税理士先生の接待したい相手は顧問の弁護士先生。軽く来週以降の金曜日に予定組もう
税理士先生が「ほな、誰呼ぼうかな」って軽く言った時、博子は内心ちょっと身構えた。
“東京の社長三人”みたいな圧は、今いらん。火種になる。
でも、返ってきた名前が意外にまっすぐで、博子は肩の力が抜けた。
「顧問の弁護士先生や。」
ああ、なるほど。“札束で殴る”というより、“話を回す”側の人や。空気も読める。
場の設計も分かる。横で聞いてたアルカちゃんが、小さく「安心案件やな」って
目だけで言ってくる。博子は頷いてから、税理士先生に噛み砕いて返す。
「それやったら、入口は作りやすいですね。弁護士先生、キャバキャバしたノリも
嫌いちゃうなら、さきちゃん合うかもしれません。」
税理士先生がニヤッとする。
「せやな。あいつ、見た目より俗っぽいとこあるからな。」
博子はそこで、一回だけ“線引き案”を出した。深くしすぎない。あくまで“試運転”の形。
「よければ、同伴は別々で。私らは“遊びの設計”も別々にやります。で、店で合流して反省会。
“何が刺さったか”“どこで空気変わったか”だけ共有する感じでどうです?」
さきちゃんが不在でも、名前を出しておくことで“チームの形”は守れる。
アルカちゃんもその意図を察して、黙って頷いた。
税理士先生は、あっさり笑った。
「ええやん。でもまあ、これは遊びの延長や。接待ゴルフみたいなもんやし、軽くやろや。」
その一言で、博子の中の緊張がほどけた。
“期待値のコントロール”を、相手が先にやってくれるのはデカい。
「ありがとうございます。軽くやりましょ。軽く…言うても、最低限の段取りは組みますけど。」
「それでええねん。」
博子は、頭の中でカレンダーを一枚めくる。今週の金曜は、清掃会社社長の同伴で埋まってる。
そこは動かさへん。だからこの座組は、来週以降の金曜でしか入らん。
「じゃあ、金曜日——いや、今週は無理なんで。来週以降の金曜で、空いてるところ押さえます。
時間と集合は、私から改めて連絡します。」
「頼むわ。」
そこから先は、もう雑談でいい。二セット目が終わる頃には、
卓のテンションも“仕事の相談”じゃなくて“遊びの予定”になっていた。
席を外したタイミングで、同じ卓にいたアルカちゃんが博子のところに寄ってくる。
声は小さめ。けど、表情は軽い。
「博子ちゃん、ありがとう。“弁護士先生”って聞いて、ほんま安心した。
来週以降の金曜なら、こっちも心の準備できるし。」
博子は笑って、軽く肩をすくめる。
「こっちこそ。変に尖らせたら、後が面倒やからな。“軽く”って言うてくれる人、
今いちばん助かる。」
アルカちゃんは「わかる」と頷いて、また卓に戻っていった。
博子はフリーの卓に座り直して、氷の溶ける音を聞きながら思う。
――来週以降の金曜は、うまい“練習試合”になる。
土日の本番の前に、チームの呼吸を揃えるには、ちょうどいい。




