠慢に見えるんです。ありがとうの気持ちがあるなら、

できるだけリーズナブルに抑えて、でも満足してもらえるものを出さなあかんやろって。」

だし巻きが来る。湯気が立って、少し甘い出汁の匂いがする。

アルカちゃんは箸を取りながら、話を切らさない。

「大体、社長さんが女の子と接待して、女の子が押さえる店って、寿司か焼肉が多いんです。

でも、そんなん東京にいっぱいあるじゃないですか。驚き、ないでしょ。」

社長は少し黙る。黙るってことは、多少は思い当たるところがあるんや。

アルカちゃんはそのまま畳みかける。

「こっちは“かましたろ”って気持ちあるんで。結構調べますよ。食べログもあるし、

Googleレビューもあるし。それで、“高くないのに面白い”を探す。

女の子の方がやらんの、怠慢なんちゃうかなって、勝手に思ってるんですけど。

……こっちの方が、発想おかしいですかね?」

社長は、箸をだし巻きに伸ばしながら、少し考える顔になる。

「うーん……どうなんやろな。」

その返事は、否定でも肯定でもない。でも、今までの“当たり前”がちょっと揺れた時の顔やった。

ちょうどその頃、ナスの煮びたしと唐揚げが来る。店の奥では、

タイ飯が炊ける匂いが少しずつ立ち始めていた。

社長はその匂いの方を見ながら、まだ少し考えている。

高いものは東京で見てきた。

でも、“高くないのにちゃんと考えられてる遊び”は、案外知らんのかもしれん。

アルカちゃんは、その間を急かさず、ただ軽く笑って言う。

「まあ、答えはあとでいいです。まずは鯛飯、食べてもらってから。」

社長は「それもそうやな」と笑って、やっと肩の力を少し抜いた。

北浜の路地の奥で、タイ飯が炊きあがるのを待ちながら、

東京の遊び方と大阪のもてなし方の違いが、じわっと卓の上に広がっていった。

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