表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

446/762

清掃会社社長の視点。博子、売れてなかったときに拾ってやったのになんやねん。

清掃会社の社長は、チェンジを入れてからも、腹の底のムカつきが収まらなかった。

フリーでついた女の子が気を遣って、ちょっと柔らかい話題を振ってくれても、正直もう入ってこない。返事はする。けど、気持ちは全部、さっきの博子とのやり取りに引っ張られていた。

――俺、なんぼ使ったと思ってんねん。

グラスを指で回しながら、頭の中でずっと同じ言葉が回る。

売れてない時に拾った。同伴もした。外にも連れ出した。

姫路も行った。飯も食った。気分ようさせた。

それで、ちょっとずつ仲良くなってきたと思ってた。

もちろん、嫁がおるから、どうこうしたいというところまで考えていたわけじゃない。

そこまであからさまな下心で動いてたつもりもない。けど、気が向いたら、

外でも付き合ってくれる子やったし、

「当たり引いたな」

「売れてない時に拾っといてよかったな」

ぐらいには思ってた。

それが、あんな切り方されるとは思わんかった。

社長の中でいちばん腹が立ってるのは、断られたことそのものより、

“価値が変わったから、あんたはもう違う”

みたいな空気を出されたことやった。

――東京のやつらが急にハマったからや。

――どうせたまたまや。

そう思おうとする。そう思わんと、やってられへん。

だって、急に札束で殴るような社長が現れて、

同伴も、外遊びも、何もかも相場が変わったみたいな顔をされるのは、

正直、屈辱やった。

「……ほんま、腹立つな。」

思わず口に出る。フリーでついた女の子が、少し困った顔で笑う。

「社長、そんな怒らんでも……。」

「いや、怒るやろ。俺、あいつが売れてへん時に拾ったんやで。

喜んでくれたらなんでもやった。俺は何やってんねん、って話やん。」

女の子は一瞬だけ言葉を探してから、慎重に返す。

「でも、博子ちゃんって、そんなに頻繁に店外しないですよ。

やったとしても、ご飯ぐらいで、あと結構ちゃんとお話して――」

「そんなんホンマと思ってんの?」

声が少し強くなる。女の子の顔が、あからさまに引く。

その反応を見て、社長はさらにイラつく。

なんでこっちが悪者みたいにならなあかんねん、という気分になる。

「暇やった時は遊んでくれてたんや。ほな今でも遊ぶの当たり前ちゃうんけ。

拾ってやったんやから。」

その言葉を口に出した瞬間、自分でも少し古いと思った。でも、もう引っ込みがつかない。

女の子は気まずそうに笑って、視線をそらす。会話にならん。空気は完全に死んだ。

そこに黒服が入ってきた。何となく全部察した顔で、柔らかく間に入る。

「社長、まあまあ。今日はワンセットで締めましょか。」

社長は舌打ちまではせんけど、鼻で笑う。

「……ああ、もうええわ。」

黒服は、さらに事務的な声で続ける。

「博子ちゃんは、これでNGになりますので。また別の女の子、

よかったら一からになりますけど、次もよろしくお願いします。」

その言い方が、妙に癪に障る。“次もよろしく”って、誰が来るか。

「誰が来るか。」

黒服は「まあまあ」と笑うだけや。

社長はもう、それ以上話す気もなくなっていた。

店を出る支度をしながら、頭の中ではまだ博子の顔がちらついている。

あの冷めた顔。線引きする声。

「帰ってもらえませんでしょうか」

あれは、かなり効いた。

――けど、これもありかな。

そう思う自分もいる。今は向こうが調子乗ってるだけや。

東京のやつらがたまたまハマって、たまたま札束で殴ってきてるだけ。

いつまで続くか分からん。売れてる時は、みんなそうや。

ちょっと相場が上がったら、すぐ勘違いする。

――どうせ、そのうち頭冷やすやろ。

――また同伴してっくれって言ってきたら、その時は考えたらええ。

今度こそ、外で何かやってもええかな。そう思わんでもない。

でも、今はちゃう。今はとにかくムカつく。かなり屈辱的なことされた。それだけは事実や。

店の外に出ると、夜風がちょっとだけ冷たかった。

社長はジャケットを肩にかけながら、最後に黒服へ言った。

「本当に売れなくなった時には、助けてやらんぞって、あいつに伝えといてくれ。」

黒服は曖昧に笑って、「はいはい」と流す。たぶん、まともには伝えへんやろう。

でも、それでいい気もした。言わんと気が済まんかっただけやから。

タクシーを拾って乗り込む。

ドアが閉まる瞬間まで、社長の腹の底には、まだ熱が残っていた。

けど本人の中では、自分は悪くない、という結論で、もう片付いていた。

拾ってやった。金も使った。外にも連れ出した。それであんな切り方される方がおかしい。

そう思いながら、社長は窓の外を見た。

夜の街が流れていく。腹は立つ。でも、女なんかまたどっかにおるやろ。

遊んでくれるやつも、そのうち引っかかる。

そう自分に言い聞かせながら、タクシーは闇の中へ走っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ