金曜日の晩、東京メイン社長の視点。他の社長から呼び出される。先週大阪いってたやろwww
金曜日の夜。東京の三人組のメイン社長は、どうにかこうにか仕事を片づけて、ようやく
一息ついたところで、置いてけぼりにした二人から連絡が来た。
「飲もうぜ。」
断れる空気でもないし、そもそも断ったら余計に面倒や。
メイン社長は、少しだけ苦笑いしながら、テクテクと待ち合わせの店まで歩いていった。
席についた瞬間、二人の社長がもうニヤニヤしている。
「お前、先週どこ行っててん。」
「いや、勘弁してくれ。」
そう言いながら、メイン社長はグラスを取る。
乾杯して、一口飲んだところで、もう逃げられへんと観念した。
「……実は、大阪行ってて。」
二人が同時に「やっぱりな」と笑う。
「俺ら、めっちゃ寂しかってんぞ。」
「ほんまやで。なんでそんな一人で行くねん。」
メイン社長は少しだけ申し訳なさそうに肩をすくめた。
「いや、悪かったとは思ってる。でも……俺だけ刺さり方えぐかったやろ。」
二人が顔を見合わせる。そこは否定しづらい。
先週、明らかにこいつだけおかしくなってた。月曜に会社でお菓子会まで始めたって聞いてる。
「で、二人連れて行くのもちょっと違うなって思ってて。たぶん、そこに差はある。」
「その“差”って何やねん。」
「それが分からんから聞いてんねん。」
二人に詰められて、メイン社長はグラスを置いた。
「……ちょっと土日の話、正直に話すわ。」
その言い方に、二人も少しだけ姿勢を変える。ここからが本題や、と空気が変わった。
「まず、最初が天満や。」
「天満?」
「そう。大阪駅から一駅。で、着いて下に降りた瞬間に、日本酒一合3円とか、
マグロ一皿3円とか、ハイボール50円とか、意味わからん看板が並んでんねん。」
二人が「は?」と同時に言う。
「いや、俺も“は?”やった。悪いアルコールでも入ってんちゃうかって思ったぐらいや。」
一人が笑う。
「そんな世界あんの?」
「ある。しかも人入ってんねん。夕方やで?その空気をまず見せられて、
もう東京の真ん中で飲んでる感覚と全然ちゃうってなる。」
もう一人がグラスを持ったまま固まる。
「それだけで結構おもろいな。」
「おもろい。でも、そこに行くんちゃうねん。“この相場感、この街の雑多さ”をまず当てられる。
それが一発目の衝撃。」
メイン社長は、ちょっとずつ思い出してきたみたいに喋りが乗ってくる。
「そのあと、芋焼酎と鶏の立ち飲み屋行くねん。俺、正直、芋なんて黒霧ぐらいしか分からんかった。
でも、フルーティーなの、しっかりしたやつ、いろいろあるって説明されて。店員もちゃんとしてて、
相談しながら頼むわけ。」
一人が眉を上げる。
「で、うまいん?」
「うまい。しかも安い。いや“安い”っていうか、“この値段でこれ出してくるんか”やな。
鶏もうまいし、芋焼酎も、ただのアルコールじゃなくて“話のネタ”になってる。」
二人とも、さっきまでの“なんで一人で行った”のテンションから、だんだん“何それ”に変わっていく。
「そこまでか。」
「そこまでや。しかも、その場で終わらん。そのあと店行って、また話すねん。
で、店の中でも、ただ飲むだけじゃなくて、引き出しをバンバン開けてくる。」
「引き出し?」
「そう。こっちが何に反応したか、何に驚いたか、何が刺さったかを見ながら、
“じゃあ次はこれ”って感じで話を差し込んでくる。仕事の話にもなるし、価値観の話にもなる。」
一人が呆れたように笑う。
「お前、それ、キャバクラの話してるんよな?」
「してる。でも俺の感覚では、半分コンサルや。」
その一言で、二人が黙る。そこに嘘がないのが分かるからや。
メイン社長は続ける。
「しかも、次の日もや。朝から京都行って、モーニング行って、植物園回って、
昼に千円ランチ食って、最後ちょっと紅茶飲んで帰る。これ全部、“なんでそれがええか”
まで含めて渡してくる。」
「……うわ。」
「そんなことされたら、そら刺さるか。」
メイン社長は苦笑いした。
「俺もそう思う。だから、月曜に会社戻って、なんかそのままお菓子会やってもうたんや。」
二人が吹き出す。
「やっぱりあれ、ヒロコ案件やったんか。」
「そうや。で、その流れで、福利厚生とか離職率の話もして。奨学金返済肩代わりとか就労不能とか、
仮眠室とか。それを会社で調べたら、普通にリスク回避や採用効果で数千万浮く話になってきてる。」
二人が同時に「え?」ってなる。
「そこまでかよ。」
「そう。だから俺、正直、払った金額に対して、全然安かったと思ってる。」
一人が、もう完全に呆れた顔で言う。
「お前、それ、ドハマりやん。」
メイン社長は、少しだけ考えてから、素直に頷いた。
「うん。ドハマりやと思う。」
もう一人がグラスを置いて、前のめりになる。
「……ちょっと待て。それ、俺らも行かなあかんやつちゃうか。」
メイン社長は笑う。でも、その笑いの中には、少しだけ優越感もあった。
「せやから言うてるやん。“刺さる差”があるって。」
二人は悔しそうにしながらも、もう興味を隠せてなかった。
金曜の東京の夜のテーブルで、大阪の空気が、少しだけ混じり始めていた。




