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清掃会社社長と店に向かう。社長は博子のご機嫌うかがうも、博子は外遊びができる女であっただけ。という扱いに気づき冷める

店に向かう道すがら、清掃会社の社長はやたらと機嫌がよかった。

歩くテンポも軽いし、声も明るい。こっちの顔色を見ながら、

先回りして場を柔らかくしようとしてくる。

――あ、これ、ご機嫌取りやな。

博子はそう思った瞬間に、ちょっとだけ冷めた。別に機嫌を取られること自体が嫌なわけじゃない。

でも、その“取り方”に中身がない時、人は一気に見えてしまう。

弁護士先生や、おじいちゃんは違う。

月曜と水曜。

あの二人が来てくれるのは、もう枠として決まってる。でも、それが全然嫌じゃない。

むしろ、安心する。

それはたぶん、昔から自分を見てくれてたからや。

売れてない時も、暇やった時も、何も形になってへん時も、ちゃんと“博子の中身”を見てた。

喋り方。ちょっとした発想。物の見方。座組を組む時の妙な勘の良さ。

そういうところを面白がってくれてる。

弁護士先生は、半分ガチ恋、半分座組。

たぶん、気持ちはある。でも、それ以上に、博子と喋る時間の温度とか、緩さとか、

段取りの美しさみたいなものをちゃんと見てる。おじいちゃんなんか、もっとわかりやすい。

あの人は「博子のそういうところがええ」と、もう最初から言葉にしてくれてる。

だから、枠で抑えてても、窮屈じゃない。

大事にされてる感じがある。

“時間”として求められてるんやなくて、“博子”として求められてる感じがある。

でも、清掃会社の社長は違う。この人は、外遊びありきや。

どっか行こう。旅行行きたいな。姫路城また行きたいな。

次どこ行ける?そういう話ばっかり。

もちろん、それが全部悪いわけじゃない。売れないキャバ嬢を拾う側としては、

そういう“外”を餌にして関係を作るのは、普通にある。むしろ博子自身、その構造は痛いほど分かる。

前の博之の自分やったら、もっと分かってた。売れない子に対して、ちょっと無理を言う客。

仕事以上を求めて、同伴の先、アフターの先、店外の時間まで欲しがる。

その“要求の伸ばし方”が、もうそのままや。だからこそ、余計に嫌なんやと思う。構造が分かるから。

「あ、この人は今、女の子そのものじゃなくて、“便利な遊びの導線”を欲しがってるだけやな」って、

見えてしまう。

売れない博子を拾ってくれてた時は、それでもよかった。

こっちも暇やったし、外で時間を使うことで価値を作れた。旅行でも、外遊びでも、

動けば動くほど関係が太くなる時期やった。

でも、今は状況が変わった。

東京メイン社長や、東京イキリ社長が、札束でどんどん価値を上げてきた。

店の中の値段も変わった。店の外の時間の意味も変わった。

同じ一日でも、ただの同伴やアフターやなくなってる。“気づき”を渡す時間。

“体験”を設計する時間。そういうものとして見られるようになった。

つまり、博子の相場が変わったんや。

もちろん、昔から大事にしてくれてる人は大事にしたい。そこは変わらん。

義理もあるし、情もある。でも、それと「外遊びしてくれる女の子が欲しいだけの人」を

同じ枠で扱うのは、もう違う。

清掃会社の社長は、たぶん博子を大事にしてるんやない。“外遊びしてくれる女の子”を

大事にしてるだけや。その役割を博子がたまたまやってただけ。

よくよく考えたら、この人とは中身の話をあんまりしてない。何かに気づいたとか、

考え方が変わったとか、そういう会話は薄い。話す内容といえば、次どこ行くか。

旅行行けたらええな。また外で遊べたらええな。そればっかり。

ということは――それがなくなったら、会話のネタもなくなるんちゃうか。

そこまで考えたところで、博子はちょっと怖くなった。怖いというか、腑に落ちた。

「ああ、この人、もう切ってもええかもしれんな」

すぐに切るとか、今夜で終わりとか、そこまで荒い話ではない。

でも、少なくとも“守る枠”の人ではない。無理して残す人ではない。

そこは、はっきりしてきた。

大事にしたいのは、“博子そのもの”を見てくれる人や。外遊びがなくなったら薄くなる関係は、

結局どこかで終わる。だったら、自分から線を引いた方がましや。

店の看板が見えてきた。社長はまだご機嫌そうに何か喋ってる。

でも博子の中では、もう一段階、距離ができていた。

楽やと思ってた。でも、あれは楽やなくて、安く見られてただけかもしれん。

そう思うと、少しだけ寂しかった。でも、その寂しさよりも、納得の方が大きかった。

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